【あのひとの子育て】tupera tupera〈後編〉「楽しい」は教えなくても伝わる
ライター 片田理恵
写真 神ノ川智早
夫婦として、仕事のパートナーとして、8歳の長女と3歳の長男の父と母として、ともに歩む。tupera tupera(ツペラ ツペラ)の亀山達矢さんと中川敦子さんに、おふたりの子育てについてお話しを伺っています。
絵本やイラストレーションを制作するという仕事は、子どもたちの成長や家族の過ごし方にどんな影響をもたらすのでしょうか。
お父さんとお母さんの得意技その1 切ること
亀山さんと中川さんの得意技のひとつは「切ること」。前編でも触れたハサミを使ってあっという間に切っていきます。
見てください、この出来映え。
白い紙を半分に折って、下書きも何もせずにお互いの顔を作ってみせてくれました。tupera tuperaの作品とは手法もテイストも違いますが、「切ること」の圧倒的な技術の高さはよくわかりますよね。
中川さん:
「でも、これができるからといってなんでも器用につくれるわけではないですよ(笑)。娘の髪の毛を結ぶのとかすごく苦手ですし……。
今回、私の得意技ってなんだろうと娘に聞いたら『センス』だと言ってました。主に洋服のことだと思うんですけど、ちょっとびっくりしましたね(笑)。以前は私が選ぶものにことごとく反発して、全身ピンク一色!みたいな時期もあったんですけど、今は一週まわってシンクロ率がわりと高いみたいです」
お父さんとお母さんの得意技その2 描くこと
もうひとつは「描くこと」。
tupera tuperaの人気絵本『うんこしりとり』に登場したこの形、見覚えがある方もいるかもしれませんね。
2本入った陰影がより立体的にユーモラスに見せているわけですが、この線、鉛筆と指と白い紙で作り出しているんです。濃い鉛筆を紙の余白に塗り、そこを指の腹でこすって、白い紙を定規のようにあてて、ぼかしながら色をつければ完成。
亀山さん:
「こうやって子どもたちにもいろいろ作ったり、すごくがんばって子育てしていると思われがちなんですが、実はそうでもないんです(笑)。おもしろいことはやりたいけど、無理はしない。
娘は僕の得意技は『料理』って言ってました。プロ並みにうまいとかではないですけど、自分なりにアレンジしてつくるのは好きなんですよね。牛肉のしぐれ煮を牛の形のおにぎりにして、顔もちゃんとつけて、キャベツの千切り草原に並べるとか」
「本を作ること」は遊びのひとつ
夫婦の得意技の片鱗は子どもたちにも脈々と受け継がれていました。
上の写真は8歳の長女・トリコちゃんの作品で、タイトルは「チョコレイトの本」。本を出版する際、出来上がりのイメージとしてつくる束見本という真っ白い本がありますが、これはその束見本に色鉛筆とサインペンで絵とストーリーが書き込まれたもの。最初から最後までページの抜けもなく、毎日少しずつ描いてつくったという力作です。
下の写真はトリコちゃんと、3歳の長男・ハヤタくんがつくった「かおノート」。
tupera tuperaの代表作のひとつであるこのシリーズは現在第3弾のモンスターバージョンが発売中で、ハヤタくんも夢中になって遊んでいるそう。
表情を工夫するだけでなく、ひとつひとつのかおに名前をつけたりしていてユニークです。
こんなふうに子どもたちは、自分なりの本づくりを自然な遊びのひとつとして実践している様子。普段お父さんとお母さんがやっていることが楽しそうに見えるからこそ、なのだと感じました。改まって教えなくても子どもたちはちゃんと見ているんですよね。
ひな人形と五月人形は一族総出でつくる、のススメ
tupera tuperaが自分の子どものためだけにつくったというレアな作品を見せていただきました。それがハヤタくんの五月人形。プロが全力でつくっただけあってさすがの完成度、ただもう「すごい、かわいい!」のひと言です。
兜は「ハヤタ」の頭文字である「H」がモチーフ。脇差しは名を名刀亀丸といい、ちゃんと鞘から抜けるようになっていました。専用の台座と足置きマットも付いて、収納用の白木の箱はなんと亀山さんのお父さんのお手製だとか。
亀山さん:
「もともとはトリコのひな人形から始まったんです。両親が買ってくれるって言うんだけど、メーカーの規格品はいらないなぁと思って断ったんですね。そうしたらつくっちゃった(笑)。父親が木材でひな壇をつくって、母親が布で人形を縫って。次は敦子のお父さんが色紙、お母さんが陶器のおひな様……と続いて、ならば我々もやらねば!ということで、僕らも3段飾りをつくりました。
ハヤタの時はすでに暗黙の了解ができていて、兜とか鯉のぼりとか五月人形とか、みんなの作品が被らないように何をつくるか話し合ったりして」
中川さん:
「作品にそれぞれの気持ちがこもっていて、すごくいいんですよね。飾るときの気持ちもいいし」
亀山さん:
「これはオススメです。子どもが生まれたら一族みんなでお祝いの人形をつくるというのを慣習にする!うまくなくてもいいんです。つくる楽しさも、飾って見る楽しさも、子どもにはちゃんと伝わるから」
これからしたいのは家族4人での海外旅行
最後にこれから家族でやってみたいこと、やりたい遊びを夫婦でミーティングしてもらいました。
亀山さん:
「海外旅行したいよね。4人になってから全然行ってない」
中川さん:
「したい!ハヤタもだいぶ長距離移動ができるようになってきたし」
亀山さん:
「リゾートホテルでのんびりしたい……」
中川さん:
「北欧行きたい……」
亀山さん:
「温泉もいいね。でも着くとすぐ帰りたくなるんだよな(笑)」
中川さん:
「海外じゃないじゃん(笑)」
「あれ?」も「やっぱり!」も、子育てはどっちもおもしろい。
中川さん:
「よく『宿題したの!?』って怒ってます。そんなのび太のママみたいなことをまさか自分が言うようになるとは思わなかったけど(笑)、気づいたら毎日のように言ってる。でも、やってないと本人があとで困るしね」
亀山さん:
「飽きっぽいんです。僕も、子どもたちも。クリスマスにリカちゃんの回転寿しのおもちゃがほしいっていうから買ったんですけど、遊び始めて5分後にはもう寿司はひとつもなくて、なんか違うものが回ってた(笑)」
私ってこんなことも言うんだ、という新鮮な驚き。何気ない出来事を通して自ずと見えてくる自分自身。似ているようで似ていない、でもやっぱり似ている親子の姿。
子育ての日々には次々と新しい変化が訪れます。それに戸惑うことなく、笑顔で受け止めようとするtupera tuperaのおふたりの姿勢がとても印象的でした。
自分の「好き」や「得意」を子育てに生かしたいと感じているお父さんやお母さんはきっとたくさんいると思います。でも、無理はしない。まずは肩の力を抜いて自分が楽しむ。亀山さんと中川さんの言葉は、そんなふうに聞こえてきませんか?
「あれ?」も「やっぱり!」も、正解がないからこそのおもしろさ。それを感じられらときにはもうきっと、自分らしい子育ての扉って大きく開いているんでしょうね。
(おわり)
tupera tupera
亀山達矢と中川敦子によるユニット。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、舞台美術、アニメーション、雑貨など、さまざまな分野で幅広く活動している。京都造形芸術大学 こども芸術学科 客員教授。http://www.tupera-tupera.com/
ライター 片田理恵
編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。
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