
北欧、暮らしの道具店で、これまでもエッセイ・インタビュー記事を綴ってこられた大平一枝(おおだいら かずえ)さんから、とある春の日、こんなエッセイが届きました。
(この記事は、「ナチュラルサイエンス」の提供でお届けする広告コンテンツです)

小さな部屋でラジオの仕事を終え、肌の手入れの雑談になったとき、ふと私の手に目を留めた女性が言った。「よかったら、これ」。
何やらバッグから取り出し、キャップを開ける。ベビーミルキークリームとある。お借りして、私は手の甲に、いきなりすり込もうとした。
「ううん、まず甲に、このくらいのっけてね、五本の指先にチョンチョンってつけるの」。
甲をパレットがわりにして、1.5センチほどチューブから出し、指先に分配していく。彼女は左手で私の手を取り、右手で、指を一本ずつ優しくもむようにていねいにクリームでなじませていく。
ふわんと心がゆるむような、なんとも言えない心持ちになった。
長年、水仕事やらパソコンやら、酷使しながらほとんどなにもいたわっていない乾燥した私の手。なにもかまってあげていなかったな、不器用なりにこの手もずいぶんがんばってきたのになと、不意に愛おしくなったのだ。
もう片方の手を、教えられたとおりに自分で塗ってみる。あらためて見ると、カサカサして、皮膚もどことなく厚くて硬い。そんなふうに私に見られることがなかった指は、一本一本大事にクリームで覆われ、なんだか喜んでいるような……。

ほんの短い時間のできごとだが、ほっとする初めての感覚だった。
繊細な赤ちゃんの肌のために作られたもので、ハンドクリームでもないという。
赤ちゃんの肌と、何十年も生きてきた私の肌。その両方に使えるとはどういうことだろう。
と、その女性は、自分用に携帯していたクリームを「使いかけで申し訳ないけれど、朝晩塗ってあげてくださいね」と差し出した。
うるおいを忘れかけている私の肌に、どうにか良くなってもらいたい。その一心なのだと、まなざしから伝わる。
それがナチュラルサイエンスとの出会いだった。一年前の春のことだ。

肌は不思議だ。
手をかけたら必ず時をおいて応えてくれる。たとえば夜、あるいは翌朝に。朝、ケアをしたなら日中に。塗った日と塗らない日の、肌のやわらかさが違うことに気づき、顔や首元にも目がいくようになった。
ベタつくのが嫌で、気が向いたときしか使わなかった乳液をチョンチョンと顔に乗せ、薬指でなじませてみる。
すうっとなじむ。香りも、覆われるような厚苦しさもない。あれれ、嫌じゃない。
そう、手だけではなかったのだ。顔は、メイクこそ一生懸命動画を見たり、新製品を試したりするけれど、手入れはおざなりだった。
太陽や風や乾燥や埃に毎日さらされているのに、もう長いこと、適当に身についたルーティンを疑うことも見直すこともしてこなかった。乾燥するし、季節の変わり目にはゆらぐし、ちょっとした刺激にかゆみが出るほど敏感なのに、そもそも、じっくり自分の素肌と向きあうこともあまりない。
乳液、保湿クリーム、アイクリーム。ひとつずつ、ゆっくり日々の手入れに足していった。だんだん朝晩、洗面所に立つ時間が長くなった。そのうちもっときれいで鮮明な鏡が欲しくなり、それも新調した。
顔は手以上に、ケアしたらした分だけ応えてくれる実感が大きい。
こうして、私のスキンケア全体の習慣が少しずつ変化していったのである。

もうすぐ一年が経とうとしている今は、よくわかる。
世界一繊細と言われる赤ちゃんの肌のために作られたものだからこそ、私のように悲鳴を上げていた大人の肌にも使えるのだ。
自身もアトピーに苦しみ、次男のアトピーをなんとかしたいと、門を叩いた皮膚科で、小児の皮膚を専門に研究する医師と出会った。
自分や子どもたちのように悩んでいる人はきっとたくさんいる。ないなら自分で作ろう。
私の荒れた手を見て思わずクリームを差し出した女性、小松令以子さんがこうして薬剤師の仲間とふたりで始めたのが、ナチュラルサイエンスだ。
赤ちゃんの肌を基準に考えたスキンケア「ママ&キッズ」は、敏感肌に寄り添い続け、今年で30年になるという。
大学で化学を学び、その後化粧品開発を経て、我が子のアトピーを機に立ち上がった彼女は、医師らと共同で皮膚理論を学ぶところから始めた。ひとつの保育園に15年間通い続け、現在も調査を重ねている。同時に、スキンケア指導で全国を飛び回ってもいる。
しかし30年目の今も「まだ肌荒れやアトピーの子が減らない。それが悔しい。まだまだやることがたくさんあります」と熱をこめて語る。

私は更年期を経て、ナチュラルサイエンスと出会った。
乳液や保湿クリームを知らなかった私の肌に触れたときの感触の変化に、大人の肌育ては一生ものだなあと感じる。
子どもも生まれてからすぐ始められればいいが、そうできなかった子もいるだろう。おそらく、何歳からでも「遅すぎ」はない。
じつは、今頃、肌を育て始めた私がいちばん思うのは、スキンケアの重要性ではなく、肌をいたわるちょっとした時間って嬉しいし、楽しいことだなというシンプルな実感である。多幸感といってもいい。この満ち足りたあたたかな気持ちは、きっと肌のふれあいを通して赤ちゃんにだって伝わるだろう。
スキンケアという所作には、親子なら通い合う心、大人なら頑張っている自分へのねぎらい、エールといったゆたかな時間が内包されている。
そう気づいたのは、指を一本ずつていねいにクリームを塗った瞬間、肩の力が抜け胸の奥がゆるんだ。あの心地よさが原点にある。
エッセイ内に登場する乳液
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【写真】井手勇貴
大平一枝
エッセイスト。長野県生まれ。編集プロダクションを経て1995年独立。著書に『東京の台所』『こんなふうに、暮らしと人を書いてきた』(平凡社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)、『ふたたび歩き出すとき 東京の台所』(毎日新聞出版)、『注文に時間がかかるカフェ』(ポプラ社)ほか。一男(29歳)一女(25歳)の母。
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