【フィットする暮らし】第1話:兎村さんはどうやって「自分の嫌なところ」を変えたんだろう?
編集スタッフ 塩川
写真 木村文平
「今の暮らしは、自分にフィットしているなぁ」
わたしたちが心からそう感じられたとき、きっと他人のモノサシではない“自分” の基準で選びとったスタイルがあるのだと思います。
シリーズ「フィットする暮らしのつくり方」は、そんな自分らしく心地いい暮らしをつくっておられる方を取材し、暮らしのヒントをお届けする読みものです。
vol.12となる今回は、イラストレーター&アートディレクターの兎村彩野(うさむら あやの)さんに登場いただきました。
わたしが兎村さんを知ったのは、とあるwebメディアの記事を読んだ時のこと。
片付けが苦手で、遅刻癖がある。そんな自分の「嫌なところ」を、30代になってから3年かけて矯正したそうです。
大人になってから自分を変えるのは、なかなか難しいことではないでしょうか?
わたし自身も変えたいと思っていることはありますが、きっかけがつかめなかったり、重い腰が上がらなかったり……。
そんな自分を「ダメだなぁ」と感じても、モヤモヤしたまま結局は何か理由をつけて、変われないことが大半です。
兎村さんがどうやって自分を変え、今のフィットする暮らしを作っているのか。その根っこを全4話で探っていきたいと思います。
もくじ
第1話:兎村さんはどうやって
「自分の嫌なところ」を変えられたんだろう?
1話目では、兎村さんの今の暮らしにフォーカスを当てていきます。
17歳からイラストレーターとして活躍する兎村さんは、3年前に都心から1時間ほど離れた、神奈川県の鵠沼海岸に移り住みました。
海辺で暮らしたい。そんなこだわりがあったのかな?と思いきや、夜中に仕事を終え、そのあとは友人とお酒を飲みに行ってしまう……。そんな不規則な生活サイクルを変えるため、都心から離れて暮らしたいと感じたのが一番の理由のだそう。
兎村さんがはじめてこの部屋に訪れた時に、富士山と江の島が見える心地よさも背中を押し、引越しを決めました。
「働きながら暮らす、暮らしながら働く」を実験する家。
イラストレーター&アートディレクターとして働いていた兎村さん。この家で暮らすようになってから、クリエイティブユニット・TO2KAKU(トニカク)として、ご主人と一緒に仕事をはじめました。
2LDKのご自宅は、キッチン・リビングと隣あう仕事部屋の仕切りを取り払い、3つの空間をひとつなぎに。寝室はゆったりと眠れるよう個室になっており、プライベートが保たれています。
兎村さん:
「家で仕事をしているので、働きながら暮らす、暮らしながら働くを、どうやったらバランスよくできるんだろう……というのを、常に実験しているんです。
少数民族の村に遊びに行った事があって、そこで学んだのは、食べること寝ることが中心にある、原始的な人間の暮らしでした。
人間はご飯を食べて生きているから『食べると働く』を分けない方が、暮らしやすいんじゃないかなと感じて、この家にたどり着きました。
キッチンが家の真ん中にある間取りを、賃貸住宅で探すのはすごく難しいんですよ」
リビングは「仕事と暮らし」をゆるやかにつなぐ
キッチンと仕事部屋をつなぐリビング。そこにあるテーブルはご飯を食べる「食卓」でもあり、書類を書く「事務室」でもあり、ものをつくる「図工室」にも変化します。
兎村さんは持ち運びのできるツールボックスに画材道具を収めており、絵を描くときはテーブルに移動して作業をするそう。
働きながら暮らすことは、見方を変えればオンとオフの境目がなく、ずっと仕事のことが頭から離れないようにも思えます。
兎村さん:
「決められた時間に何かするのが苦手で、会社員にはなれないと10代の頃から思い、フリーランスを選びました。
こういう働き方だから、天気が良ければ散歩に行きたいし、雨が降ったら日曜日だって働けばいいんじゃないかなと思っているんです。
ずっと何かを作っていたいし、作ることは苦じゃないんですよ」
やわらかな自然光が差し込み、仕事と暮らしが溶け込むような「働きながら暮らせる家」は堅苦しさを感じません。
この空間でなら、頭を柔らかくして「ものを作る毎日」に向き合えると思いました。
仕事も家事も分けあう「得意な人がリーダー」に
夫婦で働く兎村さんは、クライアントからの依頼に合わせて話し合い、得意な人がリーダーとなり、もう一方がサポーターとして補佐をする。そんな役割分担しながら、ものづくりをしています。
ご主人が得意としているのは、書籍や紙などのグラフィックデザイン。兎村さんが得意としているのは、イラストとwebのデザイン。
そして双方ともにアートディレクションができるので、リーダーが全体のイメージを作り指示を出していきます。
▲こちらのフリーペーパーは、ご夫婦で作ったもの。ご主人がリーダーとなり、兎村さんはサポーターとして地図やイラストを描いています。
家事も同じように得意な方がリーダーとなり、ルールや進め方を決めて作業を分担をしているそう。
そして仕事や家事の量はどちらかに偏らず、できるだけ同じくらいになるよう、話し合いながら調整しています。
最近までは兎村さんが食事を作るリーダーでしたが「夕食は二人で作った方が早いね」と気づいてからは、仕事のめどがついたら一緒にスーパーに行き、台所に立つようになりました。
その姿を見てわたしは、お互いが協力をしあい、バランスのとれた兎村さんの暮らしに憧れを抱きました。「話し合う」そんな簡単なことが、意外とできていないなあと感じているからです。
「時間がとれない、嫌われたくない」と、話し合うことを避けていくうちに、どんどん不満が溜まってしまう。それはわたしが抱えている、悩みのひとつです。
今の「フィットする暮らし」ができるまで……
今でこそすっきりと片付いた兎村さんのご自宅ですが、3年前までは「物があふれ床の見えない、映画のセットのような部屋で暮らしていた」と語ります。
当時はまだ恋人だったご主人と一緒に住むことをきっかけに、お互い影響を与えながら物を断捨離し、整える暮らしに変わっていきました。
そして兎村さんはご主人と出会う前に、一度離婚を経験しています。過去の事に全く興味がないと話していましたが、この時はじめて人生を振り返ったそう。
2話目では人生の大反省会で、兎村さんが気づき学んだことに迫ります。
(つづく)
もくじ
TO2KAKU 兎村彩野
(イラストレーター&アートディレクター)
1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始し、17歳でフリーランスになる。現在は夫婦2人のデザインユニット TO2KAKU(http://to2kaku.com/)として、誰かの「作りたい」気持ちをカタチにしている。
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