【ドジの哲学】これはまずい、遅刻…!?と、焦ったのだが

文筆家 大平一枝

06_寝坊


ドジのレポート その5
やってはいけない遅刻


 
 人生でこの日だけは絶対寝坊してはいけないだろうというときに限って、寝過ごてしまう。ドジな人間というのはたいがいそういうもので、この人は割るかも知れないなと周囲からも思われているとそのシンパシーを感じるのか、絶対割ってはいけないグラスなどを決まってガチャンとやる。
 
 自分が子どもの頃は一度もないのだが、恥ずかしいことに、自分が母親になってから子どもを遅刻させたことが幾度かあり、そのうち絶対やってはいけない日にやってしまったことが一度ならず二度もある。ドジというのはどうして、喉元過ぎると熱さを忘れてしまうものなんだろう。
 一度目は息子の高校時代、在校生代表で送辞を読む卒業式に寝坊をした。(息子はなんとか、式に滑り込んだ)。
 二度目は、娘の中学時代、中間テストの一時間目に起きた。
 
 もちろん、子どもは目覚ましで自主的に起きるべきである。我が家もそうしている。だがたまたま子どもは目覚ましを止め、夫も私も止め、四人が二度寝。「お嬢さんが登校していません」という学校からの電話で飛び起きた。
「す、す、すみません!今起きました!一時間目のテストはなんですか」
「社会です。20分を過ぎると自動的に赤点になります。間に合いますか」
「間に合いません。先生、なんとか再試験を受けられませんか?」
「試験を終えた生徒から問題を聞いてしまう可能性があるのでむりです」
「教室に行かず、保健室で受けるというのは?」
「病気ではないのでむりです」
 そこをなんとかと、電話を切ろうとする先生になおもすがりつく。
 先生は、小さく一つ呼吸をしたあと、低く落ち着いた声で小学生を諭すようにゆっくり言った。
「お母さん、決まりですから」
 穴があったら入りたくなったのは言うまでもない。

 なぜ今回書いたかというと、じつは今朝、私は寝坊してたからだ。起きたら8時半。娘の授業は8時20分からで、今週は連日、ダンスの練習で7時に登校している。すわ、遅刻と娘の部屋に飛びこんだら、もぬけの殻だった。自分で起き、淡々とシリアルを食べ、弁当がないので家族の貯金箱から五〇〇円玉を取り、さっさと登校していた。
 抜け殻のようなベッドを見て、こんな親ですまないと心の中で詫びた。

 
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文筆家 大平一枝

長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。

▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」

 


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