【ドジの哲学】母と娘。家族だからこそ、イラっとしてしまうときは
文筆家 大平一枝
ドジのレポート その12
怒りは笑い返しで
正月を長野の実家で過ごした。息子は海外、夫は亡父の整理で自分の実家へ。家族ばらばらで、初めて私は娘とふたり、実家で四日間を過ごした。
実家の母は年のせいか、おしゃべりにさらに拍車がかかり、朝から晩まで話しっぱなし。テレビを見ていても「犯人は誰なの?」「この人、この間ワイドショーに出てた」と、止まらない。
この傾向は私の幼い頃からあって、テレビのボリュームを上げると「うるさい」と怒られた。自室にテレビなどない。思春期はそんな些細なことが、イライラの原因になった。静かにテレビを見たいと心の底からひとり暮らしに憧れた。
そのため、家から独立さえすればなにもかもが解消されると思い込み、遠い街の短大に進んだ。
さて先日の帰省の話である。娘は好きなタレントの出る番組を端からチェックしている。ふだん部活に遊びに宿題に慌ただしく、テレビを存分に楽しめないので、ここぞとばかりに朝から茶の間のテレビ前を陣取っている。
父と母は相変わらずおしゃべりが止まらない。耳が遠くなったのか、声もやたらに大きい。
夕方頃だろうか。母が娘に何十回目の質問をした。
「あの人、〜〜なんだよね」
内容は忘れたが、見ればわかる当たり前のことを新発見のように娘に教える。私は危うく、これみよがしに舌打ちをするところだった。すると、娘は千鳥という好きなお笑い芸人の岡山弁を真似て
「それはもう知っとるんじゃあ」
と、答えた。
わははと笑いがはじけ、母も「あら、そう。知ってるんだね」と照れて、少しだけおとなしくなった。
私も幼い頃、こんなふうにユーモアで切り返せていたら、一八歳で家を出なかったろうか。いや、それはないだろうが、ハリネズミのように全身をトゲだらけにして、いちいち母とぶつかっていたことが恥ずかしく思えた。
茶の間の団欒というのは、たいていホームドラマのように和気藹々とはいかないもので、親への反発や、言葉にできない悶々や、ときにやり場のない怒りなども混ざりこむ。娘のように、私にも心の余裕と「おばあちゃん(母)はしょうがないな。もう年だもの」という慈愛があったら、もう少し楽しい茶の間の思い出が増えていただろう。それにしても、意地悪な舌打ちをせずにすんで助かった。そういうときの母の耳はものすごくいいのである。きこえようものなら、あそこから正月が修羅場になっていた。ドジなどという言葉では済まされない親子喧嘩、勃発の巻である。
親への愛情の示し方を娘から教わった正月。心に深く感ずる年明けであった。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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