【ドジの哲学】いつも「なにか」を探している
文筆家 大平一枝
ドジのレポート その15
探し続ける人
私は外出先で、常に何かを探している。たとえばスイカのカード、鍵、ボールペンといった具合に。毎回、駅やレジで、バッグや財布をごそごそしている。
何枚も入るカードフォルダー付きの財布をあつらえようとも、たくさんポケットの付いたバッグを持とうとも、状況は改善されない。
あるときドラッグストアで、いつものようにポイントカードを探している私を見て、当時高校生だった息子が言った。
「何をどこに入れるのかではなくて、どういうルールで仕分けするかを自分で決めればいいんじゃないの?」
目から鱗だった。カードならば、スーパー、飲食店、ファッション、薬、美容、金融というように、おおざっぱにジャンルを分け、それごとに、ひとつのポケットを与える。「ファッション」は行きつけの洋服屋や雑貨店のカードを。「美容」は美容室やネイルサロンのカードを。その結果、ひとつのポケットに複数のカードを入れるので、ポケット数は少なくてすみ、見た目スッキリ、探す手間もなくなった。
鍵、乗車券類、携帯は何度も出し入れするものなので、ヘビロテ対応のポケットに。ティッシュ、ボールペンなどは不定期出動なので、奧のポケットに。
「わあ、これは便利だ」と喜んでいると、息子に「たぶんみんなそうやってると思うよ」と言われた。何を今さら?と、驚くような目で。
ほう、そういうものか。
そこで私は気づいた。家でも、なんだか片付かないとか、探し物をいつもしているなどと悩んで、収納家具を買ったりしがちだが、どんなに箱を用意しても、そこに効率化を見据えた自分なりのルールや使い方のメソッドがないと、元の木阿弥。本当に片付いたことにはならないのではないか。
つくづく、道具ではなく、頭を使わないとだなあと思う。
さて、それからしばらくして、私はいつものように駅の改札でスイカのカードを探し、同行の男性を待たせたので詫びた。
「すみません。待たせて。私、いつもこうなんです」
すると、彼は言った。
「女の人ってみんなそうだよね。必ず改札で、あれ?ない!どこだっけってバッグをごそごそやってる。あれ、なんでだろうね?」
女友達が多いという噂の彼ならではの観察眼と実感だと思った。息子も人生を重ねれば、そのうちわかるだろう。ドジは私だけではない。きっと女はみんな何かを探し続けるものなのだ。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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