【ドジの哲学】旅のドジは出発前から

文筆家 大平一枝

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ドジのレポート その19
旅のドジはかきすて!?


 
 私の旅にドジは切っても切り離せない。とくに海外旅行がひどい。
 最近も、苗字と名前をさかさまの登録で航空券を買ってしまい、海外の空港カウンターで「乗せる」「乗せない」の押し問答を体験したばかりだ。

 だいたいドジは、旅の前日からすでに始まっている。2年前に娘とふたりで行った韓国は、なにをどうまちがったか、明洞(ミョンドン)に泊まるはずが、なぜか仁寺洞(インサドン)のホテルを予約していた。ミョンドンは原宿みたいな街で、高校生の娘はコスメや洋服を買おうと楽しみにしていた。仁寺洞はそこから2キロほど離れた街で、古書店やアンティークショップの多い伝統建築エリアだ。つまり仁寺洞は、古い建築好きの私にはぴったりの街で、娘には物足りない。泊まる街を間違えたことに気づいたのが、旅の前日の23時頃である。
 娘には平謝りであった。

 まあ、行ってしまえばそれなりに楽しく、今となっては、ドジもいい思い出なのだが、あのときは焦った。前夜では宿も変えられない。洞という字しか合ってないのに、よく間違えたまま、ここまで気づかなかったものだと、我ながら驚いた。

 旅にドジがついてまわるのは、すべてを自分で手配するからかもしれない。家族の海外旅行も、航空券、宿、レンタカーなど最安値を探してはネットで個別に手配する。もともと注意力散漫なので、そこかしこに粗があり、なにかしら事件が起こってしまうという具合だ。
 すべて自分のせいであるうえ、「なんとかなった」という印象だけが強く残り、どこか反省が甘くなる。その結果失敗を次に生かせず、ドジの堂々巡り、ドジの負のスパイラルは続く。
 
 旅には、ドジさえ思い出に変えてしまう魔力がある。旅の恥はかき捨てということわざがあるが、かき捨てきってはいけないものもきっとある。慣れない英語で、韓国とアメリカの空港で押し問答をしてきたばかりの私はかように痛感している次第である。

 
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文筆家 大平一枝

長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。

▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」

 


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