【キッチン特集】後編:なぜ使いやすい? キッチン収納のコツは「動線でつくる」
ライター 長谷川賢人
エッセイストや整理収納アドバイザーとして、著書『土曜の朝だけ!「きちんと」 が続く週末家事』などを通じ、心地よい暮らしの提案をなさっている柳沢小実さん。
新生活をはじめる人も多い季節だからこそ、暮らしの中心でもあるキッチンの見直し方を伺っています。
前編では、一人暮らしや二人暮らしにぴったりの料理道具を選んでいただきました。
今回は、道具や食器の 「収納」 にフォーカス。食器棚をまだ持っていない人へのアイデアや、柳沢さんが普段から気をつけている鉄則などを教わります。
本棚って、食器棚の代わりにもぴったりなんです。
個人的に「その手があったか!」と感じたのは、食器棚の選び方。というのも柳沢さん宅の食器棚、もともとは本棚なのだそう。
「家具で大切なのは、『自分にとって使いやすい奥行きを知る』ことです。食器棚も奥行きが深いと、食器が前後に積み重なって、後ろ側が取り出しにくくなることも……本棚なら奥行きが浅いですから、そもそも前後になりにくいんです。
それに大きな家具を買うのって、勇気がいりますよね? 本棚なら、あとあとは本の置き場として使ってもいいですから、すこしは気が楽ですよね(笑)」
さらに食器の並べ方にも一工夫。この棚のように両開きの場合は、よく使う食器ほど右側に置き、キッチンから近い場所に配するのです。
そして、収納は使用頻度が高いものこそ、すぐ手に取れる近さにするのが大切なのだそう。ちなみに、この食器棚に入らないオーバルプレートなどは、キッチンワゴンのトースター近くに置いています。
これも大ぶりな料理を盛り付ける際には、キッチンにより近いところにお皿はあったほうが便利、という考えに基づいています。
ちなみに、クローゼットに洋服をしまう時と同じく、形や色が似たものをそろえておくとすっきり見えるとか。
「家事動線」に気を払うのが、キッチン収納の基本。
柳沢さんがいつも考えるのは「家事動線」だといいます。
最も効率的なのは、動作をした先に、使う物があること。たとえば、タッパーはキッチン戸棚の手が届く範囲にスタッキングする、パン皿はすぐに使えるようにトースターの近くに置く、フライパンはガスコンロから一番近い戸棚にしまう……。
つまり、それぞれの場所でよく使うものを、なるべく使いやすい位置に置こう、ということです。
一般的なキッチンは、洗い場、作業場、火元と大きく3つに分けられます。動線としては、食材を洗い、下ごしらえをし、火元へと移っていく動作が多いはず。もしも、フライパンを洗い場のあたりに収納してしまうと、いざ火を使う時に、洗い場まで移動しなくてはなりません。
柳沢さんは「小さな工夫が暮らしやすさを増やしていくのだと思います」と話します。ものの定位置をきっちり作るよりは、常に「この動線は効率的かな?」と考えるクセをつけることが、毎日の家事効率アップにもつながるのでしょうね。
カトラリーは種類ごと。収納用品はロングセラーを。
柳沢さんは作業場のすぐ下の棚に、ボウルなどの料理道具やカトラリーを収納していました。カトラリーは「素材別」にして分けています。
「収納用品はシンプルなほうがいいですよ。主張が強いと、それだけでごちゃごちゃに見えます」と柳沢さん。
長年、愛用しているのは無印良品の「ポリプロピレン整理ボックス」。調理器具以上に使いはじめると長年変えないのが収納用品。10年はあっさりと使ってしまうからこそ、「できるだけ同じブランド、同じシリーズで買い足せる方が便利」なのですね。
そういえば、柳沢さんのカトラリー置き場、かなりのスペースが空いています。実はご自宅にある棚のほとんどが、空きスペースに余裕ありの状態。なんだかもったいない気もしますが……。
「そうですか? 家族が増えたりすればものだって多くなりますし、しまうものがないのなら、空いていてもいいと思うんです」
フライパンやお鍋は、スタッキングですっきりと。
火元に近い棚でも、柳沢さんの収納方法は同じです。
「上段には一軍の道具を、下段に収納しているのが二軍の鍋やフライパン、あまり登場しない道具ですね。基本はどこでも、下が重いもの、上は軽いものという配置にします」
▲上段には一軍たちを。
▲下段は重たい鍋など、二軍のものを収納。
「それから、重ねても3つか、4つまでにしておきます。下に重なっているものを使わなくなってしまうので……」
ここでひとつ押さえておきたいのは「重ねる(スタッキング)」というキーワードへの意識です。
柳沢さんもスペースを上手に使えるスタッキングを勧めつつ、「ものを買うときには、ちゃんとサイズを計るのが大事。スペースに収まるか、重ねられるかどうかを調べてから買います」とアドバイス。
特に鍋やフライパンには、ふちがあったり、形がすぼまっていたりして、内寸と外寸の差があることも多いもの。
もの選びは、ひとつずつの良さや大きさはもちろん、家にむかえた時に「収納できるか」の観点も常に持っておきたいところです。
乾物やだしなどの食材は「上からのぞいてわかる」と使いやすい。
乾物やだしなどの食材は、細々したものは引き出しの中に立てて収納。「上からのぞいて、ものをすぐ手に取れるのが効率化につながる」と柳沢さん。欲しいものを探す時間を省いていくことが、「ラクをする」につながります。
ビン類は収納棚にしまいこまず、火元のすぐそばに 「ホーローバット」 を敷いて並べてありました。バットなら洗いやすく、調味料が垂れたりこぼれたりしても、かんたんにお掃除できるのが魅力。
キッチンワゴンの上にも調味料などが。揃いのバットに並べるだけでも、ちゃんと「収納している感じ」が出ていますよね。
ホーローバットは「たしか西荻窪の古道具屋でパッと目に留まった、なんでもないものですよ」と柳沢さんは話しますが、藍色にも似た深いブルーが場をきゅっとまとめて、清潔感を残す印象を与えているように思います。
なにはなくとも、ワゴンはキャスター付き。
いま、賃貸物件に住んでいる柳沢さんですが、「ここが終の住処とは思っていません。だからこそ家具も変えていける、変化に耐えられるほうがいい」と話します。
家の間取りに合わせて動かせて、さらに掃除しやすいこともあり、「棚やワゴンは絶対にキャスター付きがおすすめ!」だそう。
無印良品のユニットシェルフも、設置場所をこれまでに3回変えながら使い続けているアイテム。棚の天板も作業台として使え、組み替えたり棚を追加したりできるのも嬉しいポイントです。
キッチンだけでなく、あらゆるお家のインテリアに馴染みやすい外観から、クラシコムスタッフの自宅でもよく見かける人気の家具です。
ワゴンにあるお茶や乾物は、出し入れをする頻度が高いものがメイン。
下段のコンテナは長期保存できるもので、賞味期限が半年以上あるもの。上段のワイン箱は賞味期限まで半年を切ったもの。食べ忘れがないように賞味期限ごとに収納場所を分けるアイデアです。
「食材は、忘れないように収納箱もセミオープンにして、ふたはしていません。在庫量がさりげなく見えるようにしています。きっちりと管理するよりも、そのほうが自分にとっては気楽に思えるんです」
ユニットシェルフに引き出し棚を追加して、食品用ラップやクッキングシートはひとまとめに。
▲ちらりと見える赤い箱は「石焼きいも黒ホイル」という柳沢さんのお気に入り。さつまいもを包んでオーブントースターで焼くと、ほくほくのお芋ができる優れものだとか。
「ラクだから続く」を目指して。
エッセイストとして執筆に励む傍ら、イベントの登壇や取材など、時間がほしくなる日々を過ごす柳沢小実さん。いまは新しい連載に向けてのアイデア出しに、頭を悩ませているところだといいます。
だからこそ、効率的かつ気楽に、家事を進めていく必要がある。柳沢さんの観点やアイデアが「すぐに真似したい」と思えるのは、何よりも自分自身が助かっているという真実味と、柳沢さんの精力的なお仕事の裏付けが、そこにあるからだと感じます。
「収納は、使っていないものを一旦はずして、置き方を見直してみるだけでも変わりますよ」と柳沢さん。
新しく始めるだけが新生活ではないはずです。今までの生活を、新しい機会として捉えてみるのも、ひとつの「新生活」なんだと思います。この春の日に、ひとまず、棚という棚から物を取り出してみるとしましょうか。
【写真】鈴木静華
もくじ
柳沢小実
エッセイスト・整理収納コーディネーター。ファッションと美味しいものが好きで、収納好きが高じて、整理収納アドバイザー1級の資格を取得。手間をかけずにすっきり見える収納法を日々研究中。暮らしにまつわる著書、雑誌への連載など多数。http://www.furarifurari.com/
ライター 長谷川賢人
1986年生まれの編集者、ライター、スピーカー。
▽柳沢さんの書籍はこちらからご覧いただけます。
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