【あのひとの子育て】「シンシア・ガーデン」代表 杉谷惠美さん〈前編〉子育てと仕事。大切なのは「時間ではなく質と濃度」

ライター 藤沢あかり

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子育てに正解はないといいます。でも新米のお父さんお母さんにとって、不安はまさにそこ。自分を形作ってきたものを子どもにどう伝えるのか。「好き」や「得意」をどうやって日々に生かせばいいのか。正直、わかりませんよね。だって正解がないんですから。

だから私たちは、さまざまなお仕事をされているお父さんお母さんに聞いてみることにしました。誰かのようにではなく、自分らしい子育てを楽しんでいる“あのひと”に。

連載第6回目はオーガニックコスメを通じて、健やかな心と身体の暮らしへと導く「シンシア・ガーデン」代表の杉谷惠美(すぎたに えみ) さんをお迎えして前後編でお届けします。

「わたしの子育ての模索と葛藤は、いつだって次へのステップと自分を信じることにつながっている」 そんなふうに感じていただけたらうれしいです。

 

年子の男の子を育てる、杉谷惠美さんを訪ねました。

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原料や製法にこだわったオーガニックのスキンケアやコスメなどを開発している「シンシア・ガーデン」。オーガニックコスメの専門店はもちろん、駅ビルのバラエティショップなど身近な場所にも広く展開されている「ママバター」シリーズの会社だと聞くと、ピンとくる人も多いかもしれません。

代表の杉谷さんは、自身の身体の不調を機に、食や暮らしを見つめ直しました。そして植物の力を広めていきたいと一念発起。高品質のシアバターを使った「ママバター」の商品開発を経て、「シンシア・ガーデン」を立ち上げました。今から10年前のことです。

sincere_mamabutterクラシコム撮影

現在、杉谷さんは全国の生産者を訪ね、ときには土とたわむれて収穫のお手伝いなどもこなします。海外出張の機会も多く、目の回るような忙しさの日々。

“忙しくもハツラツと、しなやかに美しく生きる女性”。そんなイメージのある杉谷さんですが、実は4歳と5歳という年子の男の子のお母さんでもありました。

4、5歳の男の子というと、家でも外でも毎日元気に走り回っては、やんちゃをしたり生傷が絶えなかったり……と、育児でてんてこまいの時期。ましてや年子となると、エネルギーも勢いも2倍です。

 

涙でにじんだフロントガラスの先に見つけた、「このままじゃダメだ」

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会社の経営と、年子の男の子の育児。

想像もつかない日々に思えますが、実際のところはどうだったのでしょうか。

長男、次男ともに生後1〜2ヶ月で仕事に復帰を果たした杉谷さん。2人目を出産したのは、長男が1歳8ヶ月のとき。まだおっぱいを離れない時期には、仕事へ同行させることもしばしばだったそうです。

杉谷さん:
「2人育児が始まったばかりのころは、暮らしもめちゃくちゃでした。

当時は職場から少し離れた場所に住んでいたんです。生後2か月で復帰した直後は、授乳のたびに、3時間おきくらいで自宅に戻っていました。車を運転して、片道小一時間くらいの距離です。

ただでさえ夜中の授乳で寝不足の時期、もう体力も気力も限界だったんでしょうね。ある日、運転中に涙でフロントガラスがにじんでしまったことがあって。

こんな状態を続けてなんていけないと思いました」

育児には、“この状態はここまでで終わる” という明確な期限がないもの。先の見えない育児に不安を抱きながら、もがいてもがいて無我夢中の中、ふと気づいたらトンネルを抜けていた、という経験がある方も多いのではないでしょうか。

しかし杉谷さんは、トンネルを自ら抜け出すために、ある行動に移しました。

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杉谷さん:
「このままじゃダメだ、と職場のそばに引っ越しをしたんです。

以前の住まいは、子どもにとって環境のいい場所だと思い決めた場所でした。都心過ぎず、大きな公園も近くにあって。でもその距離のせいで自分が壊れて、子どもに対して笑顔でいられなくなるのなら、それは本末転倒。

当時の私は、このままどうなっちゃうんだろうと、毎日気が狂いそうでした。

でも、“どうなっちゃうんだろう?” で終わらせてしまったら何も変わらない。解決する道を考えて、行動しなければいけないことに気がついたんですね。そして、その結果が引っ越しだったんです」

自分にとってのピンチを受け入れ、建設的に次へつなごうとする姿勢。それは長年仕事をしていた中で、杉谷さんが学んできたことでもありました。

 

子育てが自分のペースで進まないのは、当たり前のこと

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杉谷さん:
「これまでも、仕事で失敗を重ねながら、結局は自分の決断しか自分を救ってくれない、と感じていたのだと思います。

仕事を通して感じたのは、ちゃんと自分で決断できる人になろうということ。もちろん、その決断でうまくいかなかったこともたくさんありますが、自分で決めたことだと納得がいくし、責任も自分で取るしかないんですよね。

もちろん失敗も多いけど、そんなとき、無理にでも 『これは学びのチャンスだ!』 と気持ちを切り替えないと、前には進めなかったんです。

私は年齢を重ねてから出産をしたので、そのぶん覚悟や割り切りもあったのかもしれません。長く仕事を続けてきた中で、社会では自分の思い通りにならないことがたくさんあると知りました。

子育ても自分のペースでは動かせないもの。そんなの当たり前よね、って受け入れられました」

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子どもも少しずつ手が離れ始めてきた今、また今の暮らしを変え、都心から少し離れた場所に戻る準備も始めているそうです。

「そろそろママにべったり、というよりも公園で駆け回る方が楽しい年頃になってきました。子どもを育てる環境には、いろいろ理想がありますが、一度に叶える必要はないのかも。その時々で、しっくりくる段階ってあるんですね。今はそう実感しています」

 

子どもとのコミュニケーションは「朝時間」にあつめて

sincere__Q9A0342▲子どもたちが「読んで」と持ってくるお気に入りの絵本。最近は絵を見ながら即興でお話づくりを楽しむこともあるのだそう。

忙しい杉谷さんが、お子さんとの時間を確保するために続けていること。

それが早起きの習慣です。

杉谷さん:
「毎朝5時半に起きて、子ども2人のお弁当づくりから朝が始まります。

仕事柄、どうしても夜の外食も多いので、一家だんらんの時間を朝にとっています。 6時半頃に子どもたちが起きてくるので、そこから朝食がはじまる7時半までが、子どもと過ごす時間。

子どもたちには、ママとの会話や時間を納得いくものにしてもらいたいんです。いっぱい遊んだ! と感じてほしい。だから朝の1時間は、一緒に絵を描いたり、絵本を読んだりと、私もめいっぱい子どもたちと向き合います」

sincere__Q9A0352▲“ファンファン” のお皿。竹素材のやさしい手触りや使い勝手に魅了され、「シンシア・ガーデン」のカフェでもキッズ用として取り入れることに。

子どもと一緒に過ごしたい、より長くいたいと思うのは、どの母親だって同じです。

でも、子どもの呼び声も上の空に「ちょっと待って!」を連発してしまうのも事実。家事をしながら、テレビを観ながら、ときには携帯電話やパソコンの画面を見つめながら……。

杉谷さん:
「私には仕事があって、専業主婦をされているママたちに比べたら子どもたちとの時間はずっと短いと思います。でも、本音をいえばもっと長く一緒にいたい。

とはいっても、これは自分で決断した道。だから、残された時間を、どんな濃さで過ごすか。そこに重きを置いています。

時間より質。それは仕事も子育ても同じかもしれませんね」

 

幸せと不安が入り混じる。今は人生で唯一無二の時間です。

sincere__Q9A0356▲千葉にオーガニック農園を借りているという杉谷さん一家。

杉谷さん:
「子育てって、これまでずっと仕事だけをしてきたのが、ある日突然、家の中だけの生活になるんですよね。赤ちゃんと一対一で向き合う毎日。なんだかすごく孤独感を感じたり、なんで泣いてるの!?と戸惑って、夕方になると意味もなく不安になったりしたこともありました。

幸せな瞬間と不安な瞬間が入り混じって、訳がわからなくなるんです。正解を求めて、瞬間、瞬間を必死で過ごしてきた気がします。

でも、だからといって不幸だとは決して思わない。あんなふうに幸せ・不幸せでは測れない感情を体験する機会は、人生の中でほかにそうない気がしています」

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もともとスーパーポジティブで、寝たら忘れちゃうタイプなんですよ、と笑う杉谷さん。でもその陰には、置かれた環境や悩みに対して周りに答えを求めず、自分で未来を切り開こうとする強い意志がひそんでいるようでした。

後編では、そんな杉谷さんが毎日を心地よく、ストレスフリーに過ごすために心がけていることやセルフケアについて、詳しく伺います。

(つづく)

後編はこちら>>

【写真】木村文平

 

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杉谷惠美

東京・表参道の 「シンシア・ガーデン」 代表。店内は、1階と地下にスパ&ショップが、2階にはベジタリアンメニューにこだわったカフェが入っており、日々の自分を整えるライフスタイルをリードする存在となっている。プライベートでは4、5歳の男の子を育てるママ。日曜日になると千葉にあるオーガニック農園で一緒に畑仕事をし、収穫した野菜を料理して一緒にテーブルを囲む、というのがお決まりの過ごし方だそう。http://www.sincere-garden.com/

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ライター 藤沢あかり

編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。執筆媒体は「PLUS1 LIVING」「ONKUL」「tocotoco」「Hanakoママ」など。


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