【木曜日になったら、純喫茶】ひとり時間に。春の終わりに行きたい、時計がとまった純喫茶。
難波里奈
4月。冬の寒さが幻だったかのようにぽかぽかとあたたかい日差しに背筋もぴんと伸び、思わず深呼吸をしたくなります。
木々は青々と芽吹き、見上げる空は淡い水色、その中を桜色の花吹雪が舞う美しい刹那。
しかしその反面、進学、就職、転勤など自身の変化はもちろん、否応なしに変わる周囲の環境は、気が付かないうち小さな疲れを積もらせることも。
そんな時、皆さまはどのように気分転換をされますか?
映画を見る、友人と会っておしゃべりをする、美味しいものを食べる、旅に出る……。楽しいことはいくつもありますが、多忙な時に前もって計画するのは大変なこと。
それならば、思いついた純喫茶へ気軽に出掛け、しばしゆっくりと流れる時間を過ごしてみるのはいかがでしょうか?
時計がとまった純喫茶へ。
例えば、こんな季節に私が訪れたいのは西荻窪にある物豆奇(ものずき)という純喫茶。
店の前の小さな公園には桜の木があって、春になると通り過ぎる人たちを花びらで鮮やかに彩ります。
両隣の片方は旅に関する書籍ばかりが並ぶ本屋、もう片方が花屋という魅力的なロケーション。
現実との境界線にも思えてくるような重たい鉄の扉を開けると、まず視界に入るのは壁中に飾られた沢山の柱時計。
よく見るとそのほとんどは時間が止まったままで、実際に動いているのはたった3つだけ。
そして、その動いている時計でさえも1日の終わりには少しずつずれていってしまうというゆるさ……。
好きな席に腰を下ろして珈琲を注文し、良い香りが漂ってきた頃、ふと 「時間」 というものに思いを巡らせます。
どの時計を見れば正しい時間を示しているのか、それすら分からない、この場所で。 時間とは単なる目安でしかなく、よほど急いでいる時以外には、さして重要でないのではと思えてくるのです。
私たちは日々、慌ただしい暮らしの中で常に時間を気にして、次の行動までの制限時間を逆算する。それを繰り返すことに、慣れてしまっているのかもしれません。
また、純喫茶での楽しみの一つとしておすすめしたいマスターとの会話。
こちらにいらっしゃるのはいつも飄々とした雰囲気が魅力的なマスター。
例えば、今回のテーマにちなんで 「喫茶店で過ごす春」 について尋ねてみると…… 返ってきたのは、こんな一言。
「私たちはいつもここにいるから、変わるということを気にしたことはあまりないよ。時間や季節のように勝手に流れていくものを、必要以上に心配してもしかたがないよ」
その言葉にふっと肩が軽くなったような気がして、純喫茶を好きな理由についてあらためて実感するのでした。
私たちを取り巻く、めまぐるしいまでの変化。 そこから少しの間でも距離を置きたくなったとき、 「変わらないでいつもそこにある」純喫茶という場所へ足を運ぶのでしょう。
珈琲を一杯飲み終わる頃に食べ終わる、ちょうど良い大きさの美味しいケーキをお供に、自分を解放させるひととき。
しばし色々なことを扉の向こう側に置いたまま、ただぼんやりと過ごしてみませんか?
物豆奇(ものずき)
住所:東京都杉並区西荻北3丁目12−10
TEL:03-3395-9569
営業時間:11:30~21:00
定休日:不定休
4月に行きたい純喫茶、こんなところもおすすめ。
福井 寛山(かんざん)
電波も届かない、贅沢なひとり時間
寛山(かんざん)
住所:福井県福井市中央1丁目4-28
TEL:0776-23-2810
定休日:第2・4土曜日
練馬 アンデス
熱々ナポリタンをお供に、漫画にふけって
喫茶アンデス
住所:東京都練馬区豊玉北5丁目17−9
TEL:03-5999-8291
定休日:日曜日
【写真】岩田貴樹(最後2枚をのぞく)
難波里奈
東京喫茶店研究所二代目所長。東京生まれ。会社勤めを続けながら仕事帰りや休日を利用して足を運んできた喫茶店の数は、なんと1700軒以上。ブログ
「純喫茶 コレクション」 をはじめ、著書 『純喫茶へ、1000軒』 (アスペクト)、『純喫茶、あの味』 (イースト・プレス) を通じて喫茶店の魅力を伝えている。他にテレビや雑誌などで幅広く活躍中。http://retrocoffee.blog15.fc2.com/
▽難波さんの著書はこちら
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