【なりたかった職業】第2話:あの展覧会はどうやってできているの?学芸員の仕事について聞いてきました。

編集スタッフ 田中

大人になった今も、子どもの頃に興味をもった好きなものの側にいるには、どうしたらいいんだろう? そんな疑問をもとに、昔なりたかった職業にフォーカスした読みものを全3話でお届けしています。

第1話では、私・田中が学芸員に憧れていたことと、そんな疑問を抱いたいきさつをお届けしました。

つづく第2話では、まずは学芸員の仕事内容を知ろう!と、実際に美術館を訪ねました。お話を伺うのは、「東京ステーションギャラリーの館長」で、学芸員でもある冨田章さんです。

 

主役は作品、けれど展覧会をつくるリーダーは「学芸員」

そもそも「学芸員」ってどんなお仕事なのだろう? なんとなく、展覧会を企画して、作品を集めて展示を指揮している人というイメージがあったのですが、合っているのでしょうか?

冨田さん:
「はい、仕事の八割方は展覧会をつくることですね。それ以外に、もともと収蔵している作品を保管していくこと、今後どんな作品を美術館として収蔵していくかの調査や交渉などもしているんですが、当館ではその比重は低めです。

また学芸員は、大学などで自身の専門とする分野の研究を行ってきた人もいます。私は近代西洋美術史が専門ですから、そういった研究という仕事もありますね」

しかし、大学で勉強した研究を、就職してからも続けていける人は少ないそう。それは、所属した美術館や博物館によって、担当する展覧会や業務が必ずしも自分の専門分野ではないからなのだとか。

最初、デパートにある美術館の学芸員になった冨田さんは、専門からは遠い分野の展覧会を作っていたそう。デパートはいろんなお客様が訪れるところ。ひとつの分野に絞った展覧会ばかりでは、飽きられてしまう。だから、日本画でもサブカルチャーでもなんでも勉強したといいます。

 

どうやって完成させる?美術館や博物館の展覧会の作りかた

美術館や博物館には足を運んでいましたが、『展覧会をつくる』と一口でいわれてもピンとこなかった私。そこで、冨田さんが今回企画したシャガール展を例にとって、仕事の流れを教えていただきました。

冨田さん:
「たとえば、今回私が担当したシャガール展は、企画会社と『東京ステーションギャラリー』が協力し、4年前くらいから動いていた企画です。海外作品だと、実際に渡航して作品を所蔵する方々に、作品を出展してくれるように交渉したり。国内の数カ所の展覧会を巡回するように、各美術館と協力したり。

他にも、展示作品の図録を作ること、館内の展示キャプションや作品を設置する什器の準備など、開催までにはたくさんの仕事がありますよ」

一つの展覧会ができるには、長い時間とたくさんの細かな仕事も必要なんですね。1ヶ月やそこらではないと思っていましたが4年もかかるなんて!と、その長い期間にまずびっくり。

なんだか、これから展示を見る目が変わりそうです!

 

展覧会がはじまる直前は肉体労働?思ってたのと、違った!

私が思い描いていた学芸員の仕事、くわしくお話を聞くなかで、ほかにも驚いたことがありました。

その一つが、展覧会準備の最後の仕上げ。展示スペースの最終チェックの実情です。

冨田さん:
「シャガール展では、彫刻と絵画を同時にみてほしいという気持ちが、私のなかにあったんです。だから、そういった展示の目的をフランスから来日した関係者たちと理解した上で、じゃあどうしよう?と一点ずつ、順番や置く位置などを議論して。

今回は6日間かかりましたね。展示作業中は立ちっぱなしで足が疲れてしまいました(笑)」

物静かに研究しているのかなと、あまり肉体労働のイメージがなかった学芸員の仕事。ここで一気に先入観が崩れました。

 

学芸員と「いまの仕事」の共通点をみつけました

意外な発見もありました。それは、現在の編集という仕事との共通点を見つけたこと。

展覧会の作り方を聞いていた私が思わず、「壮大な『編む』お仕事のように思います」と伝えると、冨田さんは言いました。

冨田さん:
「たしかにそうかもしれませんね。オリジナルの発想が原点というわけでなく、どんな展覧会にしたいのか?という目的にむかっていきます。

この作品がなくては成立しない、という作品ありきの展示なのか。この展示方法じゃないと!という見せ方重視なのか。など、目的にあわせた調整力や編集力が求められるでしょうね。

だから、どんな展示も正解で間違いではない。展覧会の作り方は学芸員次第で、十人十色なんです」

学芸員の作品とも言うべき展覧会づくりは、編集力のいる仕事だとわかって、大人になって遠く離れてしまったと思っていた「好きなこと」との距離が少し近づきました。

つづく第3話では、私のなりたかった職業・学芸員の仕事を、もう少し近くに感じるには、どうしたらいいか? 美術館や博物館の巡りかた、おすすめの展示の見方などから探ってみますよ。

(つづく)

【写真】岩田貴樹


もくじ

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冨田 章さん

学芸員。美術史家。東京ステーションギャラリー館長。1958年、新潟県生まれ。慶應義塾大学、成城大学大学院卒。財団法人そごう美術館、サントリーミュージアム「天保山」を経て、現職。専門は、フランス、ベルギー、日本の近代美術史。http://www.ejrcf.or.jp/gallery/ 場所/東京駅丸の内北口 開館時間 /10:00から18:00(入館は閉館の30分前まで)

 

 


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