【なりたかった職業】第3話:「見る側」として、もっと美術館や博物館を楽しむには?
編集スタッフ 田中
大人になった今も、子どもの頃に興味をもった好きなものの側にいるには、どうしたらいいんだろう? そんな疑問をもとに、昔なりたかった職業にフォーカスした読みものを全3話でお届けしています。
第2話では、私がなりたかった学芸員という仕事のことを、東京ステーションギャラリーの館長・冨田章さんに教わりました。
つづく第3話では、私のなりたかった職業・学芸員の仕事を、もう少し身近に感じるにはどうしたらいいか? 美術館や博物館の巡り方、おすすめの展示の見方などから探ってみます。
館内を冨田さんに案内してもらう内に、そのヒントを見つけましたよ。
美術館や博物館をもっと楽しみたい。
プロ野球選手になりたかった人は、大人になって週末に草野球をしているかもしれないし、ミュージシャンになりたかった人は、ライブやフェスへ足しげく通っているかもしれない。
社会人になっても、好きなものを求め続ける心を満たしている方、たくさんいらっしゃいますよね。
自分の場合はどうだろう? 展覧会を企画したり、研究をする「学芸員」という仕事に興味をもっていたのですが、違う仕事に就いた今でも、美術館や博物館をもっと楽しめるようになれたらいいのかもしれない。
そう考えて「東京ステーションギャラリー」の館長・冨田さんにお話を伺ってきました。ここからは、具体的に展覧会を楽しむためのポイントを、今回のシャガール展を見ながらお届けします!
重要文化財の「建てもの」も含めて面白い。
▲東京駅丸の内北口。
美術館や博物館は、古い歴史を持っていたり、著名な建築家の作品だったりと、建てもの自体を楽しめることも多いものです。今回訪れた東京ステーションギャラリーも同じく、古くは大正期の建築でした。
この美術館は、1988年*に東京駅丸の内口の駅舎内に誕生。当時からそのアクセスの良さや、近代美術をテーマに開いてきた展覧会、何より東京駅の歴史を体現するレンガ壁を見ることができる美術館として親しまれ、人気を博しています。
*2006年から2012年秋にかけて東京駅復原工事のため一時休業。
▲2階美術館出口付近。歴史を感じさせる重厚な造りで、円形の天井は吹き抜けで模様などに見とれていました。
▲黒い部分は木が炭化していると聞き、驚きました!
冨田さん:
「この美術館の特長は、展示室のある建物自体が『重要文化財』であることでしょうか。こんなふうに、大正の創建当時の土台であるレンガの壁を間近に見ることができます。
このレンガはもともと漆喰の壁のなかにあったもの。漆喰を塗りやすくするために、あえて表面に傷をつけてデコボコにしてあるんです。
構造上の都合でレンガの間に埋め込まれた木材は、戦時中の空襲で焼けてしまい、このように炭化しています。歴史を感じられる場所ですよ」
美術館は入口が3階にあり、2階へ降りていく造りで、エレベーターもありますが、多くの方が階段を降りるんです。そのとき、階段沿いのレンガ壁を見ることができます。
そしてもう一つ、その歴史ある風格に圧倒されるのが、2階の展示室。高い天井の上から下まで、レンガ壁なんです!
通常、美術館や博物館ってガラスケースの中や、白い壁に絵画や書など、展示品が飾られていますよね。だから、赤いレンガの迫力ある空間に感動しました。
順路の意味や絵をみる視点など、プロの思惑にはまってみよう
展覧会のメインは、やはり展示作品。今回のシャガール展では、お客様にどんなふうに展示を楽しんでもらいたいのでしょう? 冨田さんに聞いてみました。
冨田さん:
「じつは、今回順路をつけていないんですよ。というのは、この展覧会の目的が『彫刻と絵画を同時にみてほしい』というものだったから。
シャガールは晩年に、以前自分が描いた絵画を彫刻にしているんです。だから、もとの絵画と彫刻が一堂に、自由に見られたらいいなと、そういう思いをこめて置く場所などを工夫しました」
そういえば、館内ではよくある大きな矢印をまったく見かけませんでした。それに、この取材前に展覧会を見せていただいたとき、私は展示室の中をあっちに行ったりこっちに行ったり、ぐるぐる回りながら作品を見ていたのですが、それも館長の思惑通りだったようです。
私が気にいった作品の前で立ち止まったとき、冨田さんがシャガールの絵画について説明してくれました。
冨田さん:
「シャガールの絵は、とてもよく考えられているんです。離れたところから見ると、鮮やかな色が大胆に組み合わせてあって、とてもダイナミックな印象です。
でも近づいて横からよく見ると、絵の具が幾重にも重ねてあって。あらゆる色を塗り重ねて表現された、とても深みのある色だということがわかります。
決して好き勝手に描いているわけじゃなくて、時間をかけて見え方や構図を計算している。パッと見は華やかですけど、ひとつひとつの色にも深みがある、そういう視点で楽しんでみるのもいいと思いますよ」
冨田さんのお話を聞くなかで、とくに何も意識しなくても、私は十分に美術館を楽しめていたということがわかりました。それは学芸員の方達が、あらゆる工夫を凝らしてくれているからこそ。
そう知ることで、より満たされた気持ちになりました。
大人になっても「好きなこと」のそばにいたいから
▲好きな歴史小説たち。
子どもの頃になりたかった、あの職業。今回それを思い出したのは、決して今から転職してもう一度めざそう!という思いではありませんでした。
今はもうとても遠くに感じていて、大人になってからでは、近くにいけないかもしれない。でも、なんとかできないかな? そんな気持ちがスタートでした。
そして、「東京ステーションギャラリー」の冨田さんにお話を聞いて、子どもの頃から「好きだったこと」との距離がどんどん縮まるのを感じました。実際に、この取材後に訪れたある美術館では「この什器、展覧会専用に作ったのかな? すごいなあ」などと学芸員の仕事ぶりに想像をふくらませ、いつも以上にワクワクしたんです。
夢みた仕事につけなくても、好きなことで思い切り自分を満たすことはできる。その術を知って、人生が少しだけゆたかなものになりそうだと思えました。
みなさんの子どもの頃の夢は、何でしたか?
(おわり)
【写真】岩田貴樹
もくじ
冨田 章さん
学芸員。美術史家。東京ステーションギャラリー館長。1958年、新潟県生まれ。慶應義塾大学、成城大学大学院卒。財団法人そごう美術館、サントリーミュージアム「天保山」を経て、現職。専門は、フランス、ベルギー、日本の近代美術史。http://www.ejrcf.or.jp/gallery/ 場所/東京駅丸の内北口 開館時間 /10:00から18:00(入館は閉館の30分前まで)
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