【35歳の仕事論】第3話:スウェーデンへ移住。10年勤めた会社をやめて、キャリアはどうなる?(良品計画 矢野直子さん×編集マネージャー津田)

ライター 小野民

「あの人」の仕事が、いきいきと輝いて見えるのは、どうしてなんだろう。かつて自分と同じ歳だった頃、「あの人」は何を考え、どんなふうに働いていたんだろう。

転職のラストチャンスなんて言葉もささやかれる、35歳という節目。その年齢を目前にした、1984年生まれのスタッフ津田が、人生の先輩に会いに行くシリーズ「35歳の仕事論」をお届けしています。

今回は、良品計画の矢野直子さんに全5話でお話をうかがいました。

前話では、20代のあいだに良品計画で担当した仕事について。本日は、その後の30代のお話から始まります。

 

10年勤めた会社をやめる。そのとき不安はなかった?

津田: 矢野さんのプロフィールを拝見して気になったのが、2002年にご主人の仕事の都合で、スウェーデンのマルメに行かれていること。このとき一旦会社を辞めたのですよね。

辞める時は、キャリアが中断される不安はありませんでしたか?自分ではなくパートナーの事情で人生が大きく左右されることに、どう気持ちを整理したのかが気になります。

矢野さん: あぁ、そうですよね。時期が良かったのかもしれません。ちょうど2002年というと、「スローライフ」という考えがイタリア料理から提唱されたのをきっかけに、北欧のスローライフも注目され始めていて。

同じ頃に『WALLPAPER』という世界的に有名なライフスタイル雑誌が創刊されました。その雑誌で最初に特集した国もスウェーデンだったんです。

あとは、北欧のモダンデザインには学べることがいろいろあると思っていたので、北欧で暮らすことが自分のプラスになるかなと思って。わりと単純な理由なんです。

日本での生活に不満があったわけではないのですが、短い間でも違う国で、未知の文化に触れることに、すごく期待もしていました。

津田: 実際に暮らしてみて、どうでしたか? 自身が期待していたことと、なにかギャップとか無かったのでしょうか。

矢野さん: 文化の違いに驚くことはよくありました。たとえば、スウェーデンは消費税が25%もあって、その分ちゃんと見返りのある福祉で守られてるんですね。だから、男女は対等で、産休もすさまじく短いんです。

夫がある日、血相変えて帰ってきて「出産後1ヶ月で産休から戻ってきた人が、授乳しながら会議に参加してた!」って衝撃をうけていて。

私もコペンハーゲンの電車の中で、赤ちゃんがぎゃーって泣き始めたと思ったら、お母さんが堂々と授乳し始める光景をよく目にしました。

津田: それはまさにカルチャーショック。

矢野さん: 憧れのスローライフを体験して、そりゃあスローになるよって納得しました。東京と比べたら面積に対する人口比とか、福祉の充実具合とか、根本的なものが全然違うんです。

たとえ日本で「スローライフを実践しましょう」と言っても無理があるかなと。それなのにスタイルとしてだけ盛り立ててしまってはいけないと感じました。

あとは自分がいかに日本のことを知らないかも痛感しました。日本について質問されて、ちゃんと答えらえないのが歯がゆくて。日本に帰ったら改めて勉強しようと決めたんです。

 

元上司のひとことがきっかけで、海外で働くことに

矢野さん: スウェーデンにいた頃は、夫のお弁当をいっぱいつくっていました。最初は専業主婦みたいな感じでしたし、その後、良品計画の委託業務をするようになってからも、いまよりもう少し余裕があったんです。

津田: 向こうで仕事を始めたきっかけは、何だったんですか?

矢野さん: 移住後まもなく、以前の上司だった金井から、「ずっと家にいるなんて矢野には向いてないから、手伝え」みたいな感じで声をかけていただいて。主婦業も楽しんでやっていたので「そんなことないよ」と思いつつも(笑)、ヨーロッパのMUJIに関わる仕事を始めました。

当時ヨーロッパのMUJIでは、それぞれの国ごとにオリジナル商品をつくって販売していました。たとえばヨーロッパではクリスマスの売上が大きいので、各国で専用ギフトを作ったり。国によって生活用品のサイズ感が違うので、その対応を考えたり。

他にもフライパンは日本だと軽いものを好む傾向にありますが、ヨーロッパだと軽い=チープというイメージがあるので、既存のラインナップから、重みのあるものをセレクトして売るなどしていました。

矢野さん: あとは、商品開発するためには現地でマーケティングすることも必要で。ヨーロッパにおけるMUJIと他社の関係性を探ったり、よその品ぞろえをチェックして情報を整理したりしていました。店舗のあるロンドンへ月に1〜2回日帰りで出張していました。

津田: ええ!日帰りですか?

矢野さん: ふふふ。日帰りできるんですよ。1時間ほど時差があるので、コペンハーゲン空港から朝一の便に乗れば、ロンドンでの朝の会議に間に合うんです。一日中会議しても、最終便で帰れちゃう。

たまにマーケティングも兼ねてロンドンに泊まることもありましたが、大体は日帰りで行って、宿題をいっぱい持ち帰ってスウェーデンでやるような生活でした。

第4話では、スウェーデンから帰国後に待っていた、夢にまで見た良品計画の「企画デザイン室」での仕事や、その後のまさかの転職についてお話をうかがいます。

(つづく)

【写真】鍵岡龍門


もくじ

 

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矢野直子(やの なおこ)

東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、1993年、株式会社良品計画入社。2003年、夫の赴任でスウェーデンへ。マルメで3年過ごす。その間、業務委託でヨーロッパ〈MUJI〉に従事。ミラノ・サローネの展示やヨーロッパMUJIの商品開発に携わる。2008年、株式会社三越伊勢丹研究所(旧伊勢丹研究所)入社。リビングのディレクションを担当。2013年、良品計画へ再び入社。現在生活雑貨部企画デザイン室長を務める。

 

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ライター 小野民(おの たみ)

編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に離島・地方・食・農業などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫3匹と山梨県在住。


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