【あのひとの子育て】イラストレーター 山本祐布子さん〈後編〉限界はある。でも、やりたいこともたくさんある

ライター 片田理恵

家族にとっての新天地、千葉県夷隅郡大多喜町で、夫・江口宏志さんとともに「mitosaya薬草園蒸留所(以下mitosaya)」を立ち上げたイラストレーターの山本祐布子(やまもと・ゆうこ)さん。前編では現在の日常や子どもたちの様子、地域で生きる未来についてのお話しを伺いました。

後編では山本さんが考える「お母さん」像、家族との暮らしで心がけていること、自身のこれからについてお聞きします。

前編はこちら>>

 

毎日同じ時間にごはん。「私の気持ちも安定するんです」

平日の午後3時過ぎ。山本さんが待つ家に、まずは長女・美糸(みと)ちゃんが帰宅します。「ただいま」「おかえり」と声をかけあい、温かいお茶を淹れて学校の話を聞いていると、いつの間にやらもう3時半。

車を駆って外出し、手早く買い物を済ませたら、次は次女・紗也(さや)ちゃんを保育園にお迎え。帰宅後はすぐに夕食の準備にとりかかります。

そう、お母さんにはいつだってやることがたっぷり。仕事もあるし、趣味や休息の時間だって少しは欲しい。そんな日々のなかで母としてすべきことをどうとらえ、こなしていくかはいつだってお母さんたちみんなの課題です。山本さんはどうされているのでしょうか?

山本さん:
「場所がどこに変わっても、同じように環境を一定に保つ。それが私の役割かなと思っています。毎日ごはんを作って、部屋を片付けて、洗濯をして、子どもたちを送り出して、迎える。家族のタイムスケジュールはいつも意識していますね。

夕食は6時。仕事のスケジュールが立て込んでいても食事の時間は変えません。東京でも、ドイツでも、千葉でも、結婚する前も、夫婦だけの時も、今も、ずっと同じ。私はフリーランスで仕事をしているので、自分でルールを作らないと誰も作ってくれないですから」

大多喜に越してから外食はほとんどしなくなったそう。何があろうとなかろうと、6時にはみんなそろってテーブルにつきます。食卓は家族の「帰る場所」。

山本さん:
「いつも決まった時間に、ここにごはんが出てくる。子どもたちにはその安心感を持っていてほしいから。私自身もそうすることで、心が安定するんです。

時間がなくても、ちょっと疲れていても、とりあえず野菜を鍋に入れて火にかける。味噌汁と卵かけごはんなんてこともあります。無理するのは違うと思うから」

 

お母さんって、少しくらい怖くてもいいんじゃない?

地に足がついていて、穏やかで、自分の尺度がしっかりとあって。子どもたちを怒ったりすることとは無縁のように見える山本さんですが、そんなことは全然ないといいます。本当ですか?

山本さん:
「怒りますよ! 言葉遣いも荒くなるし、もう、爆発したように怒る。そういうモードに入った時の私のあだ名があるんです。『ヤンキーさん』(笑)。雷を落とす前に『ヤンキーさんになるよ!』っていうと、子どもたちが『やだ!』って片付け始める。

『ヤンキーさん』という言葉の意味がわからないから、ある時長女が間違えて『ヘルシーさん』といったんです。みんな大爆笑でした。それでずいぶん空気が和んだし、私自身も冷静になれた感じがします」

山本さん:
「ただ個人的な考えでは、お母さんはちょっとくらい怖くていいんじゃないかって思ってるんですよね。私の母も怖かったし、お父さんってわりと子どもと一緒にうろたえちゃうでしょ」

 

怒ってしまったら、謝る

お母さんはちょっとくらい怖くていい。意外でした。怒りたくないのについつい怒ってしまう、そんな自分を否定して自己嫌悪に陥ることはあるけれど、山本さんのように考えられれば見える世界が変わるのかも……?

山本さん:
「感情的に怒ってしまうこともありますよね。母親だって人間だから。

私はしかりすぎちゃったなと思ったら謝るようにしています。それでチャラにできるような関係を普段から作っておくことのほうが『絶対にしからない』と決めるよりも大事かなって。

心のどこかにみんなの一致した価値観や考え方があって、それが家族の理にかなっていれば、多少怒ったって大丈夫なんじゃないかと思うんです」

 

子どもがいなければどんな自分だっただろう

母になる前と、母になってから。確かに同じ私なのに、全く違う私のようでもあります。それは暮らしの基準が、「私」から「家族」に変わったからかもしれません。

山本さん:
「お母さんであることで限定される部分はあります。限界といってもいいかもしれない。時間だったり、行動だったり、すべてにおいて。もし子どもがいなければどんな自分だっただろうって、ふと思うときもあるんです。

でもそれはその中でやっていくしかない。だってお母さんですから。

私、これからやりたいことがたくさんあるんです。まずは花や野菜を育てて、家庭菜園を作りたい。イラストレーターの仕事は自己完結させるようなところがあるんですけど、何かを育てることで、もっと自分自身の中から出てくるものがあるような気がするし。

去年は『もっとこうだったらいいのになぁ』って思いながらも、現実にのみこまれて過ぎてしまった部分があったけど、今年は私も植物のように根を張っていく1年にしたいです」

「常に私たちが興味を持って取り組んでいるところに種がある」

取材をしながら書き留めた、山本さんの言葉。彼女の凛と美しい立ち姿を表すようなひと言だと思いました。

親である私たちひとりひとりの生き方やその姿勢を、子どもは誰よりも真摯に見つめています。そしてその視線の先には、子ども自身の喜びや成長を促す種のいくつかが、きっと埋まっている。目には見えない土の下で、誰知らぬうちに根を伸ばしてゆく植物のように……。

家事に育児、絵の仕事、そしていよいよ今夏のオープンを控えた「mitosaya」のこと。山本さんのお母さんとして、そして「私」としての日々は続きます。

(おわり)

【写真】神ノ川智早

山本祐布子さん

イラストレーター。2017年に千葉県夷隅郡大多喜町に家族で移住。現在は夫であり、ブックショップ「ユトレヒト」の前オーナー・江口宏志さんとともに、「mitosaya薬草蒸留所」の運営に携わる。7歳と4歳、ふたりの娘を持つ母。近著に『ママのて』(こぐま社)がある。

ライター 片田理恵

編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。


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