【嫁姑のカタチ】後編:「ごはんさえちゃんと食べさせてれば子どもは育つ。心配ないよ」(和田明日香さん・平野レミさんの場合)
ライター 小野民
特集「嫁姑のカタチ」。会いに行ったのは、料理家の和田明日香さん。お義母さんは、あの平野レミさんです。
後編では、和田さんがレミさんから学んだ料理についてのこと、仕事と子育ての経験から変化してきた食育についての話をお聞きします。
レタスとキャベツの違いも分からない、経験値0からの出発
和田さん自身は、自宅に事務所を構えるライター業の父親と、「ばりばりのキャリアウーマン」という母親の共働き家庭で、充実して働く母親の背中を見て育ちました。
懐かしく思い出すのは、母親が平日に冷蔵庫の中のものでぱぱっと作る、和田さん曰く「ザ・家庭料理」、週末になると登場する2種類の味のコロッケや、みんなで囲むホットプレートでのお好み焼き……。
和田さん:
「完全に食べる専門で、結婚するまで料理をしたことがほとんどありませんでした。でも、自分が作る側になると手をかけてくれていたんだなぁと改めて思います。
たとえば、関西出身の母のめんつゆは金色でキラキラしていました。でも、スーパーではそんなめんつゆは売っていなくて。実家のそうめんのつゆは、母がたっぷりのかつおぶしで出汁をとった手づくりだったんだ、と初めて気づきました。だから、私は食いしん坊に育ったんですよね」
結婚と同時に、レミさんの料理を目の当たりにすることになった和田さん。最初はキャベツとレタスの違いが分からない、という状態。それでも、「食べることが好き」だから、料理への興味は増していきました。
手軽でおいしいレミさんの料理を、再現したくてがんばった
レシピを作ったり食育のコラムを書いたりのお仕事も、「いま一番大事な仕事」と語っていた3人の子どもたちへのごはん作りも、和田さんをかたちづくる大事な要素。そこにもレミさんの存在は大きく関わっていたようです。
和田さん:
「レミさんの料理って、とにかくおいしいんです。『昨日のおかずが残っていたわ』とタッパーのまま出てくる何気ないものでも本当においしいんですよ。
隣で私が『おいしい……』とつぶやけば、『じゃあ作り方書くね』って走り書きしてくれたり、『もう一回作ってみるね』って作ってくれたり。作るスピードが速すぎて全然覚えられないんですけどね(笑)」
▲料理の相棒はやっぱり「レミパン」。便利な調理器具が日々の料理作りをぐんと楽しくしてくれます。
和田さんが料理を作ることを好きになっていったのは、いつも楽しくて、おいくて、そして簡単な料理を作るレミさんの姿を間近で見てきたからでした。
和田さん:
「レミさんの料理には、何十年も前から作り続けられているものも多いのですが、どんどん材料も手順も少なくなっていて、改良に余念がないんですよね。私も最近はやっと、教えてもらったレシピを、子どもが好きな味にアレンジできるようになってきました。
以前は、私がレミさんに料理を作るなんて絶対に嫌だったんですが、考えてみればレミさんは人に作ってあげてばかり。最近は、私のでよければ食べてほしくて、作る機会も出てきました。
食材の扱いなんてぜーんぜん敵わないんですけどね」
和田さんとレミさんの『嫁姑ごはん物語』
今では自身も食育インストラクターとして、料理番組に登場したり、レシピ本を出したりと活躍の幅を広げる和田さん。そのきっかけは、レミさんのこんな一言でした。
和田さん:
「『離乳食の本の打ち合わせをするから、暇だったら来なさい』と電話がかかってきたんです。長女を産んでちょうど離乳食をあげ始めたときだったから、現役の声を聞かせなさい、と。
その後、私がいるとおもしろいからという理由で現場に呼び出されているうちに、『この嫁姑はおもしろい』と、出版社の方が目をつけてくださって、『嫁姑ごはん物語』(セブン&アイ出版)を出版することになったんです」
レミさんをきっかけにひらかれていった料理の仕事への道。本格的に仕事を始めたのは和田さんがちょうど「ずっと “○○ちゃんのママ”でいいのかな」と、もやもやしていた時期だったといいます。料理の仕事も、最初は「平野レミの嫁」という立場に限られていたのが、次第に「和田明日香」としての仕事の兆しが現れ始めます。
和田さん:
「でも、自信がなかったんですよね。『レミさんを前に料理なんてできません』みたいな感じでもじもじしていたら、『仕事をしていきたいならこんなチャンスはないよ』と夫に背中を押されて。
『きちんと勉強して資格でもとったら、肩書きにできるんじゃない?』と。それで食育インスタラクターの資格を取れたことをきっかけに『食育インストラクターの和田です』って名乗れるようになりました。
今、料理の仕事の大先輩であるレミさんは、すごくいいアドバイスをくれるよき相談相手です」
「ごはんさえちゃんと食べさせてれば子どもは育つ。心配ないよ」
レミさんから「料理家」というバトンを受け継ぎ、食育インストラクターとして活躍する和田さん。自身の「食育」に対する考えをお聞きしました。
和田さん:
「子どもには、生まれながらにして食べることへの興味や味に対する敏感さがあるんです。これまでは、食育っていうと子どもに何を食べさせるとか、どういう話をするかだと思っていたのですが、ああだこうだと教えることよりも大切なことがあるのかもしれないと考えるようになりました。
大人がどんな風に食べているか、誰がどんな気持ちで用意したものなのか、子どもってよく見ているんですよね。大人の顔とか気配を。
言葉で教える以上に、伝わってることの方が多い気がするんです。
だったら、近くにいてあげられる大人は、「いっしょに食べるっていいね」、「おいしいね」と心から楽しんでいることが大事だなって。
私は、そう考えたら自分が楽しめばいいんだと思えて、ふっと肩の荷がおりたので、子育てに苦戦している人にも、ヒントとして届いたら嬉しいなと思っています」
「ごはんさえちゃんと食べさせてれば子どもは育つから、心配ないよ」と背中を押してくれるレミさんの言葉は、いま、仕事も育児もがんばる和田さんが、自分らしくいるためのお守りみたいなもの。
嫁姑関係はやっぱりちょっと特別。だからこそ、同じ女性として、同じ仕事をする者として、その言葉からもらう力も大きいのかもしれません。
取材後、「実はベストマザー賞を受賞することになって。私なんかでいいんでしょうか」と照れ臭そうに和田さんが教えてくれました。
「人は人、私は私」だからこそ「お母さん自身が楽しんで」と話していた和田さん。型破りな母でもあるレミさんはいいお手本。自分なりのベストマザーってなに?を探しながら、歩みを進めています。
(おわり)
【写真】上原未嗣
もくじ
和田明日香
2010年より義母・平野レミのもと修行を重ね、料理家、食育インストラクターとして活動中。3児の母で、こどもと一緒に楽しめる料理を得意する。TVや雑誌でのレシピ紹介や、コラム執筆など、多方面で活動中。著書に、『嫁姑ごはん物語』(セブン&アイ出版)『和田明日香のコストコごはん』(光文社)など。2018年ベストマザー賞を受賞。
ライター 小野民
編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に地方・農業・食などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫3匹と山梨県在住。
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