【あきらめるの意味】後編:仕事も子育ても。あきらめることはいつも希望とセット

編集スタッフ 松浦

あきらめることは、明らかにすること。

自分のいいことはもちろん、嫌なことも含めて、自分を知ることが、「あきらめる」のもうひとつの意味だといいます。

今回は、そんなちょっと前向きな「あきらめるの意味」について、前編に引き続き、フォトグラファーの馬場わかなさんと考えていきます。

 

自分と向き合い、訪れた転機。きっかけは一つの撮影から

大学卒業と当時に入社した会社を9ヶ月で辞め、フリーランスフォトグラファーとして働き始めた馬場さん。タレントやアイドルの取材から、1日に何軒もまわる店取材や、自分で声をかけながらの街頭スナップなど、どんなものでもがむしゃらに仕事をしていたといいます。

「今の自分にできることは、これだから」そういって、自分と向き合って約5年目のある日、馬場さんに転機が訪れます。それは、とある雑誌の創刊号の撮影オファーからはじまりました。

馬場さん:
「お菓子と人を撮影する仕事でした。その少し前にお仕事をした、お菓子研究家の福田里香さんの紹介で依頼したと聞き、正直人違いではと思いました(笑)

だって、料理専門のフォトグラファーは、世の中にたくさんいますし、みんなはるかに私より経験がある。もちろん嬉しかったけど、その時はなんで私だったのか、本当に分からなかったんです」

今でこそ、暮らしや料理取材の写真を多く撮られている馬場さんですが、この撮影がまさに、そのきっかけとなったものでした。

馬場さん:
「それまで色々な撮影をしてきたなかでも、当時は『人』を撮ることが一番好きでした。でも、この撮影を機に、料理も面白いかもと思い始めたんです。

できたての料理が、湯気をあげながら皿に盛られ、食卓に並ぶ。本当に美味しい瞬間って一瞬で、それは人の表情も同じ。どちらも生き物だなって思います。そんな瞬間を撮っている時が一番心を惹かれますね。

それに、料理って作った人がでるというか、野菜の切り方とか盛り付けだけみても、その人がにじみでてる。そういうところが好きです」

 

他人のほうが、私を知っているときがある

こうして馬場さんの軸となった、料理と人。2017年には、「料理」とそれを作る「人」を一冊にまとめたフォトエッセイ『人と料理』を出版し、ご飯を作って、食べるという日々の営みについて、写真と文章で綴っています。

馬場さん:
「自分はこういう人間だから…….と、それ以前は、自分と向き合ってがむしゃらに仕事をしてきました。でもこの時はじめて、周りから言われて気づかされることだってあるなと思ったんです。自分でも見落としてしまうんだって」

あきらめることは、自分を知ること、向き合うこと。でもそれは、自分で自分を明らかにするだけでなく、人から明らかにされることでもあるのかもしれません。

これまで、自分で自分と向き合い続けてきた馬場さんの転機は、そんな「周り」からの言葉にありました。

 

できたことができなくなる。それも「まぁ仕方がない」と受け入れてみる

そんな馬場さんもプライベートでは、5歳になる男の子の母。予測不能な子どもとの暮らしは、あきらめの連続です。ただそのあきらめは、ギブアップだけではなく、仕事と同じ、改めて自分と向き合うことにつながっていました。

馬場さん:
「まだ赤ちゃんの時は一日中抱っこしていないと泣かれてしまい、部屋は片付けられずどんどん荒れ果てていく……

仕事でも、自分のリズムでいかないことばかりでした。息子は哺乳瓶もミルクも断固拒否だったので、授乳期には3時間で撮って帰ってこれる仕事だけを受けていたり、シッターさんに撮影に同行してもらったり……。子育ては笑っちゃうくらい『あきらめ』の連続です。

でも、子供と向き合うことで、自分とも向き合えていたんです。子供ができたからって、すぐに変われない自分が、痛いほど見える。それって、仕事の現場で、できない自分を見ているのと同じなんです」

馬場さん:
「子育ても仕事も、がんばっているプロセスは尊いけれど、こだわりや理想を一旦置いてみたら、『あれ?そんなにこだわることでもなかったかも』と思うことが多々あります。

『あきらめる』って、そういったもがきから離れ、自分を知り、フラットになった状態から、また一歩踏み出せることかも。

だから、あきらめることは、いつも希望とセットだと思うんです。子育ては、そんな前向きな『あきらめる』の連続でもあります」

これまでできてたことが、できなくなる。でもそれも「まぁ仕方がない」と受け入れてみる。手放した代わりに、その空いた手でまた他のことができるようになるように。

馬場さんが「希望とセット」という理由が少し分かった気がしました。

 

自分なりのまるを書ければいい

最後に、馬場さんが持ってきてくれたのは、古書店でみつけたという絵本『まるのおうさま』。詩人・谷川俊太郎の言葉と、グラフィックデザイナー・粟津潔の絵で綴られています。

実は、今回の取材のきっかけとなったのは、この本について書いた、馬場さんのインスタグラムの投稿でした。

“まるをかいてみよう しろいかみに ちからいっぱい じぶんのまるを”

(谷川俊太郎 文 / 粟津潔 絵(1971年)『まるのおうさま』福音館書店)

馬場さん:
「自分なりの丸を描き、自分に丸をしたいものだ。誰かに褒められるのはご褒美みたいなもので、ありがたく受け取ればいいけど、それを期待しちゃうと足元がぐらぐらしちゃう。自分のサイズをおごらず、卑下せず受け止めて、自分に丸をしていきたいものです」

あきらめることは、今の自分の大きさを認め、よしと「まる」をして、次へ進むこと。ダメだったで投げ出すのは簡単かもしれないけれど、自分が一番見たくない「なぜダメだったのか」を知ろうとすることは、その先の一歩に必ずつながるはず。

だから、いつも「希望」とセット。

自分を知って前に進むこと。そして自分に素直でいることこそが、もうひとつの「あきらめるの意味」なのかもしれません。

(おわり)

【写真】原田教正

もくじ

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馬場わかな(ばば・わかな)

フォトグラファー。1974年3月東京生まれ。雑誌、単行本で主に暮らし周りを撮影。 好きな被写体は人物と料理。その名も『人と料理』(アノニマスタジオ刊)という 17組の人とその人の作った料理を撮り、文章を綴った著書がある。他に『Travel Pictures』『まよいながら、ゆれながら』(文・中川ちえ)『祝福』など。

▼馬場わかなさんの書籍はこちら


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