【はじめての入学準備】第3話:変わろうとしなくても、大丈夫。子どもは自分で育っていく
編集スタッフ 小林
全3話でお届けしている特集「はじめての入学準備」。
お話を伺ったのは、小学校5年の息子、小学校3年の娘を育てながら、ご自宅でソーイング教室「laetoli(ラエトリ)」を主宰されている、井田ちかこさんです。
第1話では入学準備の経験談を、第2話では子どもの成長に合わせて変化した暮らしの工夫について、お話を伺いしました。
そばにいるとなんだか安心感をもらえるような、穏やかな性格の井田さん。そんな井田さんにも、やっぱり不安だった時期はあったんでしょうか?
第3話では入学当時を振り返ってみて、井田さん自身に起こった変化について、お話していただきます。
あんなにずっと横にいたのに! 気づいたらいない
お子さんが小学生になって、いろいろな変化があると思いますが、今振り返ってみて一番大きく変わったことは何でしょう?
井田さん:
「息子が小学校へ入学してからサッカーを習いだして、夜帰ってくるようになったんです。
幼稚園の頃はいつも一緒にいたことを、いつまで続くんだろう、なんて思っていたこともあったけれど、実際離れてみると親の方がドキドキして。
『いつもずっと横にいた子がこんな時間なのにいない! あんなにべったりだったのに!』って(笑)。
子どもは楽しそうに友達と帰ってくるので、だんだん慣れましたけど、最初はやっぱり心配でしたね」
「好き」の芽を見つけて。変わっていった子どもと自分
井田さん:
「そんな心配とは裏腹に、サッカーに出会った息子は体を動かしてどんどん元気に育っていって。娘は何かを作ることがすごく好きで。二人とも、もう夢中なんです。
そうやって子ども自身が『好き』の芽を見つけて逞しく変わっていったから、それに引っ張られるように、自分も変わっていったのかもしれません」
▲娘さんがつくった「しろ」のおうち。
井田さん:
「子どもが小学生になった今は、私、昔に比べて全然心配していないんです。
自分は子どもの頃なんてぼーっと生きてきた気がするし、好きなことなんてそんなに簡単には見つからないと思っていて。
だから子どもたちにそういうものがひとつでも見つかったことは、ありがたいことだなぁって思います」
自分の不安が、子どもに伝わっていたのかも
井田さん:
「小学校に入ってたくさんの子どもたちの個性に触れる中で、はじめて子どもの性格も色々って気づいて。それからは『もっと自分もおおらかでいいんだ』って思えるようになった気がしています。
私は幼稚園のときのほうが今よりもっと気が張っていて、きっちり『こうしなきゃ』って思っていたんです。
だからか、あの頃の方が子どもを周りと比べてたというか『みんなはあれできるけど、うちの子は大丈夫かな?』ってどこか心配していて」
井田さん:
「けれどきっと、それも子どもに伝わっていたのかもしれません。
子どもって純粋で、真面目だから、どこかで『しっかりしなきゃ』って思わせていたのかな、って。
今は誰かと比べるんじゃなくて、『前よりもできるようになったことたくさんあるよね』って、息子たちのペースで成長しているということがわかっていれば、それでいいんだなと思います」
深刻になるよりも、「その気持ち分かるよ」の声を
子どもが外の世界に出ていくときって、きっとうまくいかないこともあると思うんです。そんなとき、井田さんは親として、自分自身が心がけていることってありますか?
井田さん:
「私はなかなかそういうことに気づかないタイプ。だから、本人がすごい苦労してるのに気づけていなかったのかもしれないと思って、なるべく聞くようにしています。
けれど全体を聞いて、すべてを鵜呑みにしないように心がけてますね。だいたい8分くらいで聞いているイメージでしょうか。
例えば『だれだれが意地悪してさ』とか言われると、あの子意地悪なのかな、なんてその場ではつい思ってしまう。けれど冷静になってよく話を聞いてみると、自分の小さな頃にも同じようなことがあったな、って落ち着けることも。
だから『何日も声かけてもそうだったら、次いってみよ〜!』みたいな感じで、深刻になりすぎないよう子どもに声をかけていますね」
井田さん:
「子どもの話を聞いていると、自分が子どもの頃感じたことと同じなんだな、と思うことはたくさんあります。
だからうまくいかないとき『しょうがない』と伝えるよりは、『その気持ち分かるよ』と伝えると、子どももどこか安心した顔をしているような気がします。
これから先、自分がどうやって立ち振る舞ってくかとか、なかなか思う通りにいかない、なんてこともある。避けて通れないことも多いと思います。
だからきっと、もちろん悩みは尽きないだろうけど、そんなときこそできるだけ同じ目線に立って話をしていけたらいいなと思います」
変わろうとしなくても、大丈夫。子どもは自分で育っていく
井田さん:
「『自分がしっかりしなくても、子どもはちゃんと育ってく。だからなんとかなるよ』と、今振り返ると本当に思います。
たとえ周りのみんなと同じペースじゃなくても、大丈夫。ちゃんとその子なりのペースで、気づけばいろんなことを、自分でできるようになります。その後押しをするのが、今の私の役目なのかもしれませんね。
あのときは想像もできなかったけれど、今では子どもたちが『洗濯物を洗おうか?』って聞いてくれたり、夕ご飯のときに『なんか手伝うことある?』って言ってくれたり。時々ですけどね。
最近はもっと甘えて欲しいな、なんて、たまに思っちゃうくらいです(笑)」
たとえどんなにしっかり準備をしていても、いざその日を目前にすると「明日からの生活はどうなるだろう?」と、いくつになってもドキドキします。
そんなとき、周りと比べて不安にならなくていいんだと、安心させてくれた井田さん。お話を聞いているうちに、それは子どもだけでなく、大人にも言えることかもしれないと思いました。
そうして肩の力を抜いて、お母さんの「こころの入学準備」がができたなら。それは新しい生活を迎える子どもたちにとっても、きっと心強いことのような気がします。
(おわり)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
井田ちかこ
学生時代に洋服作りの基礎・染色や織りを学び、会社員として働きながら洋裁学校に通う日々を過ごす。その後北欧の織りに魅せられて北欧織りの先生に師事し、2年間学ぶ。出産を経て、日々の暮らしの中のささやかなものづくりを提案しながら、一緒に愉しめるソーイング教室「laetoli(ラエトリ)」を2016年より主宰している。
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