【愛すべきマンネリ】第3話:マンネリの日々は「くり返すほど大切なこと」の連なり(山本ふみこさん)

ライター 藤沢あかり

随筆家の山本ふみこさんに、「愛すべきマンネリ」について、お話をうかがっています。

2話目では、マンネリと隣り合わせにある「繰り返し」を愛して続けていけば、それが自信につながるというお話でした。最終話となる今回は、「マンネリ」を続けた先にあるもの、そして自分を助けてくれる「マンネリ」についてです。

 

手抜きしたいときこそ、「マンネリ」の腕の見せどころ

▲大きな寸胴鍋。来客があるときや家を空けるとき、これでたっぷりの野菜スープを煮込む。「パンと一緒に自由に食べてもらって、翌日はクリームシチューになり、そこからグラタンやクリームコロッケに行き着いたり、カレー方面にいくときも……」

暮らしの中にマンネリを感じるシーンはさまざまですが、多くの人が一番強く感じるのは、やはり「料理」かもしれません。

山本さん:
「料理は毎日欠かさず続いていくことですから。でも、人にものを食べてもらうって、その人にとってのすごく大切な部分を担っているはず。そう思うと、台所をまかされるってかなりいい仕事。

そうはいっても、いろいろ大変なこともあるだろうから、できあいのものに上手に頼って楽になれたらいいですよね。だから、そのできあいも、わたしはいつも同じ」

山本さん:
「“商店街のおじさんが焼く焼き鳥” とか、“いつものお店の餃子” というふうに決めているんです。

作っている人の顔が見えると、『あぁ今日はあのおじさんに助けてもらった』って思えるから。家族にも『今日はおじちゃんの焼き鳥です』って言える(笑)。

忙しいときほど、初めて買うおいしいかわからないものより、自分も家族も確実に好きな ”安定のマンネリ” に助けてもらえたらいいわよね」

 

マンネリの差し入れが、相手の定番に

そんな山本さんのマンネリレシピをひとつ、教えていただきました。

山本さん:
「人に教えてもらったのが始まりで、かなり初期からのマンネリ料理。鳥もも肉の香味焼きです。

甘辛い味で簡単につくれて、その日すぐに食べなくても大丈夫だから、人に持って行くのにもいいんです。引越し作業の友達の家に、これと雑巾だけ持っていって、『お手伝いはできないけど、これ食べて!』って(笑)。

あとはパーティーの差し入れ、っていうよりは、パーティーで疲れた翌日のご飯にしてもらう感じかな。お土産にできる料理ってすごく便利。もちろん、自宅でおかずにもするし、お弁当に入れてもいい。ゆで卵と青菜を添えて照り焼き丼みたいにしてもおいしいんです」

※気になるレシピは最後でご紹介します。

▲毎日の料理にマンネリを感じたら、大きく冒険したり何か目新しいメニューを探そうとするより、盛りつけや器を変えて、小さな景色の変化を楽しむのが山本さん流。

そのほか、ご年配の方へのお土産は「ホワイトソース」と決めているそう。

山本さん:
「おいしいホワイトソースってもらうと嬉しいから。ゆで卵と茹でたブロッコリーにかけて焼くだけでもいいし、焼いたお魚にかけたり、半分冷凍してもいい。

差し入れはマンネリメニューに決めているの。考えなくていいって、もう財産です。

それに毎回違うものにしなくちゃって思わなくても、相手にとっても定番となるからいいんじゃないかな。贈り物こそ、マンネリもいいのかもね」

 

不機嫌なごちそうより、ご機嫌なラーメン一杯

毎日、生活の中に小さなマンネリを散りばめながら暮らしている山本さん。

それは、自分自身を「ご機嫌に保つ」ためでもあるのだといいます。

山本さん:
「毎日のごはんだって、疲れた〜って不機嫌な顔で何品も出すより、ご機嫌なラーメン一杯のほうがおいしいし、家族もうれしいはず。

わたしにとっては、『機嫌よく生きる』って、人生の目標なんです」

マンネリを味方につけるために、ずっと続けてきたことがあるそうです。それは、「寝る前の部屋をきちんとリセットしておく」ということ。

▲長年使い続けている家具が、不揃いながらもさまざまな表情を寄せ合って同居するリビング。スチールラックは初期の「無印良品」、テレビボードにしている水屋箪笥は、築100年を超える夫の生家から受け継いだもの。

山本さん:
「自分が納得できる、いつもの部屋の状態ってあるでしょう。

わたしはそこが揺らいでしまうと、自分の不機嫌につながってしまうんです。だから、どんなに眠くて疲れていても、これだけは……!と、ひと頑張りして、必ず整えてから寝るようにしています。そうすると、朝起きたときに、自分をがっかりさせないで済むんです」

 

暮らしを整えることが、言葉以上の言葉に

山本さん:
思い返してみれば、”家のことをちゃんとやると、言葉以上の言葉になる” というのは、昔から感じていたことかもしれません。

たとえば、家族とけんかになったとしても、家事をきちんとやっている、つまり暮らしのベースが整っていれば、ありがとうやごめんねがもっと伝わる気がするの。

だからわたしは、自分が機嫌よく過ごすためにもマンネリを味方につけて暮らしてきたのかな」

▲食器棚の扉の一枚に塗料を塗り、黒板に。

人に上手に助けてもらうことも、自身のご機嫌のためには欠かせないといいます。

山本さん:
「何かをお願いするときは、黒板にこうして書いておくんです。

お願いごとだから、ていねいに書くことも大切。伝言メモや買い物メモひとつも、自分の作品だと思うと、きちんと書ける気がします」

随筆家の山本さんらしい言葉ですが、私たちにも当てはまりそうです。ていねいに書いた文字と乱雑なメモ書き、目に触れたときに暮らしの景色はどちらが美しいか。バタバタしているときこそ、気をつけたいものです。

 

マンネリを楽しんだ先に見えるものとは

▲リビングの一角にある山本さんの書斎。窓辺にぶら下がっているのは、進行中の書類。

山本さん:
「くり返しや積み重ねって、どこか『あぁ毎日こんなことして…』『昨日と同じかぁ』って思っちゃうんですよね。でも、やっぱり積み上げていく過程をきちんと大事にして、プロセスを楽しむって大事なんじゃないかと思います。

結果だけを一足飛びで求めるインスタントな暮らしでは、きっと達成感は得られないですから」

掃除に洗濯、片づけ、毎日の食事やお弁当づくり。わたしたちの暮らしには、「マンネリ」に感じてしまいがちなことがたくさんあります。でもそれは、「くり返すほど必要性がある大切なこと」で毎日が成り立っている、とも言い換えられそうです。そしてその繰り返した先に、達成感がある。なんだかマンネリって、筋トレみたいですね。

ずっと、遠ざけなくちゃとばかり思っていた「マンネリ」。いつの間にか、すっかり愛おしくなり、宝物のように大切に抱きかかえる自分がいるのに気がつきました。

 

山本ふみこさんのマンネリレシピ「鶏もも肉の香味焼き」

材料

・鶏もも肉…3枚
・長ねぎ…1本

【煮汁】
・カラメル:砂糖…大さじ4、水…大さじ1
・しょうゆ…100cc
・水…100cc
・しょうが(薄切り)…1片

・こしょう…少し
・青いもの(ブロッコリやサラダ菜など)…適宜

下ごしらえ

・鳥もも肉の皮にフォークで穴を開けておく。(味がよくしみこむように)
・長ネギは太めの斜め切りにしておく。

つくり方

[1]フライパンを熱し、鶏もも肉を焼く。皮を下にして、おいしそうな焦げ目をつける。(ここでは中まで火が通っていなくて大丈夫)最後に長ネギを加え、炒め合わせておく。

[2]別の鍋に、砂糖大さじ4と水大さじ1を入れ、弱めの中火でカラメルをつくる。かき混ぜながら、焦げないようにゆっくりと。きつね色になったら【煮汁】の他の材料(しょうゆ、水、しょうが)を加えて混ぜ、ひと煮立ちさせておく。

[3]1のフライパンに2を加え、絡めながら汁が少し残るくらいまで煮詰めていく。仕上げにこしょうをふる。

[4]茹でたブロッコリーやサラダ菜などを添えて、盛りつけて完成。


山本さん:
「先にカラメルをつくるのはひと手間ですが、こうすると香ばしさがでます。簡単につくりたいときは、カラメルにせずに砂糖を煮汁に直接加えても。その場合は、砂糖を大さじ4→大さじ3に減らしてくださいね」

(おわり)

 

【写真】志鎌康平


もくじ

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山本ふみこ

随筆家。料理や子育て、片づけなど、暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。武蔵野市教育委員やエッセイ講座の講師としての活動も。著書に『忘れてはいけないことを、書きつけました。』(PHP研究所)、『家のしごと』(ミシマ社)など他多数。

ライター 藤沢あかり

編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。


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