【佐藤友子×土門蘭の『なんとか暮らしてます』】01:料理編〈前編〉料理が苦手なわたしたち。

文筆家 土門蘭

はじめまして。土門蘭と申します。普段は小説やエッセイ、インタビュー記事を書いたりして過ごしている、京都在住の小説家です。

初めてわたしが佐藤さんと出会ったのは、インタビュー連載『経営者の孤独』で、取材をさせていただいたときでした。

佐藤さんの第一印象は、「しっかりと目を見て耳を傾ける人」です。

インタビューというのは、語り手が主で、聞き手はあくまで裏方。だけど佐藤さんは、まるでわたし自身からも言葉を引き出そうとしているみたいに、しっかりと目を見てわたしの言葉に熱心に相槌を打ってくれました。おかげでわたしはその日、いつもの取材よりもずいぶんと自分の思っていることを話したように思います。

それは「インタビュー」が「対話」に近づいた、非常に刺激的な体験でした。

まるで土を掘るように、ひとつのテーマをふたりで話していく。そこにはあらかじめ用意された答えではなく、そのときふたりにしか掘り当てられない新しい答えが現れます。

そしてそれは、固定概念や常識とはまた異なった「自分たちらしい」答えなのでした。

その体験から、佐藤さんはいろいろなことを自分の言葉で考える人なのだなと思いました。

もしかしたら、常にちょっとした「生きづらさ」を感じている人なのかもしれません。スムーズに楽々と暮らしているのなら、いちいち立ち止まって考える必要はありませんから。

常にちょっとした「生きづらさ」を抱えているわたしは、佐藤さんともっと話をしてみたいと思いました。

そう思い実現した、佐藤さんとの対談。それがこの『なんとか暮らしてます』です。

「暮らし」にまつわるテーマとして、1回目には「料理」を選びました。

日々の生活に欠かせない料理ですが、佐藤さんもわたしも料理が苦手です。そんなわたしたちが料理とどう向き合い、付き合っていくか……。

自分たちらしい新しい答えが出るかもしれない、と思いながら、これからもなんとか暮らしていくために、ふたりで話しました。

 

春が苦手な「なんとか暮らして」いるふたり

佐藤
この対談のタイトルは、編集スタッフのアイデアなんですよね。私たちふたりを見て「1日が終わったときに『今日もなんとか生き延びたな』って思ってそうだな」と思ったという(笑)。

土門
あはは。確かに私はそういうところがあります。佐藤さんも「なんとか暮らして」いる感、あるんですか?

佐藤
いつもですよ。特に私は、今年の1月2月が散々だったのですよ。

土門
あらら、それはどうして。

佐藤
何でかわからないけど、毎年1月あたりが苦手なんですよね。
12月が私の誕生日で、1月初旬が息子の誕生日だからかもしれない。自分も子供を歳をとるっていうビッグウェーブがあった後に、なぜだか毎年、すこーんって気分が落ちるの。体調もすぐれないし、そのうえ仕事も思うようにいかないことが続いたりして。
今年は人生史の中でももっとも落ち込んでしまった年で、本当に「なんとか暮らし」たって感じでしたね。今(注:対談収録した3月下旬)はようやくそこを抜けたところなんですけど……。
春に調子悪くなる人って、結構多いように思います。土門さんも以前ご自身のブログで、春が苦手って書いていましたよね?

土門
はい、春は苦手ですね。
というか春だけじゃなくて、年度切替、年末年始、ゴールデンウィーク、お盆とかもだめなんです。連休や季節の変わり目の、あのリズムが変わる感じがすごく苦手で。できたらずっと同じリズムで仕事をしていたいって思っているタイプなんですよね。
連休って急に「何か有意義なことをしなきゃ」「楽しまなくちゃ」って気持ちになるんですよ。でも私には日常をルーティンで過ごすのはできても、変化を楽しむ能力があまりなくって。だから途方に暮れて、なんだか落ち込むんだと思います。
もうちょっとこう、暮らしを豊かに楽しめたらとは思うんですけどね。

 

平日と休日、それぞれの料理との向き合い方

佐藤
それで、今日は「暮らし」の中でも「料理」がテーマなんだけど、土門さんもほんとに料理苦手なんですか?

土門
はい。さっきの話とつながるんですけど、家事の中でも「料理」って、ルーティンというよりは「バラエティを楽しむもの」のように思うんですよね。日常の中のクリエイティブというか。だからか知らないけど、すごく苦手なんです。

佐藤
私も料理はめっちゃ苦手です。嫌いではないんだけど、苦手意識がすごくある。

土門
毎日料理はされているんですか?

佐藤
いや、平日は週に2,3回くらいかな。金曜日の夜は家族で外食と決めてるので、あとの平日は日曜日に作りおいたものでしのいだり、炒めたり焼いたり蒸したりと簡単に作れる料理が中心。あとは味噌汁!
週末は、特に日曜は必ず自炊するようにしていて。私、日曜の夜がいちばんおいしいご飯を作れていると思うんですよ。

土門
へえー。

佐藤
週末で掃除ができているから部屋がきれいな状態だし、自分もメンテされているから、日曜の夜がいちばん調子がいいんですよね。それでキッチンでお酒を飲みつつ、iPadで映画を観ながら常備菜なんかを料理してて。
だから私にとっては、日曜の夜だけが唯一自分を肯定できる時間なんですよ。主婦としても母としてもひとりの女性としても。楽しむ余裕が、気持ち的にも身体的にもあって。

土門
そうやってメリハリつけているんですね。
うちは平日はほぼ自炊です。変わりばえのない、義務っぽーいご飯を作ってしのいで。

佐藤
義務っぽいご飯(笑)。それってどんななんですか?

土門
用意するのは主食、主菜、副菜、汁物なんですけど、バリエーションに乏しいので中身がいつも似たり寄ったりなんですよ。豚肉の生姜焼きとほうれん草の胡麻和えが頻繁に出てくる、みたいな(笑)。
それで平日なんとか乗り切って、土日は夫に任せることが多いですね。

佐藤
へえー。旦那さんは料理好きなんですか?

土門
夫はカレーを作るのが好きなんです。
これは私の仮説なんですけど、料理が好きな人って、カレーを好んで作る傾向にあると思っていて。

佐藤
あはは、そうなの?

土門
カレーって多分、探究心に火をつけるメニューなんですよ。市販のルーを使わずに、様々なスパイスを使ってどこまでいけるか、みたいな創意工夫を呼び起こすというか。
逆に私のような料理の苦手な人間は、市販のルーを買ってきて、箱の裏に書かれた手順の通りに作るんです。

佐藤
うわ、私だそれ。わかるわかる。

土門
探究心のある人は、義務ではなく喜びでやっているので、平日よりは休日向きな人だと思うんですね。効率よりも大事な、「料理を作る」ということへの純粋な喜びがあるから。
でも効率を無視する分、食器類の消費量が半端ないので、毎週末お皿洗うのは大変なんですが(笑)。

 

「フィットする暮らし」から考える、3つの箱

佐藤
うちの店は「フィットする暮らし、つくろう。」っていうコンセプトを掲げているんですけど、「フィットする暮らし」って何かっていうと、「丁寧な暮らし」とか「ナチュラルな暮らし」というのとは違うんですね。
「丁寧な暮らし」って、暮らしの中の細やかな部分まで目が行き届いているというイメージかなと思うんですが、「フィットする暮らし」っていうのはそうじゃなくて、「自分の得意と不得意、快と不快、理想と現実のはざまで整合性がとれている暮らし」のことだと思っているんです。
だから、自分の両方がわかっている状態。「こうできたらいいんだけど、私はここまでしかできないんだよな」っていうのがわかっていることが大事なんですね。

土門
なるほどー。理想と現実を把握した上で、自分のちょうどいいところを探すってイメージなんですね。

佐藤
そうなんです。
で、その「フィットする暮らし」の定義で考えると、家事は3つの箱に分けられると考えていて。
ひとつ目が「やりたくて、ついやっちゃうこと」、ふたつ目が「やりたくないけど、やらざるを得ないこと」、3つ目が「やりたくなくて、やらなくてもいいこと」。

土門
ふんふん。

佐藤
私にとって、「料理」はふたつ目の箱に入っているんです。苦手なんだけど、家族がいるからやらざるを得ない。だけどいつか3つ目の箱に入れられるときがくるなら、そっちに入れたいなって。
土門さんも、ふたつ目の箱に料理が入っているんじゃないですか?

土門
ですね。自分ひとりだったらもっと簡単に済ませるけど、うちもまだ小さい子がふたりいるので、義務としてやっているって感じです。

佐藤
じゃあ土門さんは、ひとつ目の「やりたくて、ついやっちゃうこと」の箱に入っている家事ってなあに?

土門
うーん……洗濯を干すことですかね。これはすごく好きです。精神衛生上、とても良い気がするから。
料理も掃除も、どこまでも追求できてしまうから、終わりが見えないじゃないですか。すると、どこまでやっても自分が中途半端な人間に思えて、辛くなってしまうんですよ(笑)。
でも洗濯物って、とりあえずシワを伸ばして干せば終わったことになる。それって他の家事よりもシンプルで健全な感じがするんですよね。自分の中に「まだ本気出せたんじゃない?」みたいな感じが溜まっていかなくて、自分を素直に肯定できるっていうか。

佐藤
あはは。なるほどねえ。

土門
佐藤さんはどうですか?

佐藤
私は、緑の世話と、床掃除かな。そんな毎日やらなくてもいいじゃんって思われているかもしれないけど、毎晩掃除機かけてるし、毎日植物の葉っぱを拭き取ってるんですよ。
「だったらその分料理頑張ってよ!」って家族は思っているかもしれないけれど、いや、料理だってできる限りは頑張るんですけれど(笑)、自分で自分を止められないんですよね。自分で「こっちの家事はこっちの箱に入れ替えよう」っていうのはコントロールできないんです。
なので、料理はやっぱりふたつ目の箱。できる限り頑張ろうとは思うんだけど、どうも苦手というか積極的には取り組めなくて……。ただ今日もちゃんと生きていかなきゃ!って感じで、なんとか炒めたり煮込んだりみたいな感じなんですよね。
だけどそれを自覚することは、「フィットする暮らし」を考える上で大事だなって思います。

 

料理上手の定義と条件って?

土門
佐藤さんは、「自分は料理が下手だな」って思うことはありますか?

佐藤
まわりからそう言われたことはないし、自分でも下手だと諦めてはいないんですけど。じゃあ上手だと思えるかというと、うーん、自信はありません。
「料理上手」とはどういうことかを知っているから、自分がそうじゃないってことが完全にわかるんですよねえ。

土門
へー、佐藤さんの「料理上手」の定義、聞きたいです。

佐藤
私にとっては、兄の奥さんがまさにそうなの。一番尊敬する「料理上手」。
いつ急に家に行っても、冷蔵庫を覗いて、「これしかないけどいい?」って言って、ぱぱっとおいしいものを作ってくれるんです。その一品が、本当に滋養に溢れてておいしくて。

土門
わー、そういうの憧れます。
つまり「料理上手」の定義は、「ありものでおいしいものを作れる」ということでしょうか?

佐藤
そうそう。彼女は何かレシピを見て作っているとかではないんですよ。この食材ならこうしたらおいしいだろうなっていう、感覚的な素養ができているんでしょうね。

土門
「こうしたらおいしいだろうな」は「料理上手」に欠かせない感覚ですよね、きっと。
私は、食いしん坊であることが「料理上手」の条件だと思うんです。
たとえば、レストランとかにご飯を食べに行くとしますよね。料理上手な人と一緒に行くと、「なるほど、これ、あの香辛料使ってるんだ」とか「今度家でも作ってみよう」とか言うんですよ。そうやって、家でもおいしいものを食べようとするんです(笑)。
でも、私にとってはそれが本当に驚きで。「だってこれ、売り物だよ? 家で作れるわけなくない?」って思ってしまうから。

佐藤
あはは。わかるなー。

土門
それって、おしゃれ上手な人と一緒ですよね。雑誌でモデルさんが洋服を着ているのを見て、「このコーデと色使いかわいいな」って、自分も真似してみようって思う感じ。

佐藤
うんうん。自分ごととして見ているんですよね

土門
そう。そうやって自分ごととしてとらえて吸収できる人が、どんどん上手になっていく。
一方でわたしは、「料理上手」な方を手の届かない存在だと思っていて、どうしてもそこに超えられない壁があるんですよね。

 

もしかしたら私たちは「超絶頑固」?

佐藤
料理をうまくなろうと努力したことってあります?

土門
レシピブックを何冊か買って、それを見て作ることはあるんですけど、覚えられないんですよね。毎回見ないとできなくて、常に0から挑戦している感じです。

佐藤
すっごいわかります。
それってメイクとも似ていません? 新しいメイクにチャレンジしてみても、結局いつものメイクに戻る感じ。

土門
まさにそれですね。新しいやり方が身につかない。何でなんでしょう?

佐藤
すでに確立している自分の方法でいい、と思っているんじゃないでしょうか。最近、もしかしたら私は超絶頑固なのかもしれないなって思っていて……

土門
超絶頑固(笑)。それは、何に対しての頑固さですか?

佐藤
自分を変えないことへの、ですかね。
たとえば子供が小さい頃は「自分みたいな母親で大丈夫かな」って思ってて、その中に料理も含まれていたんですよ。それで改めていろんなレシピを覚えようと頑張ったんだけど、続かなくてね……。

土門
ああ……私もそうです。頑張ろうと肩肘を張る時点で、もう続かない。

佐藤
自分が得意じゃないことでもやってみようとは思うけど、習慣化しないんですよね。やっぱり好きじゃないことは続けられないです。「素直さ」と「頑固さ」って真逆のことなのに、その両方を自分の内側に抱えているし、それは変えられないんだなって……(苦笑)。

なんだか、お互いがどれだけ料理が苦手かを浮き彫りにしていく会話になってしまった『なんとか暮らしてます』の前編。

ですが、話をしながらわたしは少し安心していました。「そうか、佐藤さんも本当に料理苦手なんだな」と。

「なんとか暮らして」いるとは言え、「暮らし」をテーマにしたお店の店長でもある佐藤さんが、本当に料理が苦手なのか……? 心のどこかで、まだそう疑う気持ちがあったのかもしれません。だから、「料理」に対する劣等感を、佐藤さんも確実に持っていると知ってほっとしたのです。

そしてもうひとつ安心したのは、「苦手なままでもいいのかもしれないな」と思ったこと。

佐藤さんは、「フィットする暮らし」の定義について「自分の得意と不得意、快と不快、理想と現実のはざまで整合性がとれている暮らし」と話しました。それは、無理して自分の「苦手」を克服するのではなく、自然な自分を受け入れていこうという、自分に寛容な考え方です。

料理が苦手なわたしたちがこれからも「なんとか暮らして」いくために、対談は続きます。

どうぞ後半もお楽しみください。

(つづく)

【写真】 片岡杏子

 


もくじ

 

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土門蘭

1985年広島生。小説家。京都在住。ウェブ制作会社でライター・ディレクターとして勤務後、2017年、出版業・執筆業を行う合同会社文鳥社を設立。小説・短歌等の文芸作品を執筆する傍ら、インタビュー記事のライティングやコピーライティングなどを行う。共著に『100年後あなたもわたしもいない日に』(京都文鳥社)。今夏、『経営者の孤独。』(ポプラ社)と『戦争と五人の女』(京都文鳥社)を刊行予定。


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