【35歳の仕事論】第3話:仕事も、人生も。マネジメントはクリエイティブ(ソニックガーデン 倉貫義人さん)
ライター 小野民
年齢も、仕事のあり方も「中堅」に差し掛かったスタッフ津田(編集チームマネージャー)が、人生の先輩に会いに行くシリーズ「35歳の仕事論」をお届けしています。
今回の対談相手は『管理ゼロで成果はあがる ~「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう』の著者である倉貫義人(くらぬき よしひと)さん。第2話では、マネージャーの仕事について、管理ではなく、あえて多様な意見が出ることをうながしたり、変化を持ち込んだりすることの大切さについて語られました。
第3話は、まずセルフマネジメントについて。そして倉貫さんの35歳の頃の失敗談から、マネジメントは「再現性がない」という話へと展開します。
セルフマネジメントは、自分と周りを「いい感じ」にしていくこと。
倉貫さん:
「人生をマネジメントしていこうと考えたときにポイントになるのが、自分自身をいい感じにするためには、周りの人との関係も良くならないといけないってことです。
周りの人にもいい影響を与えるとか、周りの人にも気持ちよくなってもらうとか、そういう人間関係ができて初めてセルフマネジメント(自己管理能力)なんです」
編集スタッフ 津田:
「セルフマネジメントって勘違いしやすいです。仕事において『自分の仕事を他人に迷惑をかけずに終える』ことが、セルフマネジメントだと思っているパターンがすごく多い。
迷惑をかけちゃダメってバイアスがかかると、頼り合えないチームになりやすい弊害があります。でも成果のためなら、『悩んでます!』『ちょっと工数が足りないです!』と声をあげて、チームとして支えあったり助けあってもいいと思うんです。
完璧にやって欲しいって一度も言われてないはずなんだけど、自分でハードルを上げてしまう」
倉貫さん:
「きっと期待に応えたいのもあるし、これまでの教育とか経験で完璧でないものを出して怒られた経験があるのかもしれません。
僕らは、『雑』という言葉が大好きで、『雑に相談してね』『雑で持ってきて』とよく言いいます。雑に相談するカルチャーを身につけてもらうためには、雑に相談されたときでも、ダメ出しをしない。そうするとトラウマは消えていく。
任せて任さずって言葉、知っていますか? マネージャーからも、雑に話しにいったらいいと思いますよ。『どうなってる? 』『やりすぎてない?』って。だいたい、完璧を求めてやりすぎている状態って察知しているでしょ(笑)」
編集スタッフ 津田:
「確かに……。見守らなくちゃっていうのも思い込みだ。うーん、難しい。けど、だから面白い仕事なんですよね」
マネジメント1年生の挫折
倉貫さん:
「僕は、今でこそ『管理しない』とか言っているけど、10年前、それこそ35歳くらいの時は、究極に管理しまくっていましたよ(笑)。完全にマイクロマネジメントしていました。
35歳の時に大きな会社の社内ベンチャーで起業しましたが、それまでずっとプログラマーをしていたので、経営とかマネジメントとか門外漢。
とりあえず全部自分で考えて、全部自分で社員たちのやることを見て管理して、何だったら、朝もミーティングして1日のスケジュールを全部確認して、彼らの時間をギリギリ限界まで使う。社員の暇な時間を作るともったいないから、空き時間もなるべくなくす。雑談なんてしないし、スケジュールをパズルみたいに全部埋めて。でも全然成果はでなくて」
編集スタッフ 津田:
「今と正反対! 倉貫さんにもそんな時代があったとは意外です」
倉貫さん:
「彼らの仕事を僕が全部考えてやっていたから、僕の仕事が溜まって他のみんなが暇になってしまう。
この状態は生産性が良くないし、めちゃくちゃ努力しても、ずっと赤字が続いて、一瞬やけくそになったんです。一番お客様のところに行っているのは社員たちだから、その社員たちに商品を考えてもらってしまえ、と。
そこでうまくいった。でもそれは、管理して生産性をあげるとか、振り返りをするとかして育ててきたチームだからできたことだでもあるんですよね」
マネージャーの「教科書」はないけれど……。
編集スタッフ 津田:
「紆余曲折を経て、今のような『管理しない』体制に最適化されたわけですね。つくづくマネジメントにとって『そのまま真似すればOK』みたいな教科書は存在しないなと思わされます。
でも自分の理想はある。倉貫さんの本も、ドラッカーの本も、いま私が行きたい方向について書かれているように感じました。ぼんやり頭に浮かべてた理想が、言語化されている感覚というか。
編集チームのマネージャーになって4年目ですが、これは4年前には分からなかった。たくさん経験したあとに読んではじめて、そういうことだったのかと腑に落ちるんです。
正解は一個もなくて、結局は臨床が大事。現場に行って、やってみるしかない。どんなに素晴らしい手法でも、そのまま真似て結果を出せるものってないなと思います」
倉貫さん:
「たしかに、真似られるもの、同じようにやれるものはないです。マネジメントはチームにもよるし、事業にもよるし、そこにいる人にもよるし、土地にもよるかもしれない。マネージャーの数だけマネジメントの種類がある。ひとつとして同じものがない。
裏を返せば、再現性の低い仕事の特徴を兼ね揃えているクリエイティブな仕事。最近はそう捉えるようになりました。
クリエイティブな仕事はデザインやアートの分野に限らなくて、再現性の低い仕事は全部クリエイティブ。昨日と今日、今日と明日、同じことをしない。マネジメントって毎日しているかもしれないけどやっている内容は違うはず。
昔は、マネジメントってあまり好きじゃなかった。現場で手を動かすプログラマーだったから、マネジメントしゃらくせーなって思っていたんです。でも、今はやれることいっぱいある、めちゃくちゃ楽しい仕事なんだと思うんです」
編集スタッフ 津田:
「すごく勇気がわくし、私も思います。おもしろいって」
倉貫さん:
「そう、おもしろい。創造性を発揮できて、しかもルールはなし。成果さえ出したらいいから、何をしてもいいってなると、工夫のしがいがある。そう考えたらマネジメントって希望のある仕事です」
45歳の僕から、35歳の僕へ
編集スタッフ 津田:
「35歳の自分を振り返って言いたいことはありますか」
倉貫さん:
「もし言うべきことがあったとしても、言わないな(笑)。まあ、今のお前のその経験も大事だぞってことくらいかな」
編集スタッフ 津田:
「今、35歳の時より “いい感じ” ですか」
倉貫さん:
「ああ、そうですね。本当にいい感じだなって思いますよ。ようやくマネジメントっていう仕事を始めて10年経ったので、ちょっとずつ自信がついてきたし、逆にできていないこともいっぱいあるから、やりがいもある。
ちょうどこの間、社員みんなと家族で集まる毎年恒例の『家族会』があったんです。まったく僕は何もしてなくて、なんだったらちょっとないがしろにされているくらいの2日間で、僕がしたことは乾杯の挨拶くらい。
みんなで企画して、子どもが賑やかに走り回っているなかで乾杯をして、何もしなくていいっていう状態になっていることが、マネジメントなのかなって思ったんです。でも、その状態は仲間がいてくれてのこと。そこに感謝しながらやっていきたいですね」
(おわり)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
倉貫義人
株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長。1974年京都生まれ。1999年立命館大学大学院を卒業し、TIS(旧 東洋情報システム)に入社。2003年に同社の基盤技術センターの立ち上げに参画。2005年に社内SNS「SKIP」の開発と社内展開、その後オープン ソース化を行う。2009年にSKIP事業を専門で行う社内ベンチャー「SonicGarden」を立ち上げる。2011年にTIS株式会社からのMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを創業。著書に『管理ゼロで成果はあがる ~「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう』(技術評論社)、新著は『ザッソウ 結果を出すチームの習慣』(日本能率協会マネジメントセンター)。
ライター 小野民
編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に地方・農業・食などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫4匹と山梨県在住。
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