【フィットする暮らし】後編:築40年の賃貸マンション。I型キッチンを使いやすく徹底カスタマイズ(暮らし家・塩山奈央さん)

商品プランナー 斉木

シリーズ「フィットする暮らしのつくり方」は、自分らしく心地いい暮らしをつくっている方を取材し、暮らしのヒントをお届けする読みものです。

vol.17となる今回登場するのは、前編に引き続き、塩山奈央(しおやま なお)さん。料理や縫い物を通じて心地良い暮らし方を提案する「暮らし家」という肩書きで活躍されています。

前編では塩山さんのルーツや、家具も住まいもあるものを工夫して楽しむという価値観についてお伺いしました。続く後編では、引っ越しに合わせてDIYするのが恒例というキッチンの話や、小学1年生になる娘・はなちゃんの子育てにまつわる話を伺っていきます。

 

何より好きな場所だから。賃貸のキッチンをとことんカスタマイズ

発酵食品を作ったり、レシピを考えたりと、料理に関する仕事も多くされている塩山さん。家探しをするときも、とりわけキッチンにはこだわりがあるのでは?と思っていたのです。しかし実際はというと、家の中でも奥まった場所にあり、サイズも機能もいたって一般的なI型キッチン。それがとても意外でした。

塩山さん:
「そういえば、家探しをするときにキッチンに関する条件はあまりないかもしれません。しいて言えば、三口コンロだと嬉しいなというくらい。もともと、据え置き型の三口コンロを持って引越しを繰り返していたんです。この家に来て初めて、三口のついたシステムキッチンになりました。

ただ、入居後は使いやすさにこだわって細部まで緻密に整えます。作業場がほとんどないキッチンも多かったからか、調理道具は吊り下げ収納がメイン。昔は木材に掛けていたんですが、重さでだんだんたわんでくることを学び、この家に越してきたとき丈夫な真鍮の棒に変えました

塩山さん:
「ダイニングテーブルの隣には、DIYが趣味の夫にカウンターを作ってもらいました。市販でも買えますが、DIYならわが家のサイズや物の量にあった収納が作れるので、無駄が少ないんです。

I型キッチンだとどうしても作業場所も狭いですし、わが家は梅や味噌などの保存食も多いので備え付けのスペースだけでは収納も足りません。カウンターは上は作業場、下は収納場所になるので、一石二鳥です」

▲コンロ周辺にも、「ここにこれがあるとラク」という“ちょい置き” の棚をよく作ってもらうそう

 

フリーランスで育休をとる。不安はあったけど子育てに舵を切った

自分や家族が暮らしやすいよう、手を加えていくことが好きな塩山さん。住まいを整えることは経験値もたっぷりの得意分野です。一方で、小学1年生の娘・はなちゃんを出産し始まった子育ては、すべてが未知だったはず。そんな初めての体験とは、どんなふうに向き合っていったのでしょう。

塩山さん:
「わたし、出産する直前が一番仕事が忙しくて、気力も体力も充実していたんです。その元気が、出産を機にぱったりなくなってしまって。廃人のような状態が5年間続きました。

出産や育児で一時的に仕事を離れざるを得ない。フリーランスで働いているので、そのことで仕事を頼まれなくなるんじゃないかという怖さもありました」

そんな状況に焦ってしまうことはなかったのでしょうか。

塩山さん:
「焦りがなかったといえば嘘になりますが、それよりも娘としっかり向き合って育ててみたいという気持ちの方が強かったです。一旦仕事をセーブしてでも、自分の手で子育てをしたかった。

子どもの感情や制作物ってよくよく観察すると本当に面白いんですよね。ある日娘が家でトンボの絵を描き始め、そこに『夏か秋か どっちかわからない』という言葉を添えていたんですが、どういうこと?と思わず笑ってしまって。

娘は絵や書き物をするのが好きなのでわたしにもよく手紙をくれます。『朝グズグズいってごめんね。だいすき』『今日のご飯おいしかったよ』など、彼女なりにいろいろ考えて言葉にしてくれているんだなあと捉え直すきっかけになって。喧嘩をしたときなんかに見られるよう、クリップでまとめて冷蔵庫に貼っています」

▲手紙にはメッセージと、塩山さんの好きな鳥の絵が添えられている

塩山さん:
「娘が幼稚園にいっている数年間はどっぷりと子育てと向き合ったからか、小学生にあがったいま、時間的にも体力的にも少し余裕が出てきました。そうしたら、料理をゆっくりしたいと思うようになったり、好きなことに目が向いたりするようになってきて。

出産で使い切ってしまったエネルギーがようやく溜まったのかもしれません。今年の春には9年ぶりに本を出版することもできました」

▲寝室には娘の描いた絵を飾って。はなちゃんの絵は、家の至る所でインテリアに自然と溶け込んでいる

 

子育て中の睡眠不足を救ってくれたのは、ハンモック

▲ハンモックは、賃貸住まいのため天井に穴を開けずに済む据え置き型をネットで購入

いまの自分や家族の状態を観察したうえで、 “こうあるべき” という枠にとらわれず自由な発想で暮らしを楽しんでいるように見える塩山さん。わたしがそれを一番感じたのが、塩山家の就寝スタイルでした。

塩山さん:
「もともとは家族3人ダブルベッドで寝てました。でも娘の寝相が悪くて全然眠れなくて……あるとき知人の家にあったハンモックがすごく寝心地がよかったのを思い出したんです。だから『あれで寝てみよう!』と思って。

それ以来、娘を寝かしつけたらわたしはハンモックに移動してひとりで寝るようになりました。持病だった腰痛も解消されるし、開放感はあるし、最高です。

わたしがハンモックで寝るようになったら、娘も自分の好きなところで寝ると言い、いまはベッドではなく床に布団を敷いて寝ています。夫はダブルベッドをひとりで独占して贅沢に寝てますね(笑)」

ゆらゆらとハンモックで眠っている塩山さんを想像したら、なんだか肩の力が抜けてきて、わたし自身の暮らしもきっともっと面白がる余地がある。そんな好奇心がむくむくと湧いてくるのを感じたのです。

 

塩山さんにとって、「フィットする暮らし」とは?

いかに住みやすい空間を作るか、何処に何を置いたら使いやすくなるか。動線を考え、いろいろと試行錯誤しながら、日々カスタマイズし続ける。そうして出来上がってゆく家に暮らすことは、なんとも心地よいものだ。お料理のレシピや縫い物なんかもそうだけれど、私は作る過程が好きなので、ああでもないこうでもないと考えながら家作りをする作業は、とても楽しい。

今、我が家の庭には大小合わせて30個程の鉢植えがある。植物を育てるのも、私の暮らしの中ではとても大切なことだ。お水をあげながらひと鉢ひと鉢の成長を観察していると、とても穏やかな気持ちになるし、葉っぱ1枚1枚の個性豊かな形、花や色の変化、そういったものが、何かを生み出す時のイメージの源になるように感じる。時々、植物に住みついた昆虫との遭遇も楽しくて、植物のない生活は考えられない。

味噌や梅干し作りなど、季節の手仕事をしながら、子供の成長やその時々の家族の状況に応じて柔軟に変化してゆく、これからも、そんな暮らしを続けてゆきたい。

塩山奈央

(おわり)

【写真】原田教正


もくじ

 

塩山奈央

暮らし家。パタンナーを経て、料理や縫い物を通じて心地良い暮らしを提案する暮らし家に。現在、書籍や雑誌などで活躍。『チルチンびと』(風土社)では『日々まめまめしく。』を連載。著書に『発酵食をはじめよう』(文芸春秋)、『ぬか漬けの教科書 簡単にはじめる』(世界文化社)など。

 


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