【軽やかなひと】前編:81歳ではじめたのは「プログラミング」。人と比べるものさしは、持っていないの
編集スタッフ 糸井
若宮正子(わかみやまさこ)さんという方を知っていますか?
81歳をすぎてプログラミングを始め、その1年後に、スマートフォンのゲームアプリ「hinadan(ひなだん)」を開発し、今や「世界最高齢プログラマー」として注目されている方です。
今年で84歳になるその活動は、アップル社主催の世界開発者会議で紹介されたり、国連で登壇したり、「人生100年時代構想会議」の有識者メンバーになったりと、つづく若宮さんの、新たな冒険。
かたや、新しいことを始めるとき、なにから、どうやったら良いのか、成果が出なかったら……?と頭に浮かんでは、結局手をつけられないことも多い私。
あるとき、そんな不安をものともしない若宮さんのインタビュー記事を読み、どうしたらそんなふうに軽やかでいられるのだろう?とお話を伺うことにしました。
「昨晩も作業をしていたら、つい寝るのが0時過ぎちゃって。今日もこのあと約束が……」と足取り軽く取材場所のスタジオにやってきた若宮さん。
前編では、プログラミングを始めたきっかけや、最初の一歩を軽やかに踏み出せる理由について聞きました。
パソコンのような機械は、大の苦手でした
▲エクセルをつかってデザイン画を描く教材「エクセルアート」も若宮さんが考案したもの。このシャツデザインは、自身で描いて作ったもの。
「今日はもう秋のように涼しいですね。持ってきたシャツを着ていいかしら」。
そう言ってほほえむ若宮さんの、アプリ開発への一歩は、さかのぼること、58歳。退職金をみこんで買ったパソコンとの出会いから。
その頃の若宮さんの生活は、都内の銀行に勤める日々でした。あと2年したら定年退職で、それからは同居する母の介護で家にこもりがちになるのでは、と不安がよぎったといいます。
友人と話す時間がエネルギー源だった、という若宮さんの目に、ある日留まったのが、雑誌に書かれていた「ネットがあれば、いろんな人とおしゃべりできます」といったコピー。
「へぇー!パソコンがあれば、家にいながら友達を増やせるんだ!」と、一般家庭にはまだあまり普及していなかったパソコンを、買ってみることにしました。
元々パソコンのような機械は苦手で、ネットを開通させるのには3ヶ月かかったんだそう。
それでも、無理のないペースで使っているうちに、雑誌のコピーの通りネットを使って友人ができたり、「周りの人も自分みたいに楽しめたら」と、高齢者向けのパソコン教室で、先生役を勤めたり。
そうして20年後、80代になった若宮さんに、プログラミングを学ぶ機会が訪れます。
若宮さん:
「今もそうだけれど、シニア世代が親しめるアプリゲームって、全然ないんです。気になって、知り合いに『お年寄り向けのアプリ、作ってくださいよ』とお願いしてみたら、『若宮さんが作ってみたらいいんじゃない?』と言われて。じゃあ作ってみようかしら、と。
その歳でプログラミングを始めて、アプリまで作ったなんてすごいね!と言われるけれど、プログラミングってパソコンがあればできるのよ?」
「とりあえずやってみたい」が目的だったの
おっしゃる通り、パソコンさえあれば始められるのかもしれませんが、いきなり飛び込むには難しそうな世界です。
若宮さん:
「プログラミングは、数学ができないと無理だと思っている人もいるけれど、人形を動かす程度のアプリなら、難しい知識は必要ないんです。
でも、最初はそんなことも知らなかったから、とりあえず行きつけの書店で何冊もプログラミングの参考書を買っていましたね」
お年寄りが使いやすいように、題材は身近に感じる「雛人形」にしよう、基本動作はスワイプよりもタップがいい。
素人ながらコードを書き、知り合いに相談しながら、半年後にできあがったのがアプリゲーム「hinadan」でした。
▲下に置かれている雛人形たちを一体ずつタップし、それぞれを正しいひな壇の位置に座らせてあげるゲーム。置き間違えても何度でもやり直せて、正しく置けたときの効果音がなんとも爽快。
若宮さん:
「せっかくだからみんなに使ってもらおうかなと、App Storeにアプリの公開申請をしました。iOSアプリは、公開前に必ず厳しい審査が入るのですが、私、そこで却下されても構わなかったんです。
だって、アプリの勉強を始めたのは、別にプログラマーになろうと決心したわけじゃなくて、『とりあえずやってみたい』が目的だったのよ」
楽しそうだからとりあえず、1ページ、また1ページと参考書をめくった。すると、なるほどプログラミングというのはこうなっているのか。あら、算数くらいの知識で作れるものもいっぱいありそうね、という発見があった。
それが十分楽しかったから、その先の成果にはこだわらなかったといいます。
比較をするものさしは、持っていないんです
でも、そもそもの「とりあえず始める」ことに、難しさを感じてしまう自分がいます。そうこぼすと、「たとえば……私はだれかと比べないの」と若宮さん。
若宮さん:
「元々、なにかを始める前から、人の成果物とは比較をしないようにしているんです。だってなにも始まってないのに、比較できる自分のものさしもないですし。
それに、すでにある誰かのものをお手本にしたって、出来上がるものはその『お手本通り』のものでしょう? それは、その方が作ってくれる。だったら、もっと私らしいものができた方がたのしいじゃない、と思っちゃうたちなんです、ふふ」
***
そんな軽やかな心持ちで、はじめてのアプリ開発をやってのけた若宮さん。
後編では、より詳しく、やりたいことを素直に・身軽に取り組むコツをお聞きします。「上手くやろうとしない」とおっしゃる若宮さんは、どうやら自分サイズで始めることが得意のようです。
(つづく)
【写真】川村恵理
もくじ
若宮 正子
1935年東京生まれ。定年をきっかけに、パソコンを独自に習得し、同居する母親の介護をしながらパソコンを使って世界を広げていく。2016年秋からiPhoneアプリの開発をはじめ、2017年6月には米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待される。
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