【愛すべきマンネリ】後編:新しいものを生み出すのではなく、どうマネるか。(うつわ作家・志村和晃さん)
ライター 藤沢あかり
暮らしのうつわを作る人、志村和晃さんに「マンネリ」について、前後編でお話をお聞きしています。工房を訪ねた前編に続き、後編ではご自宅へ場所を移し、製作過程の思いをうかがいました。
すでにあるものをどう選び、合わせるか
石川県加賀市で作陶する正木春蔵さんのもとで修行をした志村さん。師匠に教えてもらったことはいくつもありますが、今も心の真ん中に置いていることがあるそうです。
志村さん:
「『世の中に、オリジナルなんてそうそうない』と、正木さんはよく話していました。
この柄、この型がいいなと思っても、それはずっと昔に、すでにどこかで誰かが生み出したものであることが大半。だから、今の時代にあるものよりも、その源流になっている本物をたくさん見るようにしなさい、と正木さんはよく話していました。
北大路魯山人(※)も、『なにかしらのコピーでないものはないのだ。ただし、そのどこを狙うかという狙いどころ、まねどころが肝要なのだ』と言っています。
ろくろをひいて作っている時点で、似たようなものになってしまう世界だなと思うんです。だから、その時点でマンネリかもしれません。でも、正木さんが教えてくれたように、すでにあるものから何を選んで、どう組み合わせていくかをずっと考えています。同業者の作品に触れると刺激になりますが、なるべく見過ぎないようにしているのも、そのためです」
(※)明治から昭和にかけて、陶芸や書、絵画など、多岐にわたり活躍した芸術家。食通としても知られる。
▲志村さんのインスピレーションは、古い書物や骨董から。「益子に住んでいるころは、笠間の図書館にもよく行きました。笠間焼が有名な土地柄もあるのか、陶芸にまつわる本がたくさん揃っています」
志村さん:
「図書館へ出かけて工芸にまつわる本をめくったり、東京国立博物館の東洋館や、東京・千住大橋にある石洞美術館も好きですね。
古い美術書にある明の時代の染付を参考にしたり、1600年代くらいの文様を見て取り入れてみたり。ヨーロッパの古いうつわの形にアジアの模様を重ねてみようとか、国や時代を問わずに、いろいろなものを見るようにしています」
志村さん:
「目の前の注文や納期に追われていると、どうしても仕事が『作業』になってしまいます。マンネリといえば、そうかもしれませんが、やっぱりそれが仕事だから。でも、だからこそなるべく、普段からインプットを忘れないでいたいと思っているんです。
今すぐかたちにならなくても、どこかでふと、『あのとき見た、あれを使ってみよう』と感じたり、つながったりするんですよね」
新しいものを生み出さねば、マンネリにならないようにしなければと躍起になるよりも、むしろ志村さんは、マンネリを根底から丸ごと受け止めている様子です。
マンネリから救ってくれるのは、コミュニケーション
それでもやっぱり、ものづくりをしている人にとっては行き詰まることがあるんじゃないですか? わたしたちは、そんな意地悪な質問をしてしまいました。
志村さん:
「うつわって、これが自分の作品だ!というよりは、個展で使い手の人に出会ったり、お店の人と話すことでコミュニケーションをとりながら生まれているものも多いんです。
ひとりでつくっていると、どうしてもかたよってしまうけれど、話をしている中で、『こんな形が欲しい』『今度コーヒーの展示をやるので、コーヒーグッズを作れますか?』とか、アイデアをもらうことも多いです。
それもマンネリに少し変化をつけてくれているのかもしれません。まわりからお題を、その都度いただいているんですね」
作品ではなく、食器を作りたいから
志村さん:
「僕の作っているのは『食器』なんです。だから、こう使ってくださいというのもあまりないし、普段使いとかおもてなしだとかは気にせず、使っている人に自由に決めてもらえたらうれしいです。
うつわは、料理がおいしそうに見えてこそだと思っています。料理は気分転換にもなるし、自分で実際に使いながら、こんな形があったら便利かな、もっとこうしてみようかなと思いつくこともありますね」
そう話しながら、「お昼をつくりますね」と、志村さんがキッチンに立ってくれました。
▲形を少しずつ変えながらも、独立当初から作り続けているスープカップ。持ち手が上についているので、重ねて収納することができる。この日は、ほのかな酸味でさっぱりとした後味のかぼちゃのポタージュ。
ときどきこうしてキッチンに立っては、料理とうつわの相性を確かめる志村さん。
先述の北大路魯山人は、料理を突き詰めるうちにうつわをつくるようになったそうですが、志村さんもまた、「うつわは料理が映えてこそ」と何度も繰り返していたのが印象的でした。
個展や陶器市などの機会にはいつも、うつわに料理を盛り付けた写真を添えているのもそのため。実際に料理をのせるイメージが伝わればという気持ちからです。
▲自宅の食器棚には、小学一年生の双子と、3歳の娘さん、志村家の三姉妹が絵付をしたほほえましい器も。「右上の模様は、ちょっと親の作風を意識しているかもしれませんね」
この日のメニューは、自家製ミートソースのパスタに季節野菜のサラダ、そして先ほどのかぼちゃポタージュです。
和洋中などのジャンルを超えて、いろいろな料理に沿うのも志村さんのうつわの持ち味。色絵や粉引、染付など、表情豊かなうつわが食事風景をさらに楽しくしてくれます。
マンネリにおびえずに、丸ごと受け止める
館山の波の音を聞きながら育った志村さんは、東京で陶芸と出会い、そこから京都、石川、栃木の益子での修行を経て、千葉の船橋へ。そして今、工房を構えるためにまた、懐かしい海のそばへと帰ってきました。
「この10年だけでも、引越しの回数は10回を超えるかもしれないなぁ」と、志村さんは笑います。ともすれば、なんだか落ち着かない人生のようにも思えるかもしれません。でも志村さんには暮らしのマンネリの軸となる「うつわづくり」がありました。
取材前、わたしたちは考えていたのです。作家さんのように新しいものを生み出す人は、きっとマンネリを打破するなにか秘訣を持っているんじゃないか、マンネリに人一倍おびえているんじゃないか、と。
でも志村さんの答えは、「仕事ってマンネリだから」という潔い返事でした。
寄せては返す海の音や波模様は、ずっと見ていても飽きません。太古から繰り返す営みを前に、「マンネリ」と感じる人は少ないはずです。
自分たちの暮らしも、そんなふうにどんと構えながらいられたら、きっと、もっと自分を肯定できるのではないでしょうか。
志村さん:
「目指すのはアーティストではありません。僕のつくるお皿やお茶碗は、作品ではなく “品物” だと思っていますから、陶芸家と呼ばれなくていいんです。自分で肩書きをつけるなら? 難しいですね、『陶磁器製造業』かなぁ(笑)。
うつわが毎日のごはんをおいしそうに見せるお手伝いとなって、使いやすいなと思ってもらえる。それが何よりうれしいです。そこに少しだけ、自分の感じる “いいな” を織り交ぜていきながら、使ってくれる人の “いいな” と重なれたら、もっとうれしいですね」
あなたが感じているのは、本当に「マンネリ」ですか?
それとも、誰かの物差しで感じた「マンネリ」でしょうか。
今の自分を淡々と続けた先に、個性や自分らしさがキラリと光るのかもしれない。志村さんを見ていると、そんなふうに感じました。基盤となる「マンネリ」と、そこから芽生える「目新しさ」。どちらもきっと、暮らしの歩みに欠かせない両輪となり、人生を走らせてくれそうです。
(おわり)
【写真】神ノ川智早
もくじ
志村和晃
皿や茶碗など、暮らしのうつわを手がける。京都、石川・加賀、栃木・益子で修行を重ね、現在は故郷の千葉・館山に工房を構えて作陶。各地で学んだ特色を生かし、染付磁器や粉引の土物、鮮やかな色絵など、幅広い作風を持ち味に、食卓に豊かな時間を提案し続けている。
ライター 藤沢あかり
編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。
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