【金曜エッセイ】気になる小さな緑の家

文筆家 大平一枝


第五十三話:鉢植えだらけの安らぎスポット


 

 一見無造作で、脈絡なく並べているかのようにみえる、路地の軒先の植栽を見るのが好きだ。それらは住宅が密集した下町に多い。

 私の住む街にも、通るたびに見入ってしまう建物がある。古い美容院で、2階は自宅のようだ。看板も壁も蔦とバラに覆われ、地面には家を囲むようにぐるりとおびただしい数の植木鉢が置かれていて、道路との境界線がわからない。
 緑に覆われすぎて、店の扉はかろうじてわかるが、自宅の玄関や勝手口はどこにあるかわらない。もう一〇年以上その状態で、営業はしていないように見える。髪を染めた年配の女性が、ときどきドレスのようなものを着て、じょうろで水やりをしている。

 所狭しと鉢植えが並ぶこの家に、私は妙に惹かれる。
 道の向かいは大きなコンビニエンスストアで、みっしりした濃い緑が、コンビニの明かりに照らされ、街の中に急に草木が浮かび上がるように感じられる。そこだけ空気が変わり、とくに都心で仕事をして疲れて帰る道すがらなど、ふわっと心が緩む。
 ほんの何秒か、速度を落としながら歩き、深く息を吸う。
 
 道のきわまでせり出した植木鉢は、アロエ、ゼラニウム、トクサ、多肉、あとは名前のわからない草木で、まとまりがない。気の小さい自分なら、こんなに好き放題生やしたい放題やっていたらご近所になにを言われるかわからないと、とても真似できない。だからよけいに、力ずくでも緑を楽しんでやろうとでもいうような住み手の自由さ、強気加減に憧れるんだろう。

 土ぼこりが積もった葉も、こんもりおいしげって可愛さからは程遠いアロエもひっくるめて、この小さな緑の家は、私の大事な安らぎスポットである。

 なにかで“江戸時代の長屋の名残を思わせる植栽からは、庭を持てなかった人たちの憧れを感じる”というコメントを読んだことがあるが、私は逆のことを思う。狭い江戸に生まれた人たちは、はなから庭など憧れていなかったのではないか。

 土地がない。採光がない。家も間口も狭い。

 ないならないなりに、楽しんでしまおう。工夫すれば、できないことはない。夏は地面の温度が下がって涼しいし、水やりをすれば気温もいくらか下がる。なにごとも、楽しんだもの勝ちだよという、先人たちの朗らかなたくましさを感じる。

 ただ緑が気持ちいいだけではなく、そういう暮らしを我流に楽しんでしまう心意気がまぶしくて、心惹かれるんだなきっと。

 
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文筆家 大平一枝

作家、エッセイスト。長野県生まれ。編集プロダクションを経て1995年独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)ほか。『東京の台所』(朝日新聞デジタル&w),『そこに定食屋があるかぎり。』(ケイクス)連載中。一男(24歳)一女(20歳)の母。

大平さんのHP「暮らしの柄」
https://kurashi-no-gara.com

▼本連載の過去記事はこちら

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