【あの街に住んでみたら】東京から故郷へUターン。場所に縛られず、暮らしていきたい(フォトグラファー・清水美由紀さん)

編集スタッフ 奥村

当たり前の日常が変化したこと。そこには、今までの価値観から自由になったという、前向きな一面もあるように思います。

これからの暮らしを考える時、「住まいを移すこと」が選択肢のひとつにあるとしたら。

この特集では、住み慣れた場所から別の地へと “暮らし替え” をした方に、その背景と今の想いを聞きました。

今回お話を聞いたのは、フリーランスのフォトグラファー・清水美由紀(しみず みゆき)さん。雑誌や書籍、webでの暮らし周りの撮影を主に、コラムの執筆も担当するなど、幅広く活動されています。

2年前コロナ禍をきっかけに、それまで長く拠点にしていた東京を離れて故郷の長野・松本へ移住した清水さん。

Uターンに至るまでのこと、そして今の想いを聞きました。

 

会社員からフォトグラファーへ転身。日本中を旅してきました

大学への進学を機に、東京で暮らし始めた清水さん。卒業後は書店員の仕事を経て、写真学校へ通いフォトグラファーに転身。

その後娘さんが生まれ、そして松本での連載撮影の仕事が舞い込んできたことから、実家のある松本へ定期的に帰るようになったといいます。

清水さん:
「それまで15年近く東京で暮らしていたので、改めて見る松本は新鮮でした。撮影をしながら、この街にはこんなものがあったんだって、知らなかった魅力を知る機会にもなったと思います。

でも、当時はまだ戻ろうという気持ちはなくて。もっともっといろんな土地を回ってみたいという想いの方が強かったです」

当時は松本に限らず、積極的に遠方の仕事を受けて出張に出ていた清水さん。

まだ幼かった娘さんを連れて、東京に拠点を起きながら月1で松本へ。そして月の半分は日本や世界各地を飛び回る。そんな暮らしを続けていました。

 

子供がいて、仕事があっても、住む場所に縛られなくていいんだ

そんな風に、ひとつの場所に留まらない暮らしを送ること数年。

すると次第に、自分の中で暮らしの見方が変化していくのを感じたといいます。

清水さん:
「旅を通じて色々な土地の人に会って、色々な価値観に触れていたら、わたしは固定観念に縛られて生きていたことに気づきました。

たとえば住む場所に対しても。それまでは、子供がいるから、仕事のために、と住む場所の条件を無意識に決め込んでいた部分があったと思います。

そうやって自分が抱えているものを理由に、可能性を狭めていたのかもしれないなって。

でも実際は、ひとところに留まらなくたって、案外やっていけて。どこにいても大丈夫。そう思ったら、なんだか身も心も軽くなりました」

 

「どこに住むか」は、いちばん大切なことじゃない?

思うように旅して回ることができなくなったこの2年。

東京での仕事が以前より減ったタイミングで、清水さんは実家のある松本に拠点を移すことに決めました。

動き続ける暮らしから、ひとつの場所に落ち着く暮らしへ。その変化に戸惑いや不安はなかったのでしょうか?

清水さん:
「移住する時、いろんな人にそう聞かれたのですが……実は、意外なほどにありませんでした。たぶんわたしにとっては、住む場所がどこかよりも、『自分にとって心地いいものがそこにあるか』の方が大事だったんだと思います。

全国を旅していた時に、自分が心地よいと思う場所の条件は、案外シンプルなことに気づきました。

ひとつは、その地に魅力的な文化が根付いていること。そしてもうひとつが、深呼吸できるような、開放的な空間があること。

東京にいた頃は、空が広く見える近所の公園や、小学校の校庭が好きでした。今は、松本の森や山が大好きです。

だから、今はここでの暮らしも肌に合っているなと思います」

 

今の場所も、最終目的地かはわからない。

松本に越して2年。今はここに住む仲間たちと新しい仕事を始めたりと、この地に根を張ったからこそできることが、少しずつ増えてきたという清水さん。

娘も小学生になり、地元の友達も増えて、長くひとつの場にいることの良さも実感しているといいます。

けれど松本にも、いつまで暮らすかはわからない。そう続けるのが、やっぱり清水さんらしいところです。

清水さん:
「娘の小学校は6年あるけれど、だから6年間はここにいなきゃ、とは思いません。誰かが決めた制度や価値観に、縛られる必要はないんじゃないかな、と考えていて。

時々、自分に問いかけてみるんです。今抱えているあれこれを全て忘れて、わたし個人として考えるなら、今の暮らしは心地いい?って。

人って居心地の良さはもちろん、悪さにも慣れてしまうものだと思うから。

わたしにとって、娘にとって、何が心地いいことなのか。それは考え続けていたいと思っています」

「わたしにとって、場所はどこもみんな並列なんです。都会だから良いとか、悪いとか、そういう基準は特にないかな。だから東京も松本も好きです」

清水さんのそんな捉え方が、わたしには新鮮に写りました。

大切なのは、どこに住むかではなく、どう暮らすか。いろいろな地を旅した後、故郷に戻ってきた清水さんのお話には、そんなメッセージが込められているように感じます。

住む場所の選択肢は無数にあって、どれが正解かはわかりません。けれど「自分にとって心地よいもの」は、少なくとも自分にとっては正解なのだと思うから。

まずは今いるこの場所で、わたしも心地よさを考えることから “暮らし替え” を始めていきたいと。そんな風に思いました。

【写真】清水美由紀

 


もくじ

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清水 美由紀

フォトグラファー。自然豊かな松本で生まれ育ち、刻々と表情を変える光や季節の変化に魅せられる。物語を感じさせる情感ある写真のスタイルを得意とし、ライフスタイル系の媒体での撮影のほか、エッセイの執筆も行う。Instagram:@uriphoto


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