【でこぼこ道の常備薬】前編:大人になるって「自分のお世話係になる」こと。(自炊料理家®️ / 山口祐加さん)

文筆家 土門蘭

人生のほとんどは平坦な道だけど、時にはつまずいたり、うまく進めなくなったりすることもあります。
人に頼るまでもないけれど、なんだかちょっと調子が悪い……そんな時、自分の中にある「あの人の言葉」や「あの人の姿」が支えになってくれることってないでしょうか。
これは、そんな人生の「常備薬」的存在についてうかがうインタビューです。

今回お話をうかがったのは、自炊料理家®️の山口祐加(やまぐち ゆか)さんです。
「自炊する人を増やす」をテーマに、料理初心者や料理が苦手な人に向けて、オンラインや個別での「自炊レッスン」を行っていらっしゃる山口さん。そのほか、シンプルで簡単なレシピの提案や、自炊に関する執筆業など、幅広く活動されています。

私自身、料理にずっと苦手意識を持っていて、山口さんのレシピを読んだり、オンラインレッスンを受けたのが、彼女を知ることになったきっかけでした。おかげで料理に対するハードルが自分の中でグッと下がり、今では自炊が楽しくなっています。

ある日、山口さんのインタビューを読んでいて、こんな言葉を見つけました。
「料理をすることは自己を肯定すること」

自分が作ったものがおいしいって、最高。
山口さんのそんな言葉を読んで、「自炊という行為自体も、もしかしたら常備薬的な存在なのかも?」と思ったのです。

そこで、山口さんに直接お話をうかがってみることにしました。
山口さんは日々、どんなふうに自分を癒したり、回復させたりしているのでしょう?
やっぱりそこには「自炊」が存在するのでしょうか。

 

傷つきやすいからこそ、ちゃんとお世話をしてあげる

——山口さんは、普段落ち込むことってありますか?

山口さん:
そうですね。よくあるような気がします。私、基本的にちょっと怖がりなんです。プレッシャーにも弱いし、もともと体が強い方でもないし。自分に関係のないことでも、例えば感情的になっている人を見たり、重たい映画を観たりするだけで、ズーンと落ち込んじゃったりして。割と、傷つきやすい方じゃないかなと思います。

——そうなんですね! いつも明るい印象だったので意外でした。

山口さん:
でも、自分は傷つきやすいってわかっているからこそ、とにかくちゃんとお世話をしてあげなくちゃって思っているんです。寝不足のときや、難しい仕事を抱えているときなんかは特に落ち込みやすいので、たっぷり睡眠をとって休ませてあげたりとか。先回りして、予防してあげている感じですね。

——自分の「お世話をしてあげる」って、おもしろい表現ですね。

山口さん:
最近、大人になるって「自分のお世話係になること」だなって気がついたんですよ。子供の頃は、親や周りの大人たちがケアしてくれるじゃないですか。嫌なことがあったら話を聞いてくれたり、ご飯を作ってくれたり、「早く寝なさい」って言ってくれたり。でも大人になったら、基本的にはそれを自分でやっていかなくちゃいけない。

——ああ、本当にその通りですね。

山口さん:
中でも、自分に何かを食べさせるってすごく大事な「お世話」だと思うんです。食べ物が自分の身体を作っていくわけですから。

だからって無理してちゃんとしたものを作ろうとしなくてもいいんじゃないかなって思っています。野菜を切ってお味噌をつけるだけでも、立派な料理ですしね。でも、多くの方が「ちゃんと料理しなくちゃ」って頑張りすぎてしまって苦しんでいるような気がします。私はそういう方たちに、料理の楽しさを伝えられたらいいなって思っているんです。

——すごくわかります。私自身「もっとちゃんとしたものを作らなきゃ」って肩肘張って疲れていましたから。

山口さん:
でも「ちゃんとしたもの」なんて別にないと思うんですよね。食べるだけなら、買ってきて食べるのでも全然良くて。ただ、それを食べるときに少しでも「自分が大事にされていないな」って気持ちになるのなら、立ち止まった方がいいんだと思います。食べ物を選ぶときに、より安らぎを感じたり、納得感のある方を選んでほしいなって。

——なるほど。その一つの選択肢が「自炊」なんですね。

山口さん:
そうなんです。「食べることは生きること」というと大袈裟かもしれないけれど、毎日のことだからこそ、意識や行動を少し変えるだけで生活がずいぶん変わるように思います。

 

食材に触れることで、自分から離れられる

——山口さんは、悩んだり落ち込んだりしたときはどんなふうに過ごされますか? やっぱり自炊されるんでしょうか。

山口さん:
そうですね。まずは自分の好きなものを食べます。私、常に「これを食べれば絶対にテンションが上がる!」っていう食材があるんですよ。

——えっ、例えばどんな?

山口さん:
今の時期だったら(取材時は4月でした)空豆、アスパラガス、スナップエンドウ、菜の花、セリとか。夏だったら、とうもろこし、なすなんかもいいですよね。

——季節の旬のものですね。

山口さん:
そうなんです。旬のものはそれだけでおいしいので、そんなに手を加えなくってもおいしく食べられるんです。あとはお刺身なんかも、新鮮なものだったら切るだけですぐおいしくいただけますよね。

だから私の場合、食べ物を買いに行くっていうより、お花を買う感覚に近いんです。直売所に行くと、スーパーには並んでいないくらい太いアスパラとか、今朝採れの空豆とか、みんなすごいパワーを持っている。そういうのを見るだけで嬉しくなるんです。

——なるほど、食材からパワーをもらっている感覚なんですか。

山口さん:
そうそう。それに、何かを作っているときって集中しているから、自分が傷ついていることを考えないんで済むんですよね。食材に触れて料理しているときって、自分じゃなくて「他者」と関わっているって感じがします。

——「他者」?

山口さん:
はい。落ち込んでいるときにひとりでいると、自分のことばかり考えちゃいませんか? 例えば「どうしてあんなことを言っちゃったんだろう」とか「自分はどう思われているのかな」とか。でも、自分のことばかり考えていても、あまりいいことがないんですよね。そんな自分がさらに嫌になって、もっと辛くなるだけ。だからそういうときは、他のことを考えた方がいいんですよ。

料理って、そんなときに最適だと思いますね。扱うのは言葉の通じない「他者」なんだけど、命だから大切においしく食べようって思えるし、「この空豆、焼こうかな? 茹でようかな?」って考えているときなんか、自分のこと考えないじゃないですか。

——確かに「どうやって食べよう?」ってことで頭がいっぱいになりますもんね。

山口さん:
だけど、その空豆は結局自分に返ってくるんです。おいしく食べたら、物理的に自分の身になるわけだから。その上、「自分が食べるものを自分で作っているんだ」っていう自分への信頼感にもつながります。

没頭して、作って、結果的に自分のためになっている。そのサイクルってすごく素敵ですよね。自炊の価値って、本当はそういうところにあるような気がします。

 

ひとりで長々と悩んでいてももったいない

——お料理以外にも、落ち込んでいるときにすることってありますか?

山口さん:
あとは何をするだろう……。友達にLINEする、とかでしょうか「今私は落ち込んでます」って相談したりとか。なるべくひとりで悩まないようにしているんです。

——へえー。

山口さん:
「人に迷惑をかけちゃだめ」っていう考え方もあるけど、私はもう、めちゃくちゃ迷惑をかけたらいいと思っているんですよ(笑)。私がしんどいときに連絡する友達は、向こうがしんどいときには連絡をくれるし、世話し合って生きていこうぜ!っていつも思っています。

——「世話をし合う」っていう考え方もまた、おもしろいですね。

山口さん:
それに、ひとりで自分のことを考えていると行き詰まってしまうけれど、人と話すと新しい風が通って、話し終わるころには悩みなんかどうでも良くなっていることってないですか? そういうふうに、気持ちを逸らすっていうのも大事だと思いますね。

——なるほど。ここでも、自分に向かいがちな気持ちを逸らすんですね。

山口さん:
そうそう。大抵の悩みごとやモヤモヤって、価値観の違いや、自分のコンディションやタイミングの悪さが原因なことが多い気がするんです。例えばパートナーとケンカしたり、職場でうまくコミュニケーション取れないときって、誰のせいでもないことが多い。つまりコントロールできないんですよね。

そういうことで長々とひとりで落ち込むのって、自分にとってもったいない。だからちゃんと切り替えるために、友達に話したり、散歩したり、温泉行ったりして、気分を変えるんです。

——確かに、大抵の悩みってコントロールできないことな気がします。そんなことで自分を責めても仕方ないですよね。どこかで吹っ切らないと。

山口さん:
そう言えば、幼いころ嫌なことがあると、うちの母がいつもこうやって(体をはたきながら)「やな気持ち、どっか行っちゃえ」ってしてくれたんですよ。嫌なものを払う、みたいな感じ。そんなふうに、嫌なことがあったときもそれに執着しないで、他のことに気をやっていれば、エンドレスに落ち込むこともないような気がしますね。

——お母さんがしてくれていたことを、今の山口さんなりの方法でやっていらっしゃるような気がします。これもまた「自分のお世話」ですね。

§

「大人になるって、自分のお世話係になること」

山口さんのその一言に、本当にそうだなぁと納得しました。
生活の中で、自分がどれだけ心身ともに健やかに暮らしていけるか。その役目を担っているのは、自分しかいません。それならば、なるべく心地良くなるようお世話をしたいものです。

自分が作ったものが、自分のためになっている……その信頼感は、身体を通して感じる確かなもの。自炊のたびにそれが「自信」となって、落ち込んでいるときにも癒してくれるのでしょう。

「料理をすることは自己を肯定すること」
山口さんの言っていた言葉の意味が、この日わかったような気がしました。

それでは、後半もお楽しみに。

 

【写真】土田凌

 

もくじ

 

山口祐加

自炊料理家®️、食のライター。1992年生まれ、東京都出身。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた料理レッスン「自炊レッスン」や執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。2022年5月に『楽しくはじめて、続けるための 自炊入門』(note株式会社)が発売。ほかに『ちょっとのコツでけっこう幸せになる自炊生活』(エクスナレッジ)、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』(実業之日本社)がある。
対面形式で開催される自炊レッスンは参加者募集中です。レッスンの詳細はこちら
Twitter:@yucca88、Instagram:@yucca88

 

 

土門蘭

1985年広島生まれ。文筆家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。


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