【ふわりと軽い、万能な羽織り】ライトアウターであり、カーディガンであり、ジャケット。スタッフ2名による、ほぼ1週間の着まわしコーデ
【おしゃれのスイッチ】第1話:在宅ワーク、出産、子育て。変化の時期に元気をくれたもの
ライター 藤沢あかり
おしゃれのはなしは楽しいものです。
どんな服を着よう、何色のバッグを買おうか、メイクはどうしよう。
けれど同時に、楽しいはずのこれらの気持ちが、「難しい」とか「めんどう」という気持ちとイコールになることがあるのも正直なところ。
子育てが始まったら、うつわの選び方が変わったように、変わりゆく暮らしに寄り添うような、いまのおしゃれの楽しみを取り入れられたら。そう思って、おしゃれなあの人に、楽しみ方を教えてもらうことにしました。
シャツとデニム、ショートヘア。ずっと変わらず好きなもの
ドアが開くと同時に、「こんにちは!」と、明るい笑顔でわたしたちを迎え入れてくださった、中臣美香さん。パリッとしたシャツにデニムを合わせ、こざっぱりと短くまとめたニュアンスヘアがお似合いです。ぴかぴか、ツヤツヤの笑顔もとても印象的。
中臣さんは、吉祥寺のセレクトショップ&カフェ「coromo-cya-ya(コロモチャヤ)」のディレクター、そしてシャツブランドの「Houttuynia corata(ホーチュニア コダータ)」のデザイナー。さらには1年前に、お母さんとしての暮らしもスタートさせたばかりです。
おしゃれのはじまりは、学生時代にさかのぼります。実は中臣さん、かつてはロックバンドが好きな音楽少女。ライブハウスに通い詰め、ボーイッシュな服装ばかりをしていたそうです。当時のおしゃれを伺ったところ、今とほとんど変わらない、と笑って教えてくれました。
中臣さん:
「シャツとデニムという組み合わせが大好きで、髪もずっとショート。記憶に残っている初めてのシャツは、ラルフローレンの古着のシャツです。白にブルー、グリーン、ストライプなど色違いでたくさん持っていました」
地元・長野で高校を卒業し、服飾の専門学校に通っていた頃のはなしです。服作り、そしてシャツへの思いをさらに募らせながら上京し、シャツを専門とするメーカーにデザイナー兼パタンナーとして就職しました。
中臣さん:
「20代のときは、東京にはお店がたくさんあるし、そのうれしさもあって、いろいろなおしゃれを楽しみました。でもやっぱり、好きなのはシャツでした。それも、レディースよりメンズのシャツの素材や形に惹かれます。当時からデニムと合わせるのが好きで、それはいまも変わっていませんね」
会社員を経て、10年前からは自身のブランドを立ち上げるほど、シャツに夢中だという中臣さんは、洋服はもちろん、おしゃれそのものが大好き。そんななか、ここ2年で立て続けに大きな変化がありました。
おうち時間が増えて気づいた、自分の心を維持する大切さ
中臣さん:
「ここ2〜3年、外出の機会が減っておうちでの時間が増えましたよね。それまでは、『家にいるとき=リラックス』だけを考えていたのが、もっと自分が心地いいと思えるもの、気分が上がるものを着る大切さを感じるようになりました」
おしゃれって、誰かに会うため、見せるためのものだけではない。頭ではわかっていたことが、心にストンと落ちてきた頃、もうひとつの変化が訪れました。
妊娠と出産です。さらに家のなかで過ごす時間が増えたことで、また同じような思いが巡ってきたのだといいます。
中臣さん:
「産後は、次々に初めてのことがやってきて、赤ちゃんのことを考えるだけで精一杯。洋服も気にかけず、出かけるのもお散歩くらいだからノーメイクでしょう。ほとんどの時間を子どもと2人で過ごしていて、社会と分断されたような気持ちになっていたのかもしれません。
実際には、夫から仕事の話も聞いていたし、彼もわたしと同じくらい子育てに関わってくれていました。ただ、産後はホルモンバランスが崩れるせいか、意味もなく落ち込んだり、悲しくなったり。これはいつまで続くんだろうって、先が見えない不安に陥ってしまったのだと思います。
そんなときに、いつもの散歩に少しおしゃれをして出かけてみたら、気分がパッと変わったのを感じたんです」
きちんとコーディネートを考えながら洋服を選び、すっぴんではなく軽いメイクをして、お気に入りの帽子をかぶって。その一つひとつが中臣さんの心を切り替え、明るく照らしてくれました。
中臣さん:
「スイッチ、まさにそんな感じでした。おしゃれといっても、ひとつひとつはささいなこと。でも、自分の心が揺らがないように、ちゃんと維持してコントロールするための手段が、わたしにとってはおしゃれだったんです」
Tシャツやオールインワン、新しいアイテムのおもしろさ
中臣さん:
「これまでシャツばかり着ていたのが、産後はTシャツも楽しむようになりました。抱っこ紐をしていると胸元のボタンが気になるし、やわらかい素材を自然と選ぶように。最近は抱っこ紐を卒業しましたが、休日、子どもと公園に行くときにはTシャツが多いです。
シャツはちょっとシャキッとしたいとき。Tシャツはおしゃれを楽しみながらもゆるっとできて、気持ちの切り替えになっているみたいです」
▲Tシャツはイラストレーター夏目麻衣さんの個展て購入。カーキのオールインワンは『yarmo(ヤーモ)』。
中臣さん:
「つなぎの服を着るようになったのも、最近のことです。着てみたらバリエーションが広がるんじゃない?と、夫に言われ試してみたら、いままでにない感じで意外といいかも!って。
オールインワンとしてそのまま着たり、今日のように袖の部分をウエストでキュッとまとめたり、アレンジできるのもおもしろいです」
▲ストローハットは『chisaki』のもの。
麦わら帽子のリボンは、首の後ろでキュッと結んでアクセントに。かわいらしさと、実用性を兼ねたデザインのありがたさを、子育て中はますます実感しています。
中臣さん:
「走る子どもを追いかけたり、自転車に乗るようになったりと、子どもと過ごすようになり、行動も変わってきました。帽子が飛んでいくとか、服のシワが気になるとか、お客さまから聞いていたことが身をもって、ああこれかと実感しています」
そうそう、と取材しているわたしたちも膝を打つことばかりです。
「それでもやっぱり、おしゃれは楽しみたいですよね」と中臣さん。
年齢も環境も、好みだってどんどん変わっていって当然。その変化のなかで、変わらず好きなものを大切にしながら、変わっていくおもしろさを見つければ、おしゃれの世界は、ぐんと広がっていく気がします。
次回は、シャツを愛する中臣さんの着こなしや、ノーアイロンで楽しむテクニックについてお届けします。
【写真】鍵岡龍門
もくじ
中臣美香
1982年、長野県生まれ。吉祥寺のセレクトショップ&カフェ「coromo-cya-ya(コロモチャヤ)」ディレクター、シャツを中心としたブランド「Houttuynia corata(ホーチュニア コダータ)」デザイナー。夫と1歳の息子との3人暮らし。Instagram:@nakatomimika
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