【57577の宝箱】まだ少し歪なボールを投げてみる 放物線が描き出す景色

文筆家 土門蘭


定期的に、この連載の編集者・津田さんと写真家の吉田さんと、オンラインで打ち合わせをしている。
連載の方向性とか読者の方からの反応とか、いろいろと仕事に関する話をしたあとは、3人で何気ない雑談をすることが多いのだけど、この間の打ち合わせではこんなことを話した。

「どうも最近、やる気が出なくて。なんか集中力が落ちているような気がするんですよね」
そう私が言うと津田さんが、
「わかります。季節の変わり目で疲れているのもあるかもしれないですね」
と言って、こう続けた。
「でも最近、ある記事で読んだんですけど、やる気って待っていても湧かないものらしいんですよ」

えっ?と、私と吉田さんは声をあげる。
「やる気って、自然と湧いてくるものじゃないんですか?」
「じゃあどうすれば、やる気って湧くんですか?」

そう口々に質問すると、津田さんは言った。
「やる気って、実際にやり始めてようやく出始めるものらしいんです。だからやる気が出るのを待っていても、いつまで経っても出ないんですって」

私と吉田さんは「へえー!」と感嘆した。
「じゃあ、やる気がなくてもとりあえずやるしかないってことですね」
「とりあえず始めれば、やる気もついてくるという」

津田さんは「そうそう。そういうことらしいです」と頷く。
「だから私最近は、どんなにやる気が出なくても『とりあえず手を動かしてみよう』って思うようにしてます。まずはメールを返そうとか、まずはslackを開けようとか。そうしているうちに、少しずつノってくるかなって」

なるほどなぁ、と私は言った。
「なんか今の話を聞いていたら、やる気が出てきてしまいました」
と言うと、二人が笑ってくれた。

§

私は普段、家で一人で仕事をしているので、サボろうと思えばいくらでもサボれてしまう。
基本的には朝10時から仕事なのだけど、時間が過ぎてもずっとスマートフォンをいじっていたり、SNSを巡回していたり……気づけば30分過ぎている、なんてこともザラにある。

前まではこの集中力散漫の現象を、気圧のせいにしたり加齢のせいにしたり、疲れのせいにしたりしていた。確かにそれもあると思うけれど、どこかで、自分のせいではないと思いたかったところもあったのだろうと思う。

だけど津田さんの話を聞いてから「集中力が落ちているなら落ちているなりに、できることもあるのかもしれないな」と思うようになった。やる気はやり始めないと出ないのであれば、とりあえずやり始めてみればいい。津田さんが言っていたように、メールを一通返すとか、請求書を一通作るとか、エッセイの冒頭だけ書くとか、なんでもいいから手をつければいい。

何かをし始めるのは億劫だけど、一度腰が上がると、ちょっとずつ足が動き始める。最初はのろのろと歩いていたのが、だんだんと動きがノってきて、早歩きくらいにはなってくる。疲れたら一呼吸して、時間を決めて休憩。そこからまた、もう一度歩き始める。

そんなふうに仕事をしていたら、今までよりもずっと仕事量が増えた。だらだらと「やる気待ち」だった時間を、のろのろとでも歩く時間に当てたから、その分進む距離が伸びたのだろう。

「やる気は、やり始めないと出ない」
今はこの言葉をポストイットに書いて、パソコンの隅に貼り付けている。

§

そういえば、以前勤めていた会社で、バリバリ仕事ができる先輩がいた。
私より3つ年上の彼は、普段の業務はもちろんのこと、特に必須ではない、新しい提案書や企画書まで積極的に出すような人だった。

「いったいどこにそんな時間があるんですか」
普段の業務だけで手一杯の私には、先輩が異世界の人に見えた。常にあっぷあっぷしている私とは違って、サクサクと仕事を進めて余裕があり、いつも楽しそうだ。どうしたらそんなふうに仕事ができるんだろう。

そう尋ねると先輩は、こんなふうに言った。「とりあえず、完成させるんだよ」と。

「例えば資料を作るとき、土門は完璧になるまで出そうとしないだろ。だから時間がかかってしまう。でも僕はまず時間を決めて、その時間内でなんとか完成させて人に渡してる。そうやって自分の手から放すと、自然に仕事が回り始めるんだよ」

そこで突然先輩が、「土門は昔、何部だった?」と尋ねてきた。
「バスケ部です」
「そうか。バスケってさ、一人がずっとボール持ってたらだめじゃん。うまいチームほど、パス回しが早いだろ?」
「確かに、そうでしたね」
「仕事も一緒だよ。一人で抱え込んでいても大したもんにならない。1日かけて1人で資料を作るよりも、1時間かけて作った資料を4人に軌道修正してもらった方が、完成度が高くなる」
「なるほど……」と私はつぶやいた。バスケの例えはわかりやすい。
先輩は納得している私の顔を見ながら、笑ってこう言った。

「僕が楽しそうに仕事をしているように見えるとしたら、チームを信頼しているからじゃないかな。自分の回したボールがどんなふうにゲームを動かすのか、それを見るのがおもしろい。土門も気負ってないで、人にパスを回してみたらいいんじゃない?」

§

そんな先輩の言葉を、やる気の話を聞いてから、すごく久しぶりに思い出した。

やる気も、ボールも、同じものなのかもしれない。まずは自分で動いて、回してみる。そうしているうちにエンジンがかかって、場が刺激され、仕事全体が動き出す。

「一人で仕事してるんじゃないんだからさ」
今の私よりもずいぶん若かった先輩の言葉を思い出して、改めて勇気づけられてしまった。

この連載だってそうだな、と思う。一人でやっているんじゃない。津田さんと吉田さんがいる。

まずはこれを書き上げて、二人にパスを回してみよう。どんなふうに、仕事が動き出すだろうか。

 

“ まだ少し歪なボールを投げてみる放物線が描き出す景色 ”

 

1985年広島生まれ。文筆家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 


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