【自分らしく働くには?】第3話:「これから」はまだ何も決めていない。動いて体当たりで見つけいくのかな
ライター 長谷川未緒
特集【自分らしく働くには?】では、居心地よく、自分らしく働き、生きていくためのヒントを得ようと、東京・神宮前で花屋「THE LITTLE SHOP OF FLOWERS」を営む、壱岐ゆかり(いきゆかり)さんを訪ねています。
第1話では、寝る間も惜しんで働いたという会社員生活、フリーランス転身後について、第2話では、眠れなくなるほどの不安にさいなまれた30代、自分にしかできないことを模索する中で見つけた花屋のことについて、伺いました。
続く最終話では、花屋専業になってからの日々や、これからについて、お聞きします。
家族やスタッフに当たってしまい、落ち込む日々も……
PR業と花屋を両立し、自分だからこそできる仕事がようやくできるようになったものの、育児が加わり、花屋専業になった壱岐さん。
壱岐さん:
「しばらくは仕事と家庭の両立が本当にうまくいかず、家族にもスタッフにも当たり散らしては、自己嫌悪に陥る日々が続きました。
やりたいような働き方ができないし、なりたいような母親にもなれない。でも実際自分のなりたいってなんなんだろう?と思ったり。
息子は言葉を話しはじめるのが遅かったんですね。保育園で指摘され、区の育児センターみたいなところに行くと、職員として働いていた年配の女性から『あなたが働きすぎで、気づいてあげられてないんじゃない?』なんて心無い言葉を言われ、当時は無視する余裕もなく、真に受けてしまう時期でもあって。
時間の長さじゃないと思いながらも、自分の中に正解の母親像がないから不安でした」
壱岐さん:
「息子は怒りのコントロールが得意な方ではない時期があって、その度に私もつられてしまうことが多く、とにかく子どもの一挙一動に過敏に反応せず、おおらかに受け取る練習という名の我慢をして。
筋トレみたいな感じで最初はすごくつらいんだけれど、だんだんできるようになっていきました。
ちいさなことだけれど、『そうだよね』って同調してあげることって、ほめてあげるのと同じくらいすごく大事なこと。わたしがマザーアース的に受け入れられるようになってくると、子どもの心も呼応してくるのが目に見えてわかり、ずいぶん子育てがラクになりました」
壱岐さん:
「子どもだけではなくスタッフともコミュニケーションが取りやすくなり、それまでは自分がやらなくちゃと思っていたことを、だんだんと信頼してまかせられるようになりました。
自分の中で納得のいくやり方や母親像を探すのに時間がかかりましたが、そうこうしているうちに、息子もほかの子たちと同じようにしゃべれるようになったんですよ。時間が解決してくれたというのもあるし、受け入れるということを筋トレのように続けているうちに、結果が表れたのかな、とも思う。
大らかなひとになりたいというのはずっと目標だから、これからも日常の中で実践して、育んでいきたいですね」
コロナ禍で紹介できた、お花の一生を楽しむ方法
ここ数年のコロナ禍は、店を残せるかどうかという不安の中、個人宅への宅配をはじめ、顧客の暮らしを具体的に想像できるようになり、以前より生活に近い花屋になれたと言います。
また、新しい取り組みも始めました。
壱岐さん:
「コロナの前に、洋服を作っている友だちから、捨ててしまう花殻とか茎などを持ってきて、と言われ、とりあえず持って行ったことがありました。
それを花、葉っぱ、茎と目の前で分けて、『これは何色になるかな』みたいな話をしているのを聞いていたんです。
その会社ではボタニカルダイという商標で、洗濯しても色落ちしにくく、太陽に当たっても色落ちしにくい、今の生活に寄り添いやすい染め方としているのだと」
壱岐さん:
「緊急事態宣言が解除されたあと、お客様にお礼をしたいという気持ちが、わたしだけじゃなくスタッフみんなの中に生まれました。
何をしようかと考えたときに、花から色素が出るって言ってたな、と思い出したんです。
みなさんがオーダーしてくれた花から出た端材でハンカチを染め、手を洗うときに使ってください、と渡したらどうだろう、と。
地道に活動していたら、たくさんのひとが知ってくださり、いまでは2か月に1回くらいの頻度で、お客様の持ち物を染色するサービスを行なっています」
壱岐さん:
「たとえば芍薬の季節が終わったら、芍薬で染める。
花屋に並んでいる時期以外の花の美しさをお伝えするのって、けっこう難しくて。ドライフラワーが苦手な方もいらっしゃるし、なかなかいい方法が見つからなかったんですが、染色を通じて花の旬が終わったあとの顔を共有させてもらっています。
どんな草花も、目に見えている色を作るために数百という色素を内包していて、赤い花だけど、赤以外の色にも染められる。
人間もそうだけど、見た目で判断しちゃいけない。植物って、その中に潜んでいるいろいろなものがある。そこを想像するだけで楽しくない?という提案ができたことはすごくよかったな、と思っています」
ぶち当たりながら、見つけていく
2010年からはじめた神宮前の店舗は、大家さんの都合で、今年いっぱいで閉店し、移転をする予定を立てています。
壱岐さん:
「今回11年目にして、ここを出て行かなくてはならなくなったことは、これからまた向こう10年をどう暮らしていきたいか?を夢見たり想像したりする時間になって、結果いい機会になりました。
とにかく年末までがんばって、そのあとのことについては全く未定です。物件を探すという進め方もあるものの、向こう10年、自分たちがどこで何をしたいか、というところから考えています。
どう生きたいかが見つかれば、物件が必要か必要じゃないかも含めて、見えてくるのかなって」
どう生きたいかって、どうやって見つけるんでしょうか?
壱岐さん:
「わからない(笑)。私も知りたい。今のところ『これ!』というものが全然ない。考えても見つからないから、動くしかないんだと思います。ぶち当たるしかない。
2年前に衣食住に植物の植もつけた『衣・食植・住』という、食べ物よりも先に衣がくる理由を紐解く展示をGYRE GALLERYでさせてもらったんですね。
日本は水がきれいでたっぷりあって、植物の種類が多くて、その豊かさが全部糸につながって、糸が布になって、食べ物よりも何よりも、1枚の布が危険から身を守ってくれた。
コットンが入ってくるまで日本で主流だった大麻布をはじめとする植物からできた着物や布を昔から収集しては研究していらっしゃる古布研究家の吉田真一郎さん。イデー時代からお世話になっている方で、吉田さんのご好意で、大変貴重な布たちをお貸しいただき、展示まで行き着きました」
壱岐さん:
「着ていた人たちはこの世にいないのに、彼らの暮らしの気配を感じるくらい着物たちが語りかけるものがあって。展示会準備中に父が亡くなったことも重なり、死んでなお未来に残せる気配とは?と考えるようになりました。
わたしたちは100年後に残していけるものがあるのか? あったとしても自分たちの気配を残していいのか? そういう生き方をしているのか?ということを、答えはないんですけれど、みんなはどう思う?という展示をさせてもらったら、すごく学び合えたし、いろいろな意見をいただきました。
2023年の9月、10月には、その最終版であり始まりとも言える、衣食住の「住」に焦点を当てた企画展を、GYRE GALLERYでまた開催させていただくことになっています。
日本において命を守るために必要不可欠だったのは植物だったんだというのが前回でした。今回は藁を主役にこれからの住まいを考えたいなと思っています。
これからの居場所は、その勉強をする中で何か見つかるのかもなと思ったりしています」
ひとの求めに120%で応じていたPR時代、ニューヨークでぐうぜん見つけた自由なスタイルの花屋にあこがれて始めた店。
いつも体当たりで自分の居場所を作り、新しい働き方を模索してきました。
「暮らすって、生きるって超最高」とほがらかに笑い、「より自由度の高い働き方をしつつ、伝えたいことは伝えられる、そんな花屋に変身していきたい」と語る壱岐さん。
その姿から、求められることには全力でこたえ、直感を信じて体当たりで始めるチャレンジ精神、動きながら考えるしなやかさを感じ、わたしもそうしていきたい、と思ったのでした。
(おわり)
【写真】川村恵理
もくじ
壱岐ゆかり
THE LITTLE SHOP OF FLOWERS主宰。インテリア業とPR業を経て、花の持つ⾊の豊かさに魅せられ2010年に花屋を始める。装花、スタイリングなど、⼈の気持ちを花に“翻訳”する花屋として活動しながら、廃棄花を染料にして暮らしのギフトに落とし込む提案も。植物や花の活⼒を信じ、⼈⽣の様々な場⾯でそっと寄り添える存在になれたらと、⽇々奮闘中。
インスタグラム: @thelittleshopofflowers
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