【これからの生きかた】後編:人生は長いし、いろいろある。いいことばかりじゃない日は、どう過ごそう?
編集スタッフ 津田
長い人生には、いいことも、そうじゃないこともある。だからこそ「すこやかに生きる」ためのヒントを見つけたい。
そんな思いで、クラシコムの産業医をしてくださっている杉山葉子(すぎやま ようこ)先生と前後編でお話をしています。
前編では、人生の幸せとはなにか、ウェルビーイングとはどんなものか、自分軸で考えるヒントをもらいました。
後編はストレスや疲れについて。そもそも、私たちはどうしてストレスを感じるの?というところから聞いていくことにしました。
人はなぜ、ストレスを感じるのですか?
これからの人生、いいときも悪いときもある。
どちらもひっくるめて受け入れられたらいいと思うのですが、どうしてうまくいかないと疲れたり、ストレスを感じてしまったりするのでしょう?
そもそも、なぜ私たちにストレスというものがあるのか、不思議に思っていました。
杉山先生:
「ストレスは、本来、生きるのになくてはならないものなんです。
極端な話をすると、床も壁も真っ白の何もない空間にいると、人間は朝も夜もわからなくなって、どんどん鬱々としてきて、心身に不調をきたします。ストレスがないことがストレスになる、というパラドクスです。
なので、うまくいかないことに落ち込んだり、大事なことを決めると疲れたり、身体に不調や痛みを感じたり、そういうのはすべて『すこやかである』ということ。
そうじゃないと、このままだとキャパオーバーしそうだと、気づくこともできなくなってしまいます」
杉山先生:
「私たちの脳のなかでは、緊張や不安など不快感があると、扁桃体というところが活発になります。
すると様々なシステムを介して、脈が早くなって、どきどきしたり、汗をかいたり、呼吸が早くなったり、という身体の反応が出てきます。
たとえば蛇や熊をみたときに、頭で考えるより先に『逃げる』というダイレクトな反応が起きるのも、扁桃体が関係しているのです。
ストレスは、心身からのたいせつなサインだと捉えてみるのはどうでしょう。
命にかかわる場面だけじゃなく、周囲の期待に応えたいとか、より良いパフォーマンスを出していこうとか、アスリートの世界などでうまく利用している人たちもいますし、私たちも日頃から、不安なことがあるから備えることもできているわけです」
1日1個の小さないいこと探しを、1年やると
ストレスがない人生というのは考えられない……。
そうなると、ストレスに負けない鋼のメンタルをつくるより、日頃からキャパオーバーしないように、よくメンテナンスをしておくのも重要そうです。
杉山先生:
「その通りですね。その意味でも、すこやかさというのは、日頃の積み重ねに尽きるのだと思います。
私がおすすめしているのが、1日1個の小さないいことを見つけて記録していくこと。
手帳のマンスリーページにおさまるくらいの、ちょっとしたことでかまいません。
毎日が大変なら週に一度まとめて書くのでも、スマホのメモ帳でも写真でもいいので、大事なのは、そのときの幸せな気持ちをじんわり思い出せるくらいにしておくこと。
これを、1年続けるとものすごい財産になります。なぜかと言うと、人のものさしではなく、自分のものさしで見つけたことだから。自己肯定感を高めてくれるんです」
杉山先生:
「我が家は、ごはんを用意したりしながら『今日のよかったこと』を、家族みんなで話すのが長年の習慣になっています。
はじめたては夫も娘も『何もないな〜』と困り顔でしたが、最近ではいいこと探しが上手になってきて、こちらが聞かずとも『今日のいいことはね』と話してくれるようになりました(笑)。
思い返すと、こういうのを始めたのは、娘が小さかった頃、私がすごく忙しかったからでしょうか。
精神科医になるために、医学部に学士入学(3年次に編入)したのが36歳のときで、娘は小学校にあがったばかりでした。
医学部はとにかく勉強が大変で、毎日忙しくて必死だったので、家族とコミュニケーションができる時間が限られていて、なるべくいいことを話したい、そこにフォーカスしようと思ったのでしょうね。
この『いいことを探す』というのが、自己肯定感を上げることにも直結しているんだというのは、あとから精神科医の勉強で知りました。
しんどくなった時に見返すのもいいですよ。忘れているかもしれないけど、自分にはこんなにいいことがあったんだと思い出せるだけで、ちょっと気持ちが上向きになります」
コントロールできないことには、どう向き合うべき?
杉山先生がそんなふうに日々に追われていたなかで見つけた方法だったんですね……!
ご家族が、はじめのうちは苦手だったのに、だんだんうまくなって、そのうち聞かれなくても話すようになったという変化も面白いなと思いました。私もやってみたくなります。
もう一つ、ヒントが欲しいのが、自分では変えられないものやコントロールできないものに、心が乱されてしまうときのこと。他人の言動へのモヤモヤなど、どんなふうに向き合ったらいいのでしょうか。
杉山先生:
「社会に生きていると、どうしても人付き合いがありますものね。わかります。
でも他の人のことは変えられませんから、自分の気持ちを整えるのにフォーカスするのがいいのではないでしょうか。
おすすめしたいのがマインドフルネスです。ちょっと姿勢と呼吸を整えて、自分のなかに湧き上がった感情を評価しないで『あ、そう感じたんだね』と、受け入れてあげる。
たとえば、お昼のあとや、信号待ちや、電車待ちなど、数分でいいので、目を閉じ手を合わせて、姿勢を整えて、深呼吸をしてみてください。まずはやってみることも大事ですよ。
自分がこだわってるものとか、思い出してしまうものとか、そういうものでざわつく心が落ち着いてくると思います」
マインドフルネスって難しそうなイメージがありましたが、それなら私にもすぐにできそうです。
いま試してみたら、自分の呼吸に集中すると、一瞬自分から離れるような感覚がありました。
杉山先生:
「それ、気の持ちようではなく、科学的にも実証されていることなんです。
脳のなかの扁桃体が活発になると、些細なストレスにも過敏に反応しまうので、それを沈静化すると、リラックスできるし、集中力も上がると言われています。
1日平均27分間のマインドフルネスを8週間、26名が毎日実践したところ、扁桃体の灰白質の体積が減り、さらにストレスレベルも下がったという調査結果がありました*。大人の脳にも変化があるということがわかっています。
心を落ち着かせたいとき、逆にグッと集中力を高めたいとき、どちらにも使えるので、いざというときにできるように、まずはやってみてもらえたら」
*https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2840837/pdf/nsp034.pdf
朝起きてカーテンを開ける、かわいいものをかわいいなと思う、それだけで十分
杉山先生:
「その一方で、幸せホルモンと呼ばれる、喜びや楽しみ、やる気といった幸福感を与える脳内物質もあります。
代表的な『セロトニン』は、怒りや不安などの感情やストレスを抑制してくれるし、睡眠にもすごく大切なもの。増やすには、日々の生活をするということに尽きます。
セロトニンは、体内で生成できないトリプトファンというアミノ酸からつくられるので、タンパク質やビタミンなどバランスのよい食事がたいせつ。
あとは朝日を浴びたり、朝ごはんを食べたり、よく噛んで食べるのがいいと言われています。朝日と言っても、通勤や通学、洗濯を干すのにベランダに出るので十分です」
杉山先生:
「日々の生活が、ストレスを緩和することになると科学的に証明されていると知るだけでも、心持ちはちょっと変わりませんか?
前編で幸せって気づくことだというお話をしましたが、自分はちゃんとやっていると気づくのも一歩ですよね。結構できてるじゃん私、と思ってもらえたらうれしいです。
幸せホルモンのもう一つ『オキシトシン』は、愛情やつながりに関係しています。
家族やペットとスキンシップをしたり、感謝を伝えたり、映画で感動したり、何かを見てかわいいと思ったりすることでも増えると言われています。
気持ちがマイナスに傾きそうなとき、日常生活でできていることを、ちょっと意識的にやってみるというのもおすすめです」
今夜は寝る前に「いいこと」を思い出そう
人生には、いいことも悪いこともある。頭ではわかっていても、マイナスばかりが続くと、どうしても心が折れそうになってしまいます。
そんなとき、ちょっと姿勢をよくして深く呼吸をしたり、日々の生活でやっているようなことを淡々とこなすことが、結果的に自分を救ってくれる。
それが一番の発見でした。
杉山先生:
「お役に立ててよかったです。
これからの人生、やっぱりずっといいことばかりではないと思うんですね。ストレスがまったくないということはあり得ませんし……。それでもトータルで見たとき、より良いほうへ歩いていけるといいよね、ということだと思うんです。
ぜひ、1日1個のいいこと探しから、始めてみてください。
寝る前にいいことを思い出すのは、翌日のパフォーマンスをよくすることが科学的にも証明されていますのでね。
できたら毎日と言ったけど、毎日じゃなくてもいいですし、途切れてしまってもかまいません。
マイペースにちょっとずつ、自分だけの財産にしていってもらえたら。私の人生にはこんなにいいことがあったんだと思えるのは、すごくすてきなこと。人生の支えになると思うんです」
(おわり)
【写真】鍵岡 龍門
もくじ
杉山 葉子
精神科医、産業医、労働衛生コンサルタント、ヘルスシード合同会社代表。保健師として働いたのちに大学で教育心理学を学び、その後、学士編入学制度で医学部(3年次)に進学。産業医としては「健康経営」さらに「Well-being経営」につながるようにサポートすることをモットーとしている。健康安全管理指導にくわえて、メンタルヘルス、セルフケアに関する健康相談など、Well-beingを目指した「健康を通して人と組織を活性化していく活動」に取り組んでいる。
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