【子どもと築く】悩みも苦労も自分にしか感じられないもの。だから、温めて進もうと思うんです(保育園園長・齋藤美和さん)

編集スタッフ 岡本

早くご飯食べてよ〜。
もう保育園に行く時間だよ!

4歳と1歳の子どもたちに、今日一日で何回「早く早く」と声をかけたでしょうか。私の認識よりずっと早く過ぎていく時間に巻き込まれるように子どもたちを急かしては、一人になって落ち込む、なんてことを繰り返す日々。

もう少しゆとりを持って子どもたちと過ごせたらと思っていた時、こんな言葉に出会いました。

「子どもたちは、『今』の連続を生きている」

今まで気付かなかった子ども視点の世界を少しだけのぞいたような気がして、焦っていた心の奥の方にすっと染み込んでいきました。

思い出してみれば、「ああ、そうか」と納得する場面が浮かびます。朝食を食べるのが遅いんじゃなくて、バナナの筋をとても丁寧に取ることに集中していたり、靴下を手にはめると手袋みたいになって嬉しくなったり、子どもたちはいつも目の前の「今」を楽しんでいるだけ。

そんな子どもの「今」を意識するきっかけとなった言葉をくれたのは、東京・町田市にある保育園「しぜんの国」園長の齋藤美和(さいとうみわ)さんです。

「以前は、自分の人生に子どもが関わることがなかった」という美和さんが園長になったわけや、子どもとの関係性作りで大切にしていることを伺いました。

 

子どもってわがまま。そう思っていたけれど

美和さん:
「子どもは何をするか分からない存在というイメージで、近くにいるとドキドキしてしまって。もともとは得意な方ではありませんでした。

けれど、夫の実家が保育園だったことがきっかけとなって、初めて保育の世界に触れたんです」

美和さん:
「それまで保育って、ひとつのクラスをまとめるとか、子どもに言うことを聞いてもらうことが重要なのかなと思っていました。でも子どもたちを知れば知るほど、関係性をつくることが何よりも大切なんだということを感じて。

子どもってわがままだな、なんて思う時もあったけど、それは大人からの目線でしかないんですよね。『いい子』というのは大人の都合のいい子ではない、というのがだんだんわかっていきました」

いい子の判断って、つい大人目線からしてしまうもの。高い位置から子どもを見下ろすのではなく、すっと相手と同じ目線になって話を聞く美和さんの姿が印象的でした。

美和さん:
「まとめようとすると健やかな関係を作るのは難しくなる。だから、たとえ子どもであってもひとりの人として接したいと思っています。

0歳児から5歳児まで、春夏秋冬を何回も繰り返しながら子どもたちの変化をそばで見ているのは本当に面白い。だんだんと心がほぐれていったり、表情が柔らかくなっていく様子を見るうちに、もうやめられないと思うほどに保育が好きになりました」

 

周りのみんなが園長にしてくれた

今でこそ自然と子どもたちとの関係性を築いている美和さんですが、園長になった当初は迷いや不安を抱くこともあったのだそう。

美和さん:
「元園長である夫の存在があまりにも大きくて、その後に園長になる不安はなかなか拭えませんでした。

比べられちゃうんじゃないか、私で良かったのかなと思う時が何度もあって。そんな思いを本部の職員に伝えたら、『園長になろうとしなくてもいい。きっといつの間にか園長になっているはずだから』と言われたんです。

振り返ってみても、自分でなったというよりは、周りのみんなに園長にしてもらったなと感じています。

美和さん:
「保護者の方には、預けているのではなく『子どもがいろんな人に愛されるために通っているんだ』と思ってもらいたいですね。働いていると一緒に過ごす時間が短くなっちゃうと感じるかもしれないけど、私は時間の長さは気にしなくていいと考えています。

やっぱり一人では育てられないですから、一人で考えなくていいよって思うんです」

 

人生は移ろいやすいもの、と子どもたちから教わって

美和さん:
「子どもたちを見ていると、転んでもまた立ち上がったり喧嘩しても話し合ってまた繋がったり、どんどん変化していくんですよね。

子どもたちは『今』の連続を生きている。日々そう感じる中で、人生は移ろいやすいものだと、子どもたちから教わっています」

美和さん:
「悩んだり苦労したりって、その人にしか感じられないことだから、捨てる必要も越える必要もないと思っていて。私自身、今も悩むことはあるけど、大事に温めて進めばいいって思うから捨てたいとは思いません。

穏やかに暮らしたくても、移ろいやすい人生のなか、何かしら起きるもの。私がどうにかできることは少ないから、自分がやれることを続けていきたいなと思います。

今流れている子どもたちのいる景色を、これからも見ていたいですね」

美和さんのお話を聞いて、心に留めておきたい言葉にいくつも出会いました。そんな言葉たちを頭の片隅に置くことで、ここ最近は、ずっと欲しいと思っていたゆとりが少しだけ持てているような。

「今」の連続を生きている子どもたちを前に悩むことも多いけれど、子どもがいるから見られる世界があると信じて、悩みも捨てずに進んでいこう。そんなふうに励ましてもらったような気がしました。

美和さんのお話は、動画でもご覧いただけます。

弾けるような笑顔を見せる子どもたちにきっと元気をもらえるはず。ぜひ動画もお楽しみくださいね。

 

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【隣の芝が青くても】前後編

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