【好きが拡がる家づくり】03:すっきりには理由があって。憧れだけでは進められない、収納重視のキッチン

編集スタッフ 糸井

家をいちから作るなら、ありったけの好きやこだわりを形にしてみたいと夢見つつ、上手くできるかな? と想像することがあります。

そんな不安も、自分の好きが拡がるステップとして、軽やかに楽しんでみるのも面白いのかもしれません。

今回訪ねたのは、フローリストであり、東京・世田谷区にある花と緑のアトリエ「malta」店主の布山瞳(ふやま ひとみ)さんです。

第1話ではリビングや家づくりの話、第2話では洗面所やバスルームなどの水回りの話を伺いました。

第3話では、キッチンまわりの収納や寝室のインテリア、自分のこだわりとの付き合い方について伺いました。

第1話から読む

 

見せない収納で、片付けやすいキッチンに

ほんのりグレーがかった壁にあるキッチンスペースには、長く、白いカウンターが2つありました。

布山さん:
「キッチン側の壁は、天井まですべてキッチンパネルで作っているんです。途中で色が変わると違和感があるかなと思い、周りの壁色に近いキッチンパネルを探してもらいました。

普段からキッチン道具は出しておかないようにしていて。壁付けのグレーの戸棚と、カウンター下の部分がすべて収納スペースになっています。ここに器やコップ、鍋に調味料などをぜんぶ仕舞っているんです」

実際に見せてもらうと、想像以上の収納力。手前と奥のカウンターも合わせると、かなりの収納場所が確保されていました。

布山さん:
「建て替え前の家のキッチンの作りが、形とサイズ共に気に入っていたので写真を撮っておき、『このくらいのサイズにしてください』とお願いしました。

細かいデザインは、Pinterestで理想のキッチン風景をピックアップして相談し、そのイメージをもとに造作してもらうことに。一見、取っ手のようには見えないデザインが気に入っています」

布山さん:
「鍋や器が積み重ねられた『見せる収納』のキッチンにも憧れはあるのですが、時間のない日々の中でも綺麗を保てるように、ものはできるだけ収納しています。

実は今回、キッチン壁に長い飾り棚をつけてみたかったのですが、先方からやんわり修正があり、なるべくものは出さず、見せない収納を充実させることになりました。

最初は半信半疑だったものの、確かに見た目もすっきり片付くし、このくらいゼロな作りの方が、ガラッと雰囲気を変えやすいとも思い直して。

その分お花や植物を飾り、季節を感じる方法が今の自分の暮らしには合っているかもと、気に入っています

 

冷蔵庫とゴミ箱も、パントリーに「収納」

コンロの隣りのパントリーをのぞくと、そこには冷蔵庫が。ここではじめて、カウンター近くに冷蔵庫がないことに気が付きました。

布山さん:
「冷蔵庫も、最初は家具と一体化しているような置き方に憧れたのですが、掃除や片付けのしやすさから『冷蔵庫はパントリーに隠しましょう』ということになりました。

最初は『ええー? 』と戸惑いましたが、パントリーの手前だし、調理中は仕切りも開けっ放しにしているので、導線も問題なく使えていますね」

リビングとキッチンのゴミ箱も、このパントリーに入れているそう。シンクに三角コーナーはなく、料理中は手頃なボウルを近場に置き、その中に野菜のくずやゴミを入れ、最後にまとめてパントリーに捨てに行くのだそうです。

▲この上に、プリンターや仕事道具類も収納。

 

キッチン脇は、グリーンの研究室?

まっさらなキッチンカウンターの端にある、複数のグリーンがひときわ目に留まります。

布山さん:
「鉢のなかで元気がなくなった植物や、増やしたい植物の実験所のようになっています。日光が優しくあたる場所もあってか、ここに移すとみんな元気になって、新芽が出てくるんです。

植物を育てるのが苦手な人にも、水耕栽培はおすすめで。水替えだけですし、水をあげ過ぎることもなく、少しの間水を替え忘れてもびくともしない気がします。

その代わり、植え替えのタイミングで水で育てている場合は、その後土に戻すときにはお水をたくさんあげるように意識してあげるといいですね」

▲お気に入りのウンベラータ。根が出てきたのでそろそろ土に植え替えるそう。

 

雑貨の飾り棚は、ここだけに限定

最後に見せてもらったのは、寝室まわりのインテリア。ここは、布山さん宅のなかでも一番ものを飾っている場所なのだといいます。

前の家では、リビングに元々に飾っていた棚。新居のリビングに置くには木の色調がなじまなかったため、これを思い切って寝室に移動させたといいます。

▲寝室には、あえて収納スペースをなくして、片付ける場所を少なく。

布山さん:
「リビングは極力さっぱりとした雰囲気にしている分、飾り棚がなくて。雑貨のように細々したものを置くスペースがありません。そういったものをここに集約させています。中には、雑多な書類やCDを保管しています」

 

水場のない寝室には、ドライフラワーを

布山さん:
「寝室近くには水場がないので、ここに飾る植物は、ドライに限定しています。

ものだけで構成するよりも、こういった有機的な形が混ざってくると、飾り棚もつくりやすくて。

『MOEBE』の額縁に入れた押し花は、もう6年もの。枕脇にあるドライフラワーは、スモークツリーですね。先月買って、今はドライになりました。1年はこのまま楽しむことができるのでおすすめです」

▲ベッドサイドの横にある小窓からは優しい自然光が入り込む。

 

消えるこだわりと、残ったこだわりの間に

はじめて新居に足を踏み入れた時は、まるで最初からこの家の姿を思い描いて作られたものと思っていました。でも話を聞くと、あらゆる箇所が、布山さんが想像していなかった提案により作り変えられていったものなのだということに、驚き、意外に感じたのをおぼえています。

布山さん:
「お洋服もインテリアも、苦手なジャンルはあまりなくて。テイストががらりと変わった経験もなく、ずっと全部ごちゃごちゃしたまま、全ジャンルが好きなところはあります。

それでも、この家を建てるとき『建物として格好いいという要素はいらないから、飽きのこない、普通の家がいいんです』と何度かお願いしていたんです。日常は日常だから、そういうことを大切にできる家がいいんですと。

なのに熱心に提案いただくのは、一見自分の意図に反しているような案で。だけど、よく見れば格好良いだけではない、機能的根拠や愛がそこに詰まっていることに気が付きました。

段々と、自分の中でも曖昧だったこだわりは剥げていき、欠かせないこだわりは残りました。家づくりを経て、自分の好きも広がった気がしているので、これからインテリアを整えていくのも楽しみなんです」

 

拡がる「自分」に会えたなら

私にも自分の好きが拡がった経験には、いくつか楽しい記憶があります。とはいえ、元々の「好き」に固執しがちな性質もある方なので、高い買い物なら尚更慎重に、冒険は控えめになります。

かたや、こだわりはありつつも、そこからちょっと外れてみるのも楽しいよ、それは清水の舞台から飛び降りるほどの怖いことではないよと捉えている布山さんの軽やかさは、とても素敵で心地よいものでした。

最近もとあるティーカップで、こういう可愛らしいデザインは自分っぽくないと思っていたのに、なんで今まで見向きもしなかったんだろうと不思議に思うほど、からっと好きになる経験がありました。

そんな風に、軽やかに。いままでの自分では選ばなかったものを拾いあげ、その変化を面白がりながら、家やインテリア、服やメイクなど、暮らしの小さく、新しい景色を楽しみたい気がしています。

(おわり)

【写真】メグミ

 


もくじ

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布山瞳(ふやま ひとみ)

フローリスト。花と緑のアトリエ『malta』店主。撮影、店舗装飾、ウェディング装飾なども手掛ける。季節感や色彩、素材の調和を大切に、暮らしを豊かにする提案をしている。Instagram:@maisonmalta


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