【好きが拡がる家づくり】01:思いがけない間取り提案から始まって。専門家と愛をもってぶつかり合った、布山さんの家づくり
編集スタッフ 糸井
家をいちから作るなら、ありったけの好きやこだわりを形にしてみたいと夢見つつ、未知の作業のなかで、自分はそれを上手くできるのか……と想像することがあります。
特に、家づくりの専門家とのやり取りをするなかで、自分の好みから離れていないか? とどぎまぎすることも、きっとある。
でもそれも、自分の好きが拡がるステップとして、軽やかに楽しんでみるのも面白いかもしれない。
そんなことを感じたきっかけは、フローリストであり、東京・世田谷区にある花と緑のアトリエ「malta」店主の布山瞳(ふやま ひとみ)さんの新居を訪ねてからでした。
最近まで、自宅の建て替えに伴い、仮住まいをしていた布山さんですが、今年の春にようやく新居が完成したとのこと。
早速お伺いし、こだわりの家づくりやインテリアについて、詳しくお話を聞いてきました。
実は「大きな窓は嫌です」と断ることから始まって……
最寄り駅に到着し、住み心地のよさそうな街がつづくなか、目に止まったのは白い箱のような一軒家。ここが、布山さんが夫と息子と3人で暮らすご自宅です。
1階は、主に物置や仕事用に作った場所。居住空間は、階段を上がった2階〜3階部分なのだといいます。
布山さん:
「入居当初は、まだ照明もない状態でしたが、住み始めるなかで少しずつ落ち着いてきました。とはいえ玄関の照明がいくつか届いていなかったり、ベッドも買えていなかったりと、途中なところも多いんです」
高い天井に、白やベージュといった、やわらかなコントラスト。そこへ、自然光がまんべんなく差し込んでいます。
布山さん:
「建て替えを前提に購入したこの土地には、元々中古物件が建っていて。10年以内に建て替えようね、と家族で目標を立てていたんです。
そのタイミングが来たときに、友人から『知り合いの建築家なら、あなたとすごく相性がいい気がするよ』と紹介してもらい、建築事務所である『ULTRA STUDIO』さんとの家づくりを始めていきました」
▲吹き抜けの階段を登り、鮮やかなグリーンが集められたリビングへ。
案内してもらうなかでまず印象に残ったのが、リビングのつくり方。一軒家のリビングというと、玄関にほど近い1階につくるイメージがありましたが、ここでは最上部の3階に置かれていました。
布山さん:
「ここは住宅密集地で、購入当初の家も、敷地面積みちみちに家が建っている状態でした。全方位に隣家がすぐそこにあり、どんよりとした暗さがあって……。回遊できるように、また小さくても良いからお庭を作って欲しいとまず要望を出しました」
早速提案されたのが、リビングを3階にすることと、家の両サイドの壁に大きな窓を設けて開放感をつくるというものでした。
布山さん:
「実はそれを、階段の上り下りが大変そうだし、こんなに大きな窓は苦手だな……と断ったんです。
日常感に欠けそうだなとか、特にリビングの窓が一日中明るすぎるのは、落ち着かないんじゃないかなって。『明るいのは嬉しいけれど、やっぱり窓はもっと小さくして、その分、上からグリーンを吊るすスペースを付けてください』とお伝えしました」
譲らないには、ワケがある
ところが返ってきたのは、『ここは密集地だから、今後もし別の方角に隣家が建ったときのことも考えて、絶対にこうしたほうがいいです』の言葉。引けない気持ちもありながら、相手も譲りません。そんなやりとりを重ねるうち、段々と、布山さんも納得してきたのだといいます。
布山さん:
「思い返すと、建て替え前の家は1階がリビングだったんですよ。あの時はリビングで寛いでいても、不意にお隣さんの気配を感じたり、そういえば日光もあまり入ってこなかったなと。
これで完璧という確信はなかったけれど、プロの意見に従ってみようと思いました。
それが、本当によかったんです。朝起きて、階段でリビングに上がってくるたびに、『空が広いってこんなに気分がいいことなんだ』って嬉しくなるんです」
▲窓の先の、テラスの壁も高くすることで、隣家は見えずに空が広がる好景色に。
とはいえそれで任せっきりにはせず、譲れないところは譲らないのが布山さん。
布山さん:
「この腰掛けの部分は、図面の段階ではもっと高さがあったんです。工事直前に家をのぞいたときに、その高さが想像以上なことに気がついて。
見た目の素敵さはあるけれど、絶対に腰掛けられる高さの方が落ち着くからと、なんとか変更してもらったんです」
今では、ここにこうして座るのが一番落ち着くスペースだそう。舵取りを譲るところと譲らないところ、その塩梅の取り方がとても上手に感じます。
新調した家具は、ダイニングテーブルだけ
▲鹿児島に拠点を置く『Mokuji Furniture』に依頼して製作してもらう。元々のダイニングテーブルは実家へ。
新居に引っ越してからは、家具も新調したのでしょうか? と聞くと、大きいものではダイニングテーブルだけとのこと。
布山さん:
「以前使っていたものが濃茶色のヴィンテージで、新しいリビングのトーンには合わないかなと変えました。
窓のおかげで一見空間も広く感じるのですが、面積的にはあまり大きくないので、 天板はガラスにして抜け感を。色は、引き締め役として黒にしました。
形は、今回もラウンド型です。普段3人で座るには勝手がいいのと、工夫すれば案外5、6人でも座れるので融通が利くんです」
▲一人暮らしの頃から20年ほど使っている一人がけ。他にソファーがない今は、家族がリビングに集まると奪い合いになるスポット。
▲大きな窓を一面に覆うカーテンは、テキスタイルブランド『kakapo』のもの。刺繍のような表情が空間にかすかな表情をつくります。
ここも、あそこも、収納場所なんです
非常にすっきりしていて、開放感のある理由には、生活のあらゆるものが見えるところにほとんど出ていないことも関係していそうです。
布山さん:
「物を出しっぱなしにしなくていいように、それぞれのアイテムごとにたくさんの収納場所を備え付けてもらいました。例えば家族の本は、すべてこの中に入れていて……」
と、腰掛けスペースの下を開けると、本がぎっしり詰まっていました。
布山さん:
「素敵な本棚に本を飾る様子も憧れつつ、ごちゃっとすることが多かった本棚は、思い切って卒業。これまで使っていた本棚は、行きつけのカレー屋さんにお譲りすることに。
本って持ち主が透けて見えるから、出ていると私はちょっと照れてしまうんです。なので今はこの形が気に入っています」
「家づくりってこんな感じなの?」の連続
▲14年ほど愛用しているヴィンテージのローテーブル。入れ子になっていて、出し入れが可能。
ひとつの家をいちからつくるというのは、本当に選択の連続。途方もない作業に感じますし、それがはじめてのことなら尚更です。
布山さん:
「思い返すと私と夫で、それぞれが家づくりでどんなことを希望するかを別々でリストアップしてきてください、と言われたのがスタートラインになりました。
それを元に、先方に間取りプランを3つほど出してもらい、ブラッシュアップをしていくんです。月に一度のオンライン相談や、メールなどでやり取りを重ね、トータルで2年かかったでしょうか。
壁の色や、床の貼り方など、細かいところは家の完成ギリギリに詰める状況で、本当に間に合うのかな……? と何度も思いましたね」
布山さん:
「夫は『釣り道具用の収納などがたくさんあって、それと、カメの飼える場所があればいいよ』という2点だけだったので、メインは私が決めていきましたね。
『私としてはこれがいいんですけど……』という希望を、『いえ、こちらはどうでしょうか』と鮮やかに再提案されたり却下されることが、とても新鮮な体験でした。『え、家づくりってこんな感じなの? 』と驚きつつ、最初は想像もしていなかった形へとブラッシュアップされていくことが面白くなっていきました」
ラリーを続けるのは「良い家にしたいという愛」があるから?
▲リビングから続くテラス。引越し後、なんとか3階まで運んで植え替えたグリーンが並ぶ。
布山さん:
「色のトーンも、元々はもっと落ち着いている方が好みなんです。シルバーよりもゴールドが好きですし。でも提案いただいたのは、白とシルバーがイメージカラーの家。
はじめは違和感があったけれど、その意見に乗ってみたら発見も多く、新しい何かが開花した感じがして。ここで自分らしくインテリアを整えていったらどうなるんだろう、と凄く楽しくなっていったんです。
意見を却下されるのは、向こうも一生懸命で、よりよくしたいという愛があるからこそ。自分もお客様にお花を届ける仕事をするものとして、そんな気持ちもわかりますし。
とはいえ、譲ってないところもかなりあるのですけれど。笑 建て替え中も近所に仮住まいしていたので、度々夜に見にこっそりと行っていました」
▲リビングの階段側に作られたカウンタースペース。ここで仕事をするのが気分転換になるそう。
続く第2話では、そんな布山さん宅の2階部分を細かく拝見していきます。
(つづく)
【写真】メグミ
もくじ
布山瞳(ふやま ひとみ)
フローリスト。花と緑のアトリエ『malta』店主。撮影、店舗装飾、ウェディング装飾なども手掛ける。季節感や色彩、素材の調和を大切に、暮らしを豊かにする提案をしている。Instagram:@maisonmalta
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