
「この先、どんな暮らしがしたいのだろう?」
ふとした瞬間、そんな思いが胸をよぎることがあります。不満からというより、これまでの選択や方向性に少しの違和感を感じはじめたとき。ちょっとだけ立ち止まって、今を見直してみたくなる。
今日ご紹介する 竹之下友美 さん(52歳)も、50歳を見据えた40代半ばのとき、大きく暮らしを見直し、はじめて家を建てました。
今回の特集では、竹之下さんが「終の住処」と呼ぶ、コンパクトな家づくりの話を詳しく伺います。
40代後半で、はじめて家を建てました
もともと今の家が建つ場所にあった、築50年以上の古屋を改装して、ご主人と保護猫2匹と心地よく暮らしていた竹之下さん。結婚してから10年以上、夫婦でDIYしながら古くても快適な家づくりを楽しんでいました。
お互いに40代の働き盛りを迎え、ときに働きすぎて体調を崩すこともあったそう。竹之下さんが30代で入退院を経験していたこともあり、45歳のときにご主人から家を建て替えることを提案されました。
竹之下さん:
「古い家も大好きだったのですが、今考えたら不便なこともそれなりにあって、ずっと住み続けられるのかと両親からも心配されていました。夫もいつか家を建てたいと思っていたようで、それならと、終の住処のつもりで、小さくても心地よい家を建てようと決意しました」
家づくりで大切にしたのは、人も猫も健やかに暮らせること。たくさんのハウスメーカーや工務店を見て回るなかで、地元・南九州の杉材や霧島連山のシラス土をつかった漆喰壁など、素材選びを大切にする建築事務所に依頼しました。
竹之下さん:
「家づくりで何に重きをおくかはそれぞれ違うと思うのですが、私も猫もほとんどの時間を家で過ごすので、体にいい素材を使った、シンプルな白い箱みたいな家にしたいとお願いしました。凝ったことはしなくていいから、素材に予算をさきたいと思ったんです」
1LDKで十分。余分な部屋はいらないと思った
両隣を店舗にはさまれた、間口が小さく、奥行きのある細長い敷地に建つ竹之下さん宅。建築家の提案で、家の真ん中に中庭がある「コの字型」の住居に。中庭からの光がたっぷり入るLDKと小さな寝室、水回り、納戸と必要な機能がぎゅっと集約されたコンパクトな1LDKの間取りで、日々の暮らしは完結するのだそう。
竹之下さん:
「実家が田舎ということもあり、割と大きな一軒家で生まれ育ちました。使われていない物置みたいな部屋や、妙に広い廊下もあって、幼少期からその空間がもったいないと感じていたんです。だから無駄な部屋も廊下もいりませんと伝えて、今の間取りになりました。
1LDKで十分に事足りますし、手の行き届く範囲で暮らすくらいが、私には心地いいです」
庭はないけれど、雑木の鉢植えを置いて
リビングに面する中庭は、庭といっても土はなく、タイル敷きのベランダのような空間です。家が完成してから数年間ほど、何か植物を置きたいなと思っていたところ「雑木の庭」をテーマに庭づくりをする庭師の方に出会いました。樹木や山野草を寄せ植えした、大きな鉢植えを並べてもらうことで、季節の移ろいを感じられる小さな庭が完成したそう。
竹之下さん:
「寝室で目覚めると、真っ先に窓ごしの緑が目に入ります。四季折々の表情があって、植物や朝の陽光にパワーをもらっている気がして。愛猫のメルさんもこの場所が大好きで、日中はここで昼寝したり外を眺めたりして過ごしています。
少し前まで、一羽の野鳥が毎日17時に飛んできて、枝でひと休みして、毎朝7時きっかりに飛び立っていくのを観察していました。2ヶ月ほど滞在して、ぱったり帰ってこなくなってしまったのですが、また来年会えたらいいなと楽しみにしています」
好きな器が増えても、溢れないように
竹之下さん宅のLDKで、どこにいても目に入ってくるのが器です。夫婦ふたり分とは思えないほど、たくさんの器がアンティークの棚に心地よさそうに並んでいます。
竹之下さん:
「たくさんあるようで、使っていないものは1つもないんです。普段づかいのものはキッチンに。リビングには、友人を招いたり、家で展示会をしたりするときなど、おもてなしのシーンで使うものが置いてあります。
仕事ですてきな作家さんと出会うこともあり、手に取ったときに『好きだな』と思ったら購入しています。そうやって少しずつ増えていくのですが、新しい器を迎え入れたときはどこに置くかいろいろ試しながら、器が居心地が良さそうな場所を探して、模様替えをするんです」
竹之下さん:
「器も家具も、基本的に10年20年と使っているものばかりですが、使わなくなったものは、年に一度だけ開く蚤の市で、大切に使ってくれる人に譲るなどして手放します。そうやって空間をあけると、また新しいご縁が入ってくるような気もして。
飽きることは、悪いことではない気がするんです。次の段階に行く準備が始まるのかなと捉えて、まずは配置や用途を変えてみて、それでもしっくりこなければ手放すなど、物を循環させることも意識しています」
単身赴任の夫にむけて始めたInstagram
家が完成した直後から、予期せずご主人が単身赴任になってしまった竹之下さん。ご主人から、家の様子が知りたいと言われて始めたInstagramに、日々の暮らしを綴っています。
竹之下さん:
「せっかく家を建てたのにかわいそうと言われることもあるのですが、離れていても、そんなに寂しいと感じることが不思議とないんです。この家を通して繋がっているような感覚もあるのでしょうか。
家の写真をあげると夫が喜ぶので、好きだなと感じたシーンをアップしています。休みには帰ってきますし、付かず離れずの距離感が、50代の私にはちょうどいいのかもと今は思っています」
竹之下さんの家づくりのベースにあるのは「家族ファースト」の思い。家もSNSも誰に向けるわけでもなく、家族の顔を思い浮かべて。まるで巣づくりでもするように、自分たちが安心して、歳を重ねても心地よく暮らせる場所を日々整えてらっしゃるのだなと感じました。
つづく後編では、竹之下さんが一日の大半を過ごすというキッチンのことや、忙しい中でも家や自分を整える習慣について詳しくお聞きします。
photo:穴見春樹(7,11枚目以外)
竹之下友美
縁のあるgalleryで作家さんの個展を開き、自宅では小さな集いや、お花やお茶、折形のワークショップなどを開催。地元のつくり手さんを集めて「春市」という野外イベントの企画なども手掛けるほか、健康美容の分野でも活動を広げている。
Instagram: @tomomerci_beaucoup04022018
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