【空を見上げて】後編:晴れていたのに急な大雨が……。 天気予報は「今ここ」が苦手です
ライター 花沢亜衣
ついこのあいだまで、濃い青空に白い雲がもくもく伸びる夏の空だったと思いきや、気づいたら高く抜けた空に水彩画みたいな薄い雲がかかる秋の空に変わっていました。
毎日、頭上にあって少しずつ変化していく空や天気。
そのおもしろさについて、気象予報士の佐々木恭子(ささき・きょうこ)さんにお聞きしている特集を、前後編でお届けしています。
天気予報には「今を知る人」が必要
取材中、窓の外をちらちら見て、空や雲を気にしている佐々木さん。
「気象予報士になるとやっぱり毎日、空や雲を見ているんですか?」と聞いてみると、「いえ、気象予報士って、みんながみんな空をよく見てるわけではありません(笑)」と意外な答えが。
佐々木:
「天気予報は、観測データからコンピューターが自動でシミュレーションしてくれるので、実際の雲や空を見なくても作れちゃうんです。だけど、そのあいだも空は刻々と変化していくので、どうしてもズレが発生してしまうのです。
そこで空を見るんです。シミュレーション結果と現在の空の様子を見比べたり、気象レーダーや気象衛星などの観測データとのズレを把握したりします。その上で、シミュレーション結果をそのまま採用するかどうかなど人間が判断して、天気変化のシナリオを考えるんです」
佐々木さん:
「気象予報士というと、ニュース番組で天気予報を説明するキャスターが浮かぶと思うのですが、天気予報をつくって企業に提供する“予測業務”というお仕事もあります。
たとえば、首都圏で雪が降るとしましょう。皆さん一人一人も関心はあると思いますが、高速道路や自治体にとっては、いつ降りはじめるのか、どれくらいのペースで積もるのか、いつがピークになるのか、ということが安全のためにも重要です。
けれど、そういった細かいことはテレビの天気予報だけを見ていてもよくわかりませんよね。そこで予測業務として請け負って、地域や時間帯ごとに予測をつくって提供します。
気温や降水量の変化をグラフや数値で提供するだけでなく、この数値がどういうことを意味しているのか、その先にどんな危険性が考えられるのかを読み解いて、伝えるということがすごく大切になってくるんです」
晴れていたのに急な大雨になるのは、どうして?
天気予報が苦手だという「今ここ」のこと。
最近は、晴れていたと思ったら急に大雨にあうこともしばしば。「わかっていたら傘を持ってきたのに……!」と悔しい気持ちになりますが、そういう雨も予報することはむずかしいのでしょうか?
佐々木さん:
「かつては私も、天気予報が外れた!と怒っていました(笑)。でも局地的な雨は、積雲(わた雲、入道雲)や積乱雲(雷雲)によるもので、いつどこで降り出すかの予測が極めて難しいんです。
ただ、積乱雲ができそうだという可能性はわかる。そういうときは天気予報で『大気の状態が不安定』というキーワードが出ていることが多いです。『ところにより雷』『竜巻』も要注意ワード。そのエリアは急な大雨が発生する可能性がある、ということになります。
大気の状態が不安定な日は、いつもより少しだけ空模様の変化に注意してみてください」
空を見ればわかること
佐々木さん:
「空や雲を見て楽しみながら天気の変化を予想することを観天望気(かんてんぼうき)といいます。
青空が急に暗くなってきたり、冷たい風が吹いてきて、なんだか怪しいぞ……と思ったら、雨が降ってきたという経験はありませんか? それも観天望気です。
急な雨などは、観天望気がすごく有効です。天気の急変を知る事のできる雲のひとつが、もくもくと育った雄大積雲の頭に現れる頭巾雲(ずきんぐも)。この雲が見えたら、このあと雄大積雲が積乱雲に発達するかもしれないという兆候です」
▲入道雲の頭にできた頭巾雲。てっぺんが頭巾のように丸くなっている。『すごすぎる天気の図鑑』より(荒木健太郎/KADOKAWA)
佐々木さん:
「他にも、青空に濃いすじ雲(巻雲)が広がってきたりすると、その先に雨がいつ降ってもおかしくないような積乱雲がいる可能性が高かったり、雲を見るとわかることはたくさんあるんです。
昔から天気にまつわる言い伝えがさまざまありますが、『太陽や月に光の輪がかかると雨』など、雲や空を観察するものに関しては科学的な裏付けがあり信用できるものもたくさんあります」
「天気っておもしろい」がいつか身を守るかもしれない
▲雲研究者の荒木健太郎先生の『すごすぎる天気の図鑑』シリーズ。佐々木さんは荒木さんの門下生として、編集に参加。天気・気象にまつわる、おもしろくてためになる知識がやさしく紹介されている。
自分で空を読み、雨を察知できる。そう聞いて、好奇心がむくむくと湧いてきて「今の雲の状態はどうですか?」と、つい佐々木さんを質問攻めに……。
佐々木さん:
「ね、知ると楽しいでしょう? そうやって、『天気って楽しいね、雲っておもしろいね』と知っていくことは、いつか防災にもつながると思っています。
私が編集をお手伝いした『すごすぎる天気の図鑑』では、雲の特徴や気象の仕組みを紹介しながら、それに出会うための方法として、『気象庁のウェブサイトでこういう点を見るといい』というような、読むとそれが行動につながることがたくさん紹介されています。
天気や雲への興味から、気象庁のウェブサイトや天気予報をチェックする習慣がつけば、大雨などの災害情報もキャッチしやすくなると思うんです。自分が楽しむために使ってた情報が、防災につながる。そのためには、天気っておもしろいということを広く知ってもらいたいなと思っています」
▲「大気の状態が不安定」とは、どういうことかについてのわかりやすい解説も。
天気も気候も刻々と変化する。だから日々勉強
天気や気象のおもしろさを楽しく語ってくれ、そして、それを発信したり、資格スクールで伝えたり、精力的に活動する佐々木さん。これからの夢を聞いてみました。
佐々木:
「天気や気象のおもしろさを世の中の人たちに知ってもらいたいというのが何より根底にあります。本をつくったり、YouTubeやX(Twitter)などのSNSで発信したりしているのもそのためです。
そこから防災に意識が向く人が増えたり、気象予報士を目指す人が増えたらうれしい。予測業務の価値や魅力も伝えたいです。そのためにも私がおもしろいと思った天気や気象のことは何でも伝えていきたいですね。
同時に、最近はコンサルティングの仕事の必要性もより一層感じています。今年の猛暑を見てもわかるように、やっぱり気候変動は避けては通れない問題です。ここ数年は猛烈な雨の頻度も増えています。道路などのインフラもそれに備えなければいけないし、企業の経済活動も気候変動を無視はできない状況に来ていると思います。
そのとき、数字や状況をお伝えするだけでなく、『それがどういうことなのか』『なにができるのか』を一緒に考えていくのもコンサルティングの仕事だと思っているので。
なので、今は天気のことだけでなく、気候変動や異常気象についても勉強しています。それもまた現在進行形で変化しているものごとなので、やっぱり日々勉強ですね」
§
「自分の頭の上の状況を見ることって、実はすごく大事なことなんだと思います」という言葉がすごく印象的でした。
天気予報や科学がいかに進化しようとも、今のリアルな状況が起点になるという考え方は、未来の捉え方のヒントにもなりそうです。
同時に、今、この状況がどうなっているんだろうと考え、知ることのおもしろさも教えてもらった気がします。そう思って空を見上げてみると、少し前の暑い夏とは違う爽やかな空が広がっていて、「あの雲はどんな雲なんだろう?」と、知りたい欲が湧き上がってきました。
天気のことをもっと知りたくなったら…
佐々木さんが編集協力された本がおすすめです。シリーズで三冊出ています。知識がなくても、どれから読んでも、楽しめるように作られています。
『すごすぎる天気の図鑑』
『もっとすごすぎる天気の図鑑』
『雲の超図鑑』
(いずれも荒木健太郎/KADOKAWA)
【写真】鍵岡龍門(6枚目を除く)
もくじ
佐々木 恭子
合同会社『てんコロ.』代表。気象予報士。防災士。大学卒業後、テレビ番組制作会社入社。バラエティー番組のディレクターを経て、2007年に気象予報士の資格を取得し、民間気象会社で自治体防災向けや交通機関、企業向け予報を担当。現在は予報業務に加え、気象予報士資格取得スクールなどを主催・講師を務める。
著書:『天気でわかる四季のくらし』(新日本出版社)など
編集協力:『すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)シリーズなど
YouTube:@tencorochannel
X(旧 Twitter):@tencorocoro
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