【伸びしろのあるふたり】前編:私にとっての転職は、過去を手放すよりも「価値観を増やすこと」が大事でした(金 × 木下)

ライター 長谷川賢人

ふだんはせわしなく、仕事と向き合うクラシコムのスタッフたち。ゆっくり、じっくりと、お互いのこれまでを振り返って話す時間は……実はそれほど多くありません。

でも、あらためて話してみると、人となりがもっとわかったり、新鮮な発見が得られたりするもの。そこで、スタッフ同士でインタビュー(というより、おしゃべり?)してみる機会を持ってみることにしました。

今回は、クラシコムの「人と組織にまつわること」を様々に担う「人事企画室」の金と、コスメの商品開発やアパレル・雑貨の仕入れに携わる「MDグループ」の木下が登場。

それまでの経験を踏まえて、40代でクラシコムへ転職してきた二人。クラシコム入社後には培ってきた「自分のやり方」を変えたり、書き直したりする機会も多くあったといいます。ただ、その過程で、「自分にはもっと可能性があったんだ!」とも気づけたのだとか。

そんな “伸びしろのあるふたり” ですが、クラシコムで働いていくなかで、あらためて自身に「変わったこと、変わらないこと」もあるのでしょうか?

前編は木下が主に聞き手となって、金に色々と質問してみました。

 

「人と組織にまつわること」を全て担う仕事です

▲人事企画室のスタッフ金

木下:
金さんの仕事って、本当に様々ですよね。クラシコムの全社メンバーが集まる「全体会議」もお疲れ様でした。

金:
私のいる「人事企画室」は、クラシコムが健やかに発展していくために「人と組織にまつわることを全て担う」役割なんです。採用はもちろん、人事制度の運用、マネージャーの支援、新入社員の研修、労務管理、産育休者のフォローなどなど。

木下:
本当に「全部」ですね!

金:
今は12月下旬にリアルで開催する「全体会議」の準備をしたり、キャリブレーション会議(クラシコム独自の人事評価会議)の支度をしたり。全社員に関わる大切な場なので、特に緊張感を持って向き合っています。

木下:
金さんはクラシコムに転職される前も、近しい職種を経験していたんですよね。それでもやっぱり難しいですか?

金:
そうですね。新卒からずっと教育業界にいて、人事の仕事は社会人経験の半分くらいを占めていますが、40歳でクラシコムに来て、初めて「業種」を変えたんです。しかも、クラシコムはこれまでの会社とは全然違いました。

▲MDグループのスタッフ木下

木下:
どんなところに感じました?

金:
まず、自分の足元がぐらつくような感覚があったのは数値評価がなくなったことなんです。それまでは半年に一度は「達成すべき数値目標」があって、みんなでそれに向かって頑張っていき、数値の達成度合いで人事評価も定まってくるのが通例でした。

数値が達成できていれば評価され、自分も貢献できている実感が持てる。そして、次の目標に向かって修正する。こういうサイクルがわかりやすかったんです。

でも、クラシコムの人事企画室のミッションは「組織を健やかに維持し、発展させていくこと」で、数値目標がない。そもそも「健やかって、なに?」みたいなことも考えないといけません。

木下:
慣れてきたサイクルが通じなくて、それで「足元がぐらつく感覚」だったんですね。

金:
クラシコムに入社して、いち早く役に立ちたいと思っていても、本当に貢献できているのか、ちゃんと評価に値するのか、とにかく不安で……。

私も「クラシコムらしく」判断できたり、話したりしたいと思いつつ、入社時に代表の青木さんから「慣れるまで2年くらいはかかるから焦らなくていいよ」と言われていて。「2年も!」という驚きと共に、その長さに余計焦ってました(笑)。

 

「これがクラシコム的に正解?」と差し出してた

木下:
言われてみると、2年って長いですよねぇ。

金:
「より早くすることは是である」といった発想で生きてきたから、いかに1年へ短縮できないかな、とも考えていたんです。ただ、ある時に青木さんから「クラシコムが過去にやってきたことに、リスペクトはしてもいいけれど、忖度はしないでね」と言われて、すごくハッとしたんです。あぁ、私は忖度していて、みんなと違う意見を言うのも怖がってたなって。

木下:
「こういうのがクラシコム的にも正解でしょうか?」と差し出してみたくなる、というか。

金:
そうそう。でも、振り返ってみると、自分がこれまで働いてきたなかで、組織への貢献を測る時に「他者からの評価」を軸にしていて、自分自身の頑張りや貢献を測る自分なりのものさしを、あまり育ててこられていなかったと気づきました。全体の進み具合を見た上で、自分で自分のことを認めてあげる、という機会が足りなかったのかもしれません。

木下:
それは私も同じ感じでしたよ。なんと言うか、それは今まで仕事で培ってきたことを「手放す」という感じでもなくて。

金さんの言葉を借りれば、自分で自分を認めてあげることも含めて、実は「評価するための軸」は数値だけでなく、もっと周りにたくさんある、と改めて知っていったんですよね。

金:
わかります。私はクラシコムに入社してからの数年間が、もう「人間としての修行」だったなぁ、とも思うんです。

木下:
良い言葉ですね、人間修行!

自分の軸を持って、姿勢良く正しく立っている「自立する」という感覚とか、相手と向き合って対話していくこととか。評価軸がないがゆえに、いろんなものを育てなければいけないのは、とても新しい感覚ですよね。

 

自分へ向けていた矢印を、もっと外側へ向けなくちゃ

金:
徐々に私も慣れていった感じです。でも、入社して1年くらい経った頃に、印象的な出来事があって。クラシコムでは、だいたい半年ごとに社員を募集する「定期採用」があるのですが、そこである職種が採用しきれなかったんです。でも、その採用だけは緊急度が高いと考えて、次の半年を待たずに募集することに決めました。

そうしたら、店長の佐藤さんから「忙しいのに優先順位を上げてくれてありがとう」って声をかけられたんです。仕事終わりに一人、「定期採用の枠組みで、もっとやれたこともあったはずだったのに」って申し訳なさと悔しさで、すごく泣いてしまって。それに、佐藤さんは結果が出ていないのに、人事の取り組み自体を信頼してくれているんだな、とも思えました。

数値目標がない自分のもどかしさを考えることよりも、組織や事業の先行きをよく見ながら、マネージャーたちとコミュニケーションを取ったり、もっと動けることがあるはずだと。自分に向けていた矢印を外側へ向けなくちゃ!と、悔し涙と共によく覚えています。

木下:
それは大きな経験ですね。正直、辞めて以前の業界に戻ろうと思うこともありました?

金:
さまざま葛藤はありましたけど、全く考えてはいなかったですね。どれだけ自分が役立っているのかは試行錯誤の日々でしたけれど、もともと一人のお客さまでもあった「北欧、暮らしの道具店」が好きな気持ちは変わりませんでした。それより、社員のみんなのことを知るほどに気持ちが深まったくらいです。

社員や組織がこれからも健やかに成長して、お客さまへもっと良いサービスを届けられるようになりたい。その思いが強かったですし、進む道も信じられていましたね。もちろん、「好きだからこその焦りもあった」というのも正直なところです(笑)。

 

私って、40歳を過ぎても伸びしろあるんだ!

木下:
これまでのやり方を変えていくとなると、葛藤もつきものですよね。

金:
大人になってからの学び直し、という意味で「アンラーン」という言葉がありますよね。私もクラシコムにフィットしていくには、アンラーンが必要じゃないかと思っていたんです。

木下:
すでに持っている知識や価値観を忘れて、思考をリセットしようと。

金:
たとえば、自分の持てる価値観のカードが「10枚」までとすると、アンラーンで「8枚」に減らさないと、新しいカードを持てません。でも、過去の自分を手放すことは、私にとってはどこかで自分自身を否定するような気持ちが湧いたりもして、すごく苦しかったんです。

過去の私も頑張っていたし、応援してくれた人たちもいたのだから、なくしてしまうのも違うはず……。それで、時間と共に着地できたのは、そもそもカードを10枚までしか持てないと捉えるのではなく、違う価値観も取り入れて、「15枚」や「20枚」まで増やしてもOKという考えです。

木下:
カードをなくしてしまうのではなく、使えるカードを増やして、「ここでは使わない」とすればいいですもんね。それが活きる別の場所は、過去にも確かにあったわけですし。

金:
いろいろと葛藤した期間も経ましたが、その考えに至れたときは「私って、40歳を過ぎても伸びしろあるんだ!」みたいに可能性が広がった感じでした。腑に落ちた時に、過去の自分もちゃんと今の自分に繋がっている感覚があり、とても安心したんですよね。

新卒から関わってきた教育業界から、年齢を重ねて業種も変えたけれど、今日まで積み重ねてきたものが自分を助けてくれていて、さらに新しい自分になっていける。これから自分はどういう世界を見ていけるんだろう!って。まだまだその変わっていく途中にいるかな、とは思っています。そうそう、慣れるまでの2年が経って終わりじゃないですから。

木下:
そうですよね! むしろ、ここから慎重にいかないと!(笑)

金:
結局、ずっと人間修行はしてます(笑)。でも、楽しめる余裕は出てきましたかね。

(つづく)

 

【写真】川村恵理

 

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