なにかをたべるときはいつも「元気をだそう」とおもっています。スーパーマリオブラザーズのマリオはお星さんにぶつかると、からだじゅうを光らすほどの元気をだすけれど、あれの、もっとささやかな感じが、わたしにとってのごはんです。つまり、ごはんは、わたしのお星さんです。とどのつまり、元気のでるごはんにまつわるエッセーを書くことになりました。

小原 晩

　スーパーに駆け込むのはいつも閉店前の頃だから、果物やら野菜やら魚やら肉やらの棚はがらんとして、お惣菜なんかもすかすかとして、ぽつんぽつんとある割引されたお寿司のパックを疲れ顔の社会人たちと狙いあったりしている。夜型である私にとってのスーパーマーケットの風景というのは、ふつうそういうものなのだけれど、或る朝、私はさっぱりと目を覚まして、気分がいいので散歩へ出て、なんとなしに開店したばかりのスーパーマーケットへ入った。
　開店したばかりのスーパーマーケットは、ぎっしり、としていた。すみずみまで食料品がつめられている。あらすごいわね、と百貨店の化粧品売り場を歩くような心持ちで見て回った。そして百貨店の化粧品売り場を歩くときと同じように何も買わずにスーパーを出た。どうやらすかすかしているほうが、自分には合っているようである。それから帰り道を歩いた。ゆっくり、ゆっくりと。
　やっぱり。そう思って踵を返す。スーパーへ再び向かう。そして、斜めの棚にぎっしりと並べられたシャインマスカットたちを見つめる。輝いている。そう思った自分に正直でいようと思った。私は一房のシャインマスカットをレジへ持っていく。1380円。そっとうなずき、支払いをする。レジ袋はもらわずに、胸の前で抱えて歩く。
　家に帰って、水道水で軽く洗う。台所に立ったまま、一粒を口に運ぶ。噛むと、ぱりっとはじける。良い匂いの、味がする。さわやかなあまさである。ははん。ははん。東向きの部屋に住んでいるから、朝の光がさしている。柔らかい椅子に腰を下ろし、さらりと足を組んで、軸から緑の実を外す。つぎつぎと放りこむ。明るい部屋で、朝のフルーツ。少々照れる。呆気なく食べ終わり、腹は満ちて、うとうと眠たくなってくる。そのままベッドへ倒れ込む。冷房を弱めて、薄いブランケットをかぶる。iPhoneの液晶が光る。誰からの連絡だろう。気になるけれど、目をつぶる。おやすみなさい。

 

 

 

 

文／小原晩（おばら ばん）
1996年、東京生まれ。2022年、自費出版にて『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行。2023年9月、『これが生活なのかしらん』を大和書房より出版。
湯船につかりながら本を読むことと、夜の散歩が好きです。お酒をたしなみます。

 

写真／服部恭平（はっとり きょうへい）
1991年、大阪府生まれ。2013年に上京し、モデルとして活躍する傍ら、プライベートなライフワークでもあった写真作品が注目を集め、2018年から写真家として本格的に始動。フィルム特有のパーソナルな雰囲気を持ち味にファッション写真やポートレートを撮る。

 

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