【私らしく生きるには?】第2話:好きなことを続けるためにも、変わって行く50代

ライター 長谷川未緒

50代を目前に、これから先どう生きていこうかな、とよく考えています。

考えるばかりでこれといった打開策があるわけでもない中、ふと思い浮かんだのが、50代からますます活躍の場を広げているニット作家のサイチカさんでした。

第1話では、アパレル会社で働いていた会社員時代を経て、自分の手を動かしてもの作りをしたいと踏み出したニット作家への道、そして子育てとの両立などについて伺いました。

続く第2話では、50歳になってオープンしたお店のことや家庭のこと、これからの夢について、お聞きします。

 

コロナ禍でできることを続けていたら……

東京・松陰神社前に開いたお店「糸と針」。当初は、自分の作った本から作品を編んでいる人に向けてのワークショップを中心に考えていましたが……。

サイさん:
「リビングのように大きなソファを置いて、おいしいお茶を出して、みんなでのんびり一緒に編めるスペースを作ろうと思っていたんですが、お店を借りてすぐにコロナが流行してしまったんです。

密になるからワークショップはできないけれど、家賃を払わなければならない。そこで、お店を続けるために自分の作品のパターンと毛糸をセットにした通販を始めました」

そうこうしているうちに、もともと毛糸という素材そのものが好きなサイさん。海外製の毛糸の輸入販売までするように。

サイさん:
「お店を始めたら楽しくなってしまって。

最初はここで仕事をしていましたけれど、店内は毛糸で埋め尽くされてしまい、今は家で仕事をしているので、ここはすっかり毛糸屋さんです」

サイさん:
「私の好きを集めた毛糸店なので、色や素材は偏っているかと思います。

安く買いたいと思えば、ほかにいくらでもお店がある中で、やっぱり私が選んだものということに良さを感じてくださる方がいることは、うれしいですね。

ワークショップもできるようになり、本の読者のみなさんとお会いできるのも楽しいんですよ」

アパレル会社にいた頃から、工場の職人さんと会って話を聞いたり、一緒に仕事をしたりすることが好きだったサイさん。ついに、工場にお願いしてアルパカとウールの混紡糸をオリジナルで作って販売するようにもなりました。

サイさん:
「実家が町工場を営んでいたので、子どもの頃から工場は遊び場でした。

父や職人さんたちが、型から道具からなんでも自分の手で作り出すのを見て、すごいなぁと思っていましたし、私はとにかく子どもの頃からもの作りが好きだったんですよね」

 

どんなに忙しくても、自分の時間を持ったほうがいい

30年以上、編み物に関わってきて、やめたいと思ったことはなかったのでしょうか?

サイさん:
「やめたら、何をしていたんでしょうね。やっぱり子どもの頃から、ものを作ることが好きでしたから。

仕事になっていなかったとしても、何かを作る暮らしは続けていたと思います。

それを奪われてしまうと、生きる楽しみの大部分を奪われてしまいますから」

サイさん:
「たとえ子育てで忙しかったとしても『母や妻として以外に、自分はこういう人間です』と言える何かは、常に持ち続けたほうが楽しい気がします。

娘は19歳になるのですが、お弁当作りがなくなったときに、ホッとした気持ちと寂しさがありました。やっぱり娘に生かされていた部分もあったんですよね。

それもあって、どんなに忙しくても自分の時間を持つ大切さが身に沁みたというか、健やかに生きられる気がしました。

私にとって、編み物はコミュニケーションツールでもあるんです。もしかして料理が得意だったら料理を、踊るのが得意だったら踊って、人とつながっていたかもしれません」

コミュニケーションツールという言葉通り、2024年は2度も韓国で編み物のワークショップをしたそう。

サイさん:
「韓国はコロナ禍を経て、手芸が大人気です。かわいいとか癒しとかいう感覚が日本人と似ているようにも感じています。

父のルーツが韓国なので望郷の念もありますし、言葉が通じなくても編み物の世界に国境はないから、海の向こうに私の作品をいいと思ってくれる人がいると思うと、うれしいですね」

 

あこがれはデンマークのニットブランドオーナーの暮らし

サイさんと海外とのご縁は、デンマークにも。「イサガー」という毛糸ブランドからの連絡がきっかけでした。

サイさん:
「私の本をとても気に入ってくださって、本と一緒に毛糸を販売してもいいですか、と。葉脈のセーターというパターンをデンマークの皆さんが編んでくださって、雪の結晶というハッシュタグをつけてSNSに投稿してくれています」

▲デンマークの人に人気だという葉脈のセーター

サイさん:
「2019年には、社長のマリアンネさんからご招待いただき、デンマークの北にあるトゥベステッドという街まで会いに行きました。

彼女は若いときに毛糸屋さんでアルバイトしていて、オーナーが亡くなる際、引き継いでほしいといわれて今の会社を引き継いだそうなんです。

それから経営者とデザイナーを両立されていて、お人柄も素敵で、彼女の生き方に敬意を覚えました」

▲マリアンネさんの著書。

サイさん:
「夏に行ったのですが、毎朝、マリアンネさんと社員さんたちは海に入るんです。朝風呂みたいに(笑)。

すごく冷たくて、私は5分も入っていられなかったけれど、バッと海からあがると自家製のリキュールみたいなのをショットグラスでくれて、冷えた体が一気に熱くなる。

自宅にもお邪魔させてもらったんですけれど、『きょうは運よく鶏が卵を産んだから、小さいけど目玉焼きにしたわ』と言って出してくれたりして、仕事と暮らしが分断されていないのを感じて、ものすごく憧れています」

サイさん:
「最近、羊やアルパカを飼うところから毛糸作りを始められるようになったと話していました。

廃校を買い取ってリノベーションし、アーティストのアトリエだったり、レストランやカフェも作って、一般の人が滞在しながら編めるゲストハウスも作られて。

そういう方向性もすごくいいなと思いましたし、自分たちがやりたかった環境を少しずつ整えて夢を実現されている姿に、とても刺激を受けました」

 

さまざまな出会いから刺激を受け、まだまだ変化する50代

▲仕事の息抜きによく行く「BLUEM COFFEE COUNTER」

ひとりでこもって作るより、いろいろなことに影響されながら、自分のフィルターを通してニット作品を作りたいというサイさん。

今年は、今まで苦手だったことにも挑戦してみたいそう。

サイさん:
「私は怖がりでひとり旅も得意ではなかったけれど、周りに旅名人な素敵なひとたちがいっぱいいて、みなさんの旅の話を聞く機会が増えたことで、挑戦してみたいと思うようになりました。

そうして出会いや経験が新しいセーターになって、ワクワクやドキドキを分かち合えたらいいな、と」

▲毎月訪れる松陰神社

子育てもひと段落して、今はなんでも自分でやりたい自立シーズンに突入したと笑うサイさん。

年齢を重ねてますます自由に行動的に、サービス精神旺盛に生きていく。

サイさんのお話から、人生の折り返し地点を過ぎたあとも好きなことを続けながら楽しく生きていくために大切なことを教わった気がしました。

 

【写真】メグミ

 

もくじ

 

サイチカ

ニットデザイナー。文化服装学院でニットデザインを学ぶ。子育てを機に、2010年から書籍や雑誌にデザイン提供を開始。東京・松陰神社前で営む「糸と針」では、ワークショップも。https://saichikaknit.stores.jp/

 


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