【はたらきかたシリーズ】デザイナーで2児の母・田中千絵さん 第4話:子どもが気づいてくれたら、とことん褒めます
編集スタッフ 長谷川
聞き手・文 スタッフ長谷川、写真 飯田えりか
お母さん・田中千絵さんのポリシー。
さまざまな方の「仕事」や「働きかた」をお聞きする連載「その『働きかた』が知りたい」。Vol.4は、デザイナー・田中千絵さんにお話を伺っています。
表現方法を問わず、精力的に活動される田中千絵さん。中学1年生と小学3年生の息子さんを育てるお母さんでもあります。
もくじ
連載第4回は、お母さんとしての顔にフォーカスして、田中千絵さん流の子育てのポリシーなどを教わりました。
「お母さんは万能じゃない」と教えることも大切。
長男のハーフ成人式を機に作った、兄弟のアルバム。単に写真をまとめるだけでなく、ちょっとだけコラージュやシールで遊びをつけると、なお楽しい雰囲気に。
「お母さんが編集長で、それを見るのが子どもは好きみたい」と田中千絵さん。兄弟はしばらく、ふたりで毎朝ずっとアルバムをめくっていて、その姿はたまらなくかわいかったそう。
スマートフォンでも写真は見られますが、「アルバムは、めくっていると『なにそれ!』って集まってしまう不思議な魅力がありますよね」。うーん、たしかに。
あたたかい一面を見せつつも、「お母さんは万能じゃない、と教えることも大切」と、ぴしゃりと言います。
田中千絵さん:
「私は、“お母さん”がしんどいときは、『疲れてとても無理なんだけれど、やってもらえる?』って言っちゃいます。
お母さんは万能なんじゃなくて、ただの人だから。風邪もひくし、疲れもするし、そういうときは持ちつ持たれつ。お母さんが万能だと思っていると、子どもは特に何もしなくなるかもしれない。
そうやって、家族のメンバーをお母さんだけじゃなくてみんなが見ていて、家族の情報共有ができれば、お母さんがいない時間も、『あの時にお父さんはこうしたな』って、何かヒントになったりするはずですよね」
怒るとき、一度目は理論的に、二度目は肝っ玉母さんで。
第3話で見たように、田中家の家事は分担制。お母さんは万能じゃないと教える上でも、子どもたちがお手伝いをサボってしまったりした際は、しっかり怒るのだとか。
田中千絵さん:
「一度目は、理論的に怒るかな。『ちょっとそこ、座って』からはじまって、『今日のお願い、一個も終わっていないのになんでテレビ見てたのかな?』って、まず理由を聞きます。
『テレビが見たくてつい…』なんて答えたら、『じゃあ、たとえばお母さんが帰ってきて、観たいテレビがあるからつい……って、ごはんも洗濯物も忘れちゃっても、いいってことだね?』って言うと、『それは……』みたいに子どもの反応が変わる。
そうしたら、『家のことで、メモに残すことは、君ができることしかお願いしていないのです。みんなで暮らしていて、みんなそれぞれのやることがある中で、学校の勉強も支度も宿題も、みんながやっていることは、やらないといけないことなんだよ』って、一個ずつ念を押すみたいな感じです。
ただし、同じことを同じシチュエーションでやっちゃったら、肝っ玉母さんモード。『なぁんでやってないんだー!』って(笑)」
子どもが気づいてくれたら、とことん褒めます。
今回、お話を伺っていて、「気づく」というフレーズが何度も出てきました。田中千絵さんは、暮らしでも、仕事でも、自分のアンテナでしっかり相手をキャッチするのを大切に考えています。
田中千絵さん:
「子どもが何かに気づいてくれたときは、蓄積したものの成果を得たような気がして私も嬉しいし、特に褒めるようにしています。男の子はぜったい褒めないとだめ。子どもだって、夫だって(笑)。
気づくのって、仕事でも大事じゃないですか。必要なものがそろっているかどうか、進めて大丈夫かどうか、相手がどう考えているかとか。味付けで塩が足りないって思うのと一緒で、自分の中で要素を整えられるから、気づける。気づくって、生きる上での全部なんですよね。
それに、子どもが大人に、お父さんになったら、『こういうときは……』って気づけて、仲間やお母さんに手をさしのべられるじゃないですか。そういう気づきのアイデアが、もともと脳みその引き出しにないと、発想がわいてきませんから。
お父さんからの『言ってくれたらやったのに!』って視点もわかるのだけれど、本当は、お母さんは仕事を頼む前にもういっぱいいっぱい。だから、自分で気づいてくれる方がいいですよね」
大人の万能感は、いったん忘れる。
自分も子どもの頃があったはず。それなのに、大人になると、なぜだかなんでもできるような気になってくる。「気づく」チカラを伸ばすには失敗の理由もしっかり教えることが効くようです。
田中千絵さん:
「大人って変な万能感が出ちゃうんですよね。自分はぜんぶできるし、きちんとできて当たり前。子どもはできなくて、足手まといだから手伝わないでテレビ見て待ってて……みたいになっちゃうから、子どもはできないまま。でも、本当はそれぞれができることをシェアしていくような関係の方がいいと思うんです。
たとえば、子どもが目玉焼きをつくるとします。出来上がったら『よかったね!』ってまずは褒める。仕上がりが微妙で失敗しても、『焦がしちゃって、もう!』なんて言わないで、『火をもうちょっと弱くしたら焦げなかったのかな』とか、なぜ焦げたのかを一緒に考えます。
失敗したことの理由を知っておいた方がいいですよね。ただ焦がしちゃって『あーあ、もったいない』で捨てちゃったら、意味はなくて。焦げる、というのは、大人は誰しもBBQなのか、焼き肉なのか、黒焦げにした体験があってわかっていることですから」
子どもの「やりたい!」がふくらむ、シンプルな工夫
次男のがんちゃんとは「家庭内郵便」でお手紙のやりとりすることも。
元気がなさそうに見えたのか、がんちゃんからの手紙に「お母さんのいやだったきもちはわかります」と書かれてあったときは思わず笑ってしまったそう。
田中千絵さんが80円切手を使い切るために2円切手を持っていることを見てか、がんちゃんが手作りしたのにも2円切手がいっぱい。よくお母さんを観察して、気づいているからこそに思えます。
▲がんちゃんが消しゴムハンコでつくったオリジナルTシャツと、刺繍をしたハンカチ
田中千絵さん:
「私が縫いものをしていると、自分もやりたいって言ってきたんです。それで、ガイドラインがついている布があって、まずはそれからスタート。やり方がわかるようになれば、できることが増えていきますよね。
それに、作ったり縫ったりすると愛着がわくから、自分で大事に使ったりもするんですよね。料理もそう。自分でつくると『おいしい?おいしい?』って聞くし、自分でもおいしいなって思って食べるみたい」
Instagramと子育ての「おいしい関係」
▲( https://instagram.com/chietanaka/ より)
田中千絵さんがInstagram(※写真投稿・共有サービス)に投稿する写真の中でも、ハッシュタグ「#がんちゃんごはん」にまとめられたものはファンが多いのです(僕も大ファンのひとり)。
「#がんちゃんごはん」は、田中家の次男・がんちゃんが手作りした料理の写真たち。
もともとはがんちゃん4歳くらいのとき、食欲を失っているのを見て、田中千絵さんが作ってみるように薦めたのがきっかけだとか。
こちらも手芸品などと同じく、トマトを切る、パンに目玉焼きを乗せる、といった簡単なものからスタート。4歳から料理をはじめ、いまや小学3年生とは思えないできばえ。
田中千絵さん:
「ハッシュタグの『#がんちゃんごはん』は本人へのアルバムでもあるんです。ここを見れば自分が作ってきたご飯がわかるように。まとめて見られることで、がんちゃんの意識も高まります。
いいね!をもらえたら、たとえば『お花が一緒に写っているものなら、多く見えるからよかったのかな?』みたいにがんちゃんが気づけたりもする。その気づきを言った瞬間には『そこよー!』ってたくさん褒めます(笑)。
写真にすることで、自分が作ったものを『事象』として、もう一回スマートフォンで見られる感じも良いみたい。ひとつのこと、目の前に起きている物事に、ちゃんと自分のアンテナを向けて気づくためのトレーニングになるのかなって。
Instagramはいいよね。他のサービスに比べて、気軽さとポジティブな空気があるから」
▲( https://instagram.com/chietanaka/ より)
田中千絵さん:
「Instagramは、『自分の家族以外に褒めてもらう』ことの一環なんですよ。
うちでは絵画コンクールなんかにもよく参加しています。絵は出品すると参加賞みたいなのもあって、だいたい表彰してもらえるんですよね。朝礼台で校長先生から表彰状を手渡されると、『褒められた!』って特別感があって、がんちゃんも自分の良いところを伸ばしている感覚になる。やる気につながりますよね。
朝ごはんを記録して写真に撮って、いいね!がつくと、それでもう表彰状になる。ひとつでも、どこかの誰かがいいね!をつけてくれたら。
盛り付けにしても、『こんなのあるの、いいねぇ』って、親子の関係性を取っ払って、その表現を私が学ぶこともある。『こういう風に私も盛りつけていこうかな』と言うと、子どもも何か自分がひとつ貢献した気持ちになれる。
これって仕事でも、家族でも同じなんですよね。お母さんもそうやって発見する姿勢をあえて子どもに見せることで、信頼関係が生まれてくると思うんです」
子育てというプロジェクトには、無限の可能性がある。
田中千絵さん:
「働きかたにもいろんなスタイルがあるし、今はそんなに縛られる時代でもありません。自分の発想を試してみながら、いろいろやってみるといいと思うんです。家庭内でバランスがとれていればOKなんですから。
お母さんだからこそ楽しめるものを、ポジティブに見つけていけたらいいですよね。一目惚れで買ったお皿から、何かはじまるかもしれない。『こんなお皿どう?』なんて、コミュニケーションがきっかけになるかもしれない。
それに仕事の中ではあまり、長いスパンでやることが少ないじゃないですか。子育てみたいにたっぷり20年かけられるプロジェクトなんてないでしょう。
子育てというプロジェクトは、時間だけでなく、モノでなくて人間というところで、そこからは無限の可能性が出てきます。
あぁ、大きなプロジェクトをやったなぁって、子育てを10年してやっと思えるみたいな部分もあります。そもそも、あの夜泣きだってプロローグみたいなものだ、1〜2年で成果がわかるものじゃなかったんだって(笑)。
子どもと一緒に10年、20年をかけて一緒に成長していけるのだとしたら、嬉しいことが多い方が、嬉しいですよね。ツラいこともたくさんあるかもしれないけど、アイデアで乗りきりましょう!」
僕は、やっぱり田中家の子どもになりたいと思った。
取材をする前、僕の心には「いろいろできるのは、田中家のお子さんに才能があるから……」と、思っていなかったと言えばウソになります。
もちろん、それもあるでしょう。でも、お話を聞いて思ったのは、その才能をどうやって伸ばしてあげるかは、声のかけ方であったり、サポートの仕方であったりで変わってくる。親である自分のアイデア次第なんだなとあらためて感じます。
そして、一見しただけでは仕事も子育てもフリースタイルで楽しんでいるように思える裏側では、その自由さを得るために、田中千絵さんならではの工夫を苦労しながらひとつずつ積み上げている。
「このようにすべき」という枠組みから少し離れて、自分のモノサシでひとつずつ計って、仕事や子どもたちと向き合っていく。その姿にこそ、田中千絵さんに感じた「自由闊達」の根っこがあるのかもしれないな、と思いました。
あぁ、僕は、やっぱり田中家の子どもになりたい。そうして育って自分を見てみたい。
でも、僕はもう大人なのです。田中千絵さんのアイデアを参考にしながら、この気持ちを手渡す側。いつか来るかもしれないその時には、夜泣きも乗り越えていこう。
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