【編集者のおへそ】後編:自分に「ちくっと刺さること」を見つける…一田憲子さんの文章×インタビュー術
編集スタッフ 長谷川
文 スタッフ長谷川、写真 クラシコム
企画・編集までを手がける情報誌『暮らしのおへそ』をはじめ、数々の女性誌を中心に活躍される編集者・ライターの一田憲子さんにお願いして、私たちのために「勉強会」を開いていただきました。
昨日公開の前編に続き、当日の様子をまとめていきます。
後編は、一田さんがインタビューで大切にしていること、そしてより良い文章の書き方まで。悩みを相談したスタッフが真剣に聞き入ったり、励まされて思わず涙ぐんだり……そんなシーンも、ありました。
より良い文章は、感動の化学反応で生まれる。
取材をするスタッフは、2つの「伝え方」に悩むことがあります。「インタビューする方に、自分の聞きたいことをどう伝えるか」。そして「お客様に、聞いてきたことをどう伝えるか」。
スタッフ田中は「テーマが自分と共通項の少ない環境や暮らし方」だと悩んでしまうようです。
一田憲子さん:
「わかるわかる。たとえば、私も子どもがいないから、『子育ての悩み』は共感が難しいことがあります。そこは私も書き切れていないジャンルかもしれない。でも、どうあがいたって、書くときは自分のわかっている範囲のことしか書けません。
わからないときは『わからない』と言って、しったかぶりをしたり、若さを隠して背伸びしたりする必要はないんです。
恥をかいてもいいから、何かしら自分に“ちくっと刺さること”を見つければ、持っている経験との化学反応が起きて良い文章が生まれると思うんですよ」
共通項が少ない、得意なジャンルと違うからこそ、予定調和にならない面白いものができることもあるのだとか。
一田憲子さん:
「私はフリーだから、『暮らしのおへそ』ではない雑誌の、自分とまったくちがうジャンルの仕事を受けることもあります。でもね、ちがうジャンルだと、知らないだけに取材した時の“発見度の値”が大きいんです」
たとえば、ハウジングメーカーの仕事で「木の良さ」について取材した時のこと。建築学者は「人類が類人猿の頃に住んでいたのは木の上で、その懐かしさがDNAに残っているから心地よく感じる」と語り、林業者は「法隆寺が1600年近く建っているように、木は風雨で朽ち果てない構造だから、建材に使うとずっと住める」と話したそう。いずれも、一田さんには驚きの答えだったといいます。
一田憲子さん:
「すると、その人の話と、自分の暮らしのことと、建築学が頭の中でつながっていくわけです。それが面白いんですよ。
全然ちがうジャンルの話なのに、私のジャンルと同じ真実がそこにある。実は、数学者でも、国文学者でも、経済学者でも、突き詰めて言っている、求めていることには何かしら共通項があったりするんですね。
それが見つかった時に、ジャンルが違えば違うほど、ものすごい感動があります」
「質問する」よりも「聞くこと」が大切。
『暮らしのおへそ』では芸能人から主婦まで、さまざまな人にインタビューをする一田さんは、どうやってその共通項を引き出しているのでしょうか。ヒントは、スタッフ桑原からの「取材に行くと緊張してしまいます。相手から答えを聞き出せないときは、どう対応すればいいですか?」への回答にありました。
一田憲子さん:
「インタビューをする時に『10パターンの質問をして』と言われたら難しいですよね。でも『2つの質問で、その答えの中から質問を探す』と、どんどん聞けます。駆け出しの方は『質問を5個持って、1個聞いたら次』っていう質問の仕方に陥りがちなんですよ。
大事なのは、質問を網羅することじゃなくて、質問に対する答えを聞くこと。
答えがたとえ“単語ひとつ”でも、裏にはその人の生活や暮らしがつながっているわけです。その人がどういうつもりでその答えを言っているのか、どんなバッググラウンドから引き出しているかを、逃さずに聞けるようになるかだと思うんです。
私も徐々にできるようになったし、今でも全然聞き逃しちゃうくらい難しいことですけどね」
自分でもわかっていないことを引き出す「雑談のチカラ」
たとえば、「生活の習慣は何ですか」と聞かれたら、とっさに答えられないかもしれません。
一田さんは「自分の習慣をセオリーとして自覚している人、言葉で説明できる人は少ないんですね。そこを編集者の眼で見て、雑談から引きずり出してくるんです」と言います。
一田憲子さん:
「いい言葉で語るのはどこか偉そうになるから、みんな言いたがりません。でも、雑談として、“日々していること”だと、みんな話しやすいんですよね。取材か雑談かもわからないレベルで話をしていると、会話の厚みが増してきて、そこから書ける。出来上がった原稿を見て、取材相手から『ここを拾いますか』と言われることもあって(笑)。
どれほど結論を言って欲しいという気持ちがあっても、まずはその人が毎日やっていることから聞けばいいんですよね。自覚していないことを取材で話しているうちに『そういえば』って気づく方も多いですよ」
誰にでもわかるように話す、ちょっと堅苦しくいえば「概念」を話すのは難しいもの。けれど、いつもしている「事実」であれば伝えやすくなります。一田さんの取材術って、実は上司と部下の間柄だったり、家族の会話だったり、さまざまなところで応用できそうです。
一田さんがライターや編集者として生きる舵を切ってから、悩んで、考えて、積み上げたものたち。貴重な『編集者のおへそ』とも呼べるものを、一田さんは惜しげもなく、飾るでもなく、笑いを混ぜながら伝えてくれた2時間でした。
勉強会の空気や熱気を思い出せるように……と、当日のダイジェスト動画もつくってみました。スタッフに見せてみると「いい雰囲気だったなぁ」「思ったよりイベントっぽいね」と楽しんでくれたようです。
文章がうまくなりたいと悩む僕は、「良い体験や経験こそが、文章を磨いてくれる」と一田さんから聞いた時、その言葉につよい説得力を感じて、メモをとる指先に力がこもりました。そして、自分の文章が、少し頼りなげにも見えました。
いやいや、一田さんも無我夢中だったんだ。心に感動を得て、良い経験をするという上達の道を、僕も歩んでいこう。目に触れるところをいじるよりも、きれいに取り繕うよりも、ずっと素晴らしい。何より人生が楽しくなりそうですよね。
周りを見てみると、スタッフたちの顔も晴ればれとしています。「毎日読んでもらえるように、もっと良いものをつくるにはどうしたらいいんだろう」という悩みは、どうやら、ずいぶん軽くなったようでした。
一田憲子さん、あらためて、ありがとうございました。
「私らしく」働くこと~自分らしく生きる「仕事のカタチ」のつくり方~,一田憲子,マイナビ,2015-07-16 |
暮らしのおへそ vol.20 (私のカントリー別冊) ,主婦と生活社,2015-08-29 |
一田憲子さんに、ご登場いただいた特集
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