【はたらきかたシリーズ】坂ノ途中 小野邦彦さん編 第1話:転職を考えた会社を取材できる日が来ました。
編集スタッフ 津田
「転職」を考えたことのある会社を、取材する日が来るなんて。
働くことは、人生で大きな時間を占めるだけでなく、暮らしのかたちを決めるもの。自分が望むあり方を見つめるために、特集シリーズ「その『働きかた』が知りたい」では、さまざまな方の仕事や働きかたをお聞きして、ヒントをもらってきました。
今回ご登場いただくのは、株式会社坂ノ途中の代表取締役を務める小野邦彦(おのくにひこ)さん。
「坂ノ途中」は京都に本社をおき、おもに関西圏の農家さんから仕入れた野菜を、飲食店や八百屋に卸したり、家庭向けに宅配で届けたりしている会社です。
↑京都市内の実店舗「坂ノ途中soil」
実は私、クラシコムに入る前の転職活動中に、坂ノ途中に応募しようかと考えたことがありました。
食べることが大好きだから「食」や「暮らし」にまつわる仕事がしたい。自分が本心から良いと思えるモノやコトを扱いたい。あとは将来的には新しいことにも挑戦できそうな会社だったらいいな-。そんな理想の働き方を探すなかで出会った会社だったんです。
坂ノ途中に魅力を感じたきっかけは、販売する野菜の一部を「まかない」としてお昼ごはんにスタッフで食べていたこと。きっとみんな、自分たちの野菜のことを愛してやまないんだろうなと思い、ぐっと興味を持ちました。
その後、いろいろな巡り合わせで、私はクラシコムで働くことになるのですが、当社代表の青木が小野さんと知り合いだったことや、当店のジャムの材料を坂ノ途中から仕入れていた繋がりがあり、小野さんに本特集にご登場いただけることに。願ってもない機会に「ぜひお話を伺いたい!」と手を挙げたのです。
全3話で、私が坂ノ途中に感じた魅力を、小野さんの働き方から紐解いてみようと思います。
坂ノ途中の個性的なビジネスのあり方に興味を持っていた代表・青木と店長・佐藤も同行して、本社や畑を見学してきた京都出張の様子も盛り込んでお届けします。
農業に行き着く道のりにも個性がある小野さん、現在32歳。
小野さんは1983年(32歳)、奈良県生まれ。両親が家庭菜園をしており、中高生のころは「もっと肉も食べたいなぁ」と思いつつ野菜ばかり食べて育ったといいます。
また、小説『深夜特急』や『アルケミスト』、バラエティ番組『進め!電波少年』に影響を受けて、学生時代は半年間休学してバックパッカーでアジアを旅して過ごしたそう。
旅先のチベットで見た暮らしに影響を受け、外資系金融機関に約2年間勤めた後、2009年夏に坂ノ途中を設立しました。
持続可能な農業を広めるために、提携している約70軒の農家さん(2016年1月現在)の野菜や果物を販売しています。
小野さんの学生時代の経験や起業のいきさつなど、詳しいお話は第2話で掘り下げていきます。本日の第1話では小野さんのお話でとくに印象的だった2つのエピソードをご紹介します。
私はこの会社の何に惹かれたんだろう
↑左:スタッフ津田、右:坂ノ途中 代表・小野さん
どうして私はこの会社に惹かれたのだろう…。小野さんのお話を伺いながら、そう思い返していたときに、あらためて合点のいく2つのエピソードがありました。
2つに共通しているのは、「普通ならきっとこうなるだろう」という私の予想とすこし違う展開があったこと。
そうだ、そうだ。私が坂ノ途中に興味を持ったのは、そこがユニークだと思ったからだった。膝を打つ思いで、思わず聞き入ってしまったお話です。
Episode1.「上手くいかないこと」が、魅力になることもある。
小野さんは、環境に負荷をかけない農業を広めるために、坂ノ途中を設立しました。
現状ではそういう農業だと、なかなか買い手がつかないと一般的には言われています。それは、収穫できる作物の量が不安定で継続した取引が難しいから。
でも小野さんは、この売れない理由こそが、その野菜がもつ魅力だと考えたのだそう。
小野さん:
「アパレルや雑貨では作家さんが手仕事でつくるアイテムって、生産できる量が少ないし不安定だけど、その丁寧なものづくりがいいと好んで選ぶ人が一定数います。
だから少量不安定だけど美味しい野菜も、同じように支持してくれる人や選んでくれる人がいるはずだと思いました。
正直にいうと、野菜を売るというビジネスは、ずっと昔からありますし、最初のうちは『今さら僕たちが始めてもユニークさはないだろう』と感じていた部分もありました。
でも農家さんに話を聞いてみると『売ってくれる人が必要だ』と口を揃えていて、話を聞けば聞くほど”売れる仕組みづくり”の重要性を痛感したんです。
作った野菜がきちんと売れなければ、いくらキレイごとを並べても、環境負荷の低い農業の担い手は増えないだろうなと」
経験や知識を重ねていくほどに、物事をフラットに判断することが難しくなることってありそうです。
多くの人がネックだと思う部分でも、それこそが「らしさ」を形づくるものである、という小野さんのやわらかな発想に、私は深く共感しました。
Episode2.「キャベツに青虫が…」お客様からの声で気づくこと。
坂ノ途中は2010年秋に、ひとつの転機を迎えます。飲食店向けの卸販売だけでなく、一般の消費者向けにインターネット通販を始めたときでした。
インターネット通販のメインは定期宅配便。単品だけでなく定期宅配に力を入れているのは、小野さんたちなりの考えがあります。
小野さん:
「うちの野菜を1回食べて『あぁ美味しかった』と思ってもらうだけでなく、日々の暮らしに継続して取りいれてもらうことがとても大切だと考えています。
何度もリピートして坂ノ途中の野菜を食べてもらうことで、季節の移り変わりや旬を体感してもらえたらと思っています」
↑坂ノ途中の自社農場「やまのあいだファーム」
実際に購入した方々からも定期宅配で継続的に野菜を食べているからこその嬉しいお便りも寄せられているそうです。
小野さん:
「あるとき検品が行き届かずに、青虫がついたキャベツをお届けしてしまったことがあったんです。
それを受け取ったお客様から『珍しかったので、子どもと一緒に虫かごで育ててみたら蝶々になりました』と写真付きでメールをいただきました。
お叱りを受けても仕方がないと反省する一方、僕らが届ける野菜をこういう形で受け入れてくださる方々がいるんだな、と気づく印象的な出来事でもありました」
そのほかにも「夏の野菜が届いたときに、都会育ちの娘が”今年もこの季節が来たね”と言ってくれるようになりました」「解約したら子どもが野菜を全く食べなくなってしまったので、やっぱり再開したいと思います」といったお客様の声が届くそうです。
こうしたお声のひとつひとつに、自分たちが届ける野菜とお客様の暮らしのつながりを感じ、日々の励みにしていると小野さんは言います。
北欧、暮らしの道具店で働く私たちも、商品や特集についての反響をお客様からいただくと、本当にとても嬉しいものです。
ご感想メールや、インスタグラムで当店のハッシュタグ(#北欧暮らしの道具店)を付けて投稿してくださった写真たちが、日々の業務の励みになっています。
小野さんとの共通点を発見したような気持ちで、「やっぱり、お客様の声って嬉しいですよね!」と、やや前のめりになりながら、その後もぐっとお話に聞き入ってしまいました。
畑に立って、野菜を味わって、身体で味覚でたしかめたい。
↑自社農場を見学中のスタッフ津田(左)、店長佐藤(中)、代表青木(右)。にんじんも大根も葉っぱの先まで野菜の味が濃くて、3人とも「こんなに美味しいなんて」と驚くばかり。
すっかり小野さんのお話に共感してしまった私は、もっと坂ノ途中のことを知るべく本社オフィスのある京都へ行くことに!
冒頭でもお伝えしたとおり、坂ノ途中の個性的なビジネスのあり方に興味を持っていたという、代表・青木と店長・佐藤も同行して3人連れ立っての出張となりました。
見学させていただいたのは、京都市内で運営する八百屋「坂ノ途中soil」や、京都市内から車で1時間ほどの自社農場「やまのあいだファーム」や提携農家さんなど。
自社農場では農場スタッフさんの案内のもと、大根や人参の収穫体験をさせてもらったり、収穫したばかりの野菜を試食させてもらいました。
↑自社農場で大根の収穫体験をする店長佐藤
↑採れましたー!満面の笑顔で「アドレナリンが出た!」と嬉しそう
いま畑から採ったばかりの大根は、パリっとした歯ごたえで、みずみずしさとほんのりとした辛味がありました。苦味やエグミのないさわやかな後味で、思わずもう一口食べたくなるほどの美味しさです。葉っぱの先まで大根そのものの味がしていたことにも、とても驚きました。
畑を歩くのも、本当に気持ちがよかったです。足裏に感じるふわふわ柔らかな土の感触が心地よく、呼吸するほどに身体全体が元気になるような不思議な感覚でした。
小野さんが「うちの畑に立つと身体の調子がよくなる、と言ってくれる人が多いんです」とおっしゃっていたのも頷けます。
↑代表青木(左)も小野さん(右)の説明をうなずきながら聞いていました。
野菜を通して、ひとつの価値観を共有するのって面白い!
↑私もにんじんの収穫を体験!土から抜く感触がやみつきになりそうでした。
少量不安定な野菜だからこそ、支持してくれる人がいるはずとビジネスを始めた小野さん。クレームとなりそうな出来事でも、逆にお客様から心温まるお便りを寄せられる坂ノ途中。気がつくと、その2つのエピソードに、熱心に耳を傾けている私がいました。
しかも、そのどちらも奇をてらうわけではなく、ごく自然な流れで起こっていることが分かりました。
小野さんならではの物事をありのままに見つめて素直に考える姿勢が、その畑で育つ野菜を通して私にも伝わってきたように思います。
転職を考えていたときは「なんかイイな」というぼんやりとした思いでしたが、実際にお会いしたことで魅力がクリアになったようでした。
明日の第2話では、そんな会社を作ってきた小野さんのルーツを探ります。坂ノ途中に繋がるターニングポイントは、小野さんの中高生時代の「ある本」との出会いからはじまります。
(つづく)
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