【はたらきかたシリーズ】坂ノ途中 小野邦彦さん編 第3話:毎日食べる野菜こそ「ここで買おう」と思いたい。
編集スタッフ 津田
株式会社坂ノ途中の代表取締役を務める小野邦彦(おのくにひこ)さんの働きかたについて、全3話でお話を伺っています。
小野さんが2009年に創業した「坂ノ途中」。持続可能な農業を広めるため、農薬や化学肥料に頼らない農業の担い手のパートナーとして、彼らがつくる美味しい野菜を販売している会社です。
もともと代表青木が知り合いで、当店のジャムの材料を坂ノ途中から仕入れていることもあり、本特集にご登場いただきました。
本日の第3話では、坂ノ途中の創業の頃のエピソードや自社で農場を運営する狙いなどから、小野さんが働くうえで大切にしている考え方を掘り下げてみたいと思います。
もくじ
私がここの野菜を買いたいと思ったわけ
小野さんへ取材をしていくうちに、ふと気がつくと「坂ノ途中の野菜を買いたいな」と思うようになっていました。
その理由は、私がもともと坂ノ途中に転職を考えていたから、というよりも、小野さんの仕事との向き合い方に触れたからだと思います。
どこかに偏ることなく、いつもフラットな目線で物事を見つめ、自分の五感でたしかめる。小野さんのそんな働き方を形づくる3つの気付きをご紹介します。
Episode1. 現場の話を聞いて、自分の耳でたしかめる。
↑坂ノ途中と柴田ファームの付き合いは2年ほど。柴田さん(左)がテレビのローカル番組で坂ノ途中を知り「自分の野菜も買ってほしい」と実店舗に行って、小野さん(右)に売り込んだのがはじまり。
小野さんは坂ノ途中を立ち上げたとき、様々な農家さんへ足を運んで話を聞いたそう。大学で学んだ文化人類学の影響で「現地におもむき現地の人たちと世界観を共有することの大切さを感じていたから」だと言います。
自分たちがいいなと思う農家さんを何軒もまわって話を聞くと、持続可能な農業を取り巻くシビアな現実が見えてきました。
小野さん:
「農薬などに頼らず美味しい野菜や果物を作りたいという気概をもつ人は、新しく農業を始めた人にとても多い。でも彼らが借りられる空き農地は、獣害や水はけが悪いなどの理由で、収穫できる量が少量で不安定になりがちです。
そういう野菜は安定した取引ができないので、せっかく美味しいものを作っても買い手がつきにくい。結果的に農業では生計が立たないという話をたくさん聞きました」
自分の足でたしかめた厳しい現実を前にして、坂ノ途中がやるべきことは、彼らの作る野菜がちゃんと売れる仕組みづくりだと、小野さんは思い至りました。
小野さん:
「新たに環境負荷の低い農業を始める人たちを支えたい。まだまだ成長途中の農家さんにとって、僕らはパートナーでありたい。その思いを込めて社名は『坂ノ途中』としました」
Episode2. 正直だから、共感が生まれる。
創業期の印象的なエピソードを伺うと「最初の半年くらいは全然売れなかった」と小野さん。
小野さんを含めて3人のメンバーがいましたが、当時は月商20万円たらず。「ガソリン代と家賃を払うのがやっとで、農家さんにもらった野菜ばかり食べていた」のだとか。
大きな転換点となったのは、小野さんたちが野菜を売るときのメッセージを変えたことでした。
小野さん:
「もともとは野菜を買ってくれそうな飲食店を回って、僕らの野菜を買うメリットを営業していました。
でも、だんだん何か違うと思い始めて。僕らは生産者さんたちがどれだけの覚悟をもって環境負荷の低い農業に取り組んでいるかを知っていたはずなのに、それを一言も伝えないのっておかしいだろうと。
どうせ全然売れていないんだから、せめて伝えたいことだけでもきちんと声に出そうと腹をくくりました」
↑自社農場で収穫したにんじん。エグミも苦味もなく、味が濃かったです!
その時から『未来からの前借り、やめましょう。』というメッセージを打ち出して、会社のホームページも大きく作り変えたそう。
すると思いもよらないことに、坂ノ途中の野菜を買ってくれるお客さんが「ガラっと変わった」といいます。
小野さん:
「にんじん数本だけというような、配達する軽トラのガソリン代の方が高くなってしまいそうな注文は本当に激減しました。
反対に、お店で使う野菜をすべて坂ノ途中で注文してくれる人や、働いていた料理人が独立するときに坂ノ途中を勧めてくれる人が、少しずつ増えていったんです。
僕らの考えていることを理解して応援してくれる人たちの輪がじわじわと広がり始め、結果的に売上が伸びて、会社の成長にもつながりました」
小野さんのお話から「本当を言葉にすることの大切さ」に改めて気付かされました。
作りものの営業トークではない、小野さんの本心から出た言葉にふれて、坂ノ途中の周りにハッとした人もいたのかもしれません。
その気づきが小野さんへの共感となり、共感した人たちが行動を起こすという循環が生まれ、結果として坂ノ途中の大きなターニングポイントになったのだろうと思いました。
Episode3. 目指すことを、まずは経験してみる。
↑店長佐藤(左)が熱心に農場スタッフさん(右)へ野菜について質問中。
坂ノ途中では2013年秋より、自社農場「やまのあいだファーム」の運営もはじめました。農薬などを使わず、耕すこともしないという、とても自然に近いスタイルの農場です。
農場をはじめた理由を尋ねると、そのきっかけは小野さんが出会った「農業に挫折して辞めてしまった人たち」の話にあったといいます。
小野さん:
「仕事柄、農家を目指す人たちにあちこちで出会うのですが、彼らのなかには、自分の好きな農業のスタイルとはちがう農業生産法人に研修生として飛び込み、やがて違和感を感じて辞めてしまう人も多くいました。
農業ってとても多様なんだけど、始めるまでそれを理解する機会もないし、自分のやり方にフィットした研修先の情報も手に入りづらいんです。
目指す農業を体験できる。そんな場所があってもいいんじゃないかと思い、『やまのあいだファーム』を始めました。
やまのあいだファームでは、ガソリンで動くものは軽トラと草刈機のみで、人の手で何かを加えることがほとんどありません。(※油カスと米ぬかを少量用います)
作物の良し悪しは、畑の生態系に頼るしかない。目の前にあるものだけでやりくりをしてみる。農業に飛び込む第一歩は、そんな経験がいいんじゃないかと思っています。
最近では、うちの農場に来ていた人が近所で畑を借りて就農する例もでていて、環境への負担の小さい農家を増やすという、やりたいことが少しずつ実現しています」
↑やまのあいだファーム。空気がとてもおいしかったです。
実際に多くの農家さんに足を運んで話を聞いたり、自分の本心をごまかさずに伝えたり、農場が必要だと思えば自分たちで作ったり。
3つのお話を通して、机の上で思い悩むのではなく「行動」することで何かをつかんできた、小野さんの働き方が見えてきました。
小野さんの考えのひとつひとつが、行動に裏付けされていたことを知るにつれて「坂ノ途中の野菜を買いたいな」という信頼感に繋がったように思います。
毎日食べる野菜こそ「ここで買おう」と思いたい。
毎日食べる野菜だからこそ「あぁ、この人たちがいるから買いたいな」と思えることの安心感や嬉しさって、きっとあると思います。
坂ノ途中の野菜”だから”買いたい。小野さんの思いや働きかたを伺うなかで、自然とそう感じるようになっている自分に気が付きました。
その感情を紐解いてみると、坂ノ途中が面白いビジネスをしているというだけでなく、代表の小野さんに共感したポイントがあったからだと思います。
自分が五感でたしかめたことから、目を逸らさない。小野さんの働く姿勢に貫かれていた「率直なものの見方」と「フラットな考え方」がシンプルにいいなと感じました。
その働き方は、北欧、暮らしの道具店で働くひとりのスタッフとして、お店づくりで心がけていることにもどこか通じるように思います。
自分の行動の裏側にある「本当の思い」を大切にしよう。小野さんと別れて京都から東京へ向かう新幹線のなかで、ぼんやり車窓を眺めながら、そう自分の胸に誓いました。
(おわり)
もくじ
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