【わたしの転機】後編:ブランディングディレクター・福田春美さん「いい仕事は孤独と友達になることから。40代でわかった“向き合うこと”の確かさ」

年齢と共に女性の生き方・仕事・働き方の転機がきます。20代で「価値観を手放す」、30代で「壁と向き合う」、40代で「(独身の意味でなく)孤独と友達に」…アパレルを始めコルテラルゴなどを手掛けるブランディングディレクター・福田春美さんのお話から女性の生き方・仕事のヒントを探ります。

編集スタッフ 長谷川

160210turning_hf_16写真 飯田えりか

転機をテーマにお話を伺う連載シリーズ「わたしのターニングポイント」vol.4、ブランディングディレクターの福田春美さん編をお届けしています。

現在47歳。札幌から上京し、アートやグラフィックの学校を卒業後、アパレルの道へ。

複数のアパレルブランドの立ち上げやリニューアルを行い、現在はディレクターとして2014年にオープンしたギャラリー・ショップ「EDIT LIFE」、ホームケアとフレグランスのブランド「a day」、ライフスタイル・ストア「コルテラルゴ」も手がけます。

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この記事では福田春美さんの歩みを伺いながら、転機にあたって見えてきた2つのキーワードである「価値観を手放す」「心のざわつきを見つける」にフォーカスを当てています。

20代でとがっていた自分の価値観を手放した体験や、30代で感じた初めての壁などは前編にて。後編は3年半のパリ暮らしを終え、福田春美さんが帰国するところから始まります。

 

孤独と友達になることで、いい仕事ができる。

 

福田春美さん:
「東京とパリを行き来する生活が始まりました。パリではマレという街に住んでいたのですが、アロマ屋さんの前を通り過ぎたときにいい香りがしたんです。そのアロマオイルを買って家でもつけだしてから、香りが楽しくなって。欲しい香りがなければ自分でオイルをブレンドしたり、家に虫が入ってこないオイルを調べて作ったり。

東京でも、パリでも、いい仕事をしているクリエイターの人たちは、いつも孤独と向き合いながら制作を続けています。私は彼らがどうしても気分が上がらないときのために、気が楽になる香りのオイルを渡していました。

でも、そうやって孤独とちゃんと共存して、胸のざわつきと向き合う時間が大切なんですよね。私はいい作品づくりや、いい仕事をするためには、ひとりになることを怖がらずに、ちゃんと孤独と友達になったほうがいいと思っているんです。

私自身もこの時期は自分とすごい向き合ったと思うし、それが次の自分をつくってくれました」

 

40歳を過ぎて「無理するべき時代」が終わった。

 

福田春美さん:
「だいたい気持ちも落ち着いたところで、2010年末にパリの家を引き払って帰国しました。その後、2011年に震災があって、ファッションの仕事は一斉に撮影業務が止まってしまったんですね。

自分でも何ができるかを考え、知り合いと協力して、毎週末ごとに岩手県などの海沿いの町へ炊き出しに行っていました。友人たちから支援金を託されたり、メーカーさんに卸値で食材を買わせてもらえるように交渉したりもして。

現地の様子を見るたびに、私もファッションはしばらく興味が持てないし、経営者として見てもまず売れないから、ビジネスとしては難しいだろうなと思いました。

そんなときに、もともと器も好きで料理はよくつくっていたし、調合して香りを作ったりする中で、もっと生活すべてにかかわる仕事のほうが今の自分を発揮できるかもしれないと感じたんです」

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福田春美さん:
「仕事への変化を感じたのと近しい頃に、父の余命が長くないことがわかりました。『家で死にたい』という父の気持ちを受け入れて、その気持ちを汲んでくれる治療院の先生たちに診てもらいながら、最期は自然な形で看取れたんです。やりきった感があって、すごい幸せな空気が流れて、悲しいけれどやって良かったですね。

それで自分も40歳を過ぎてきて、ここからどう生きるかをあらためて考えてみたら、『無理するべき時代が終わったのかな』と思って。

30代って結構、『来る仕事は苦手なことでも全部やろう』みたいな気持ちもあったけれど、必要でない無理や、もう卒業した無理を引きずることはないのかなと。だから、ファッションだけをディレクションする仕事を一度手放そうと決めたんです」

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福田春美さん:
「収入が大きく減るのはわかっていたけれど、『このまま進んだら自分が違ってくる』と感じました。私は数字を細かく分析するタイプのディレクターだから、ちゃんとクライアントに対して結果を渡したいという気持ちが強いんです。自分なりの誠実な仕事の答えを出したかった。

ファッションだけの仕事を手放してみたら、気持ちが楽になって、次に自分が何をやるべきか、自分が出すものに関して何を欲してもらえているのかがクリアに見えてきました。手放すって、素晴らしいことなんだなって思いましたね」

 

胸のざわつきを大切に。そこが始まりだから。

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福田春美さん:
「そんな時に、コルテラルゴで『香りのある商品が売れるので、イメージに合うブランドを入れたい』と話があがったけれど、買い付けたいものがなかったんです。調べていく中で、香りの会社と組んでパッケージなどから作れる、 “別注” という形が取れそうなことがわかりました。

別注できるなら……と『こんなブランドが欲しいな』って思いを一気に描いたら、2時間くらいでイメージやコンセプトがまとまったんです。別注どころか、もうひとつブランドができてしまった。それが『a day』の始まるきっかけです。

これは面白いブランドになりそう、このままイメージだけにするにはもったいないと、自分でハーブやアロマを扱う専門店のカスタマーサービスに『私はこういう者で、今回は香りのブランドで思い付いたことがあるので……』ってメールしてみたりとか。でも、全然返信なくて。

そのあとも有名なメーカーにプレゼンしたけれど、相手にされず泣きながら帰ってきたり……とにかく自分で動いて、実際に商品ができるまでは2年ほどの時間がかかってしまいました」

160210turning_hf_10▲a day最初期のイメージスケッチ。デザインだけでなく、販売スケジュールやキャッチフレーズまで書かれている。

福田春美さん:
「どうしてないのかな、なんで誰もやっていないんだろう。それを見つけてわくわく、ざわざわしたら、私は描き出して落ち着きます。ざわつきが形になって『これがあったほうがいい』って思えたら、誰かが動くのを待たずに自分から動いちゃうんです。

ざわつきにも、楽しいものと、悪いものがありますよね。私は、楽しいざわつきは全部描き出したり、まずは自腹を切ってでもそれと関係する場所に行ったりします。悪いざわつきは『何が悪いか』がわからないから描かないようにしています。

でも、悪いざわつきは自分が向き合いはじめた証拠だから、だいたい数日以内に『何が悪いか』が出てくるはずです。そこを向き合わないでいると、いつまでもだらだらと逃げてしまう。手放すきっかけもなくなるし、人生を濁してしまうと思うんです」

160210turning_hf_8▲福田春美さんの「どうしてないのかな」が形になった「a day」のアイテムたち。福田春美さんは食器やタオル、トイレットペーパーに至るまで「真っ白で揃える」と決めて生活しているからこそ、真っ白なボトルで作りたかったという。

 

解決方法は2つしかない。考えるか、悩むか。

 

福田春美さん:
「ひとつ不思議なのが、ざわつく時って、『始まりのきっかけはそれしかなかった』みたいな状況が意外に多いんですよ。

例えば今なら、私がライフスタイルの仕事をするきっかけになったのは、父親の死と震災の時期があったとわかるのだけど、その当時は嵐の中にいるからきっかけだなんて思えない。

でもそれしかなかった。だから、まずはざわつきに気づくのが大事なんですよね。人はみなさん、胸のざわつきを感じる才能があると私は信じています。ざわざわするだけでまだ漠然と、具体的には何も知らなくても、そこから何かがもう始まっている。

ざわついたら、次に人間ができることは『考える』か『悩む』かしかない。私も30代前半まではそれしかないのを認められない気持ちもあったけれど、恋愛にしても、仕事にしても、何にしても、40代になったら他には方法がないなって考えるようになりました。

人間はたぶん本当に最期まで悩むはず。でも、それを覚悟して、どんな試練がきても『考える』か『悩む』かしかないのだったら、ちゃんと向き合って考えて、解決方法をクリエーションできるほうがいいなって思うんです」

160210turning_hf_11▲仕事、日記、感情のスケッチまで、あらゆることを愛用のツバメノートに残す。見返すことでヒントを得ることも。

福田春美さん:
「40歳も半ばを過ぎてきたら、『うまくいくことを学ぶ必要はない』と思ってきました。なかなか一筋縄ではいかないようなことを、なんでこうなんだろう、どうすればクリアできるんだろうって考えて超えることが、すごく学びになるし、自分を鍛えてくれますよね。

そこから逃げたら止まっちゃうけれど、『しゃーない、やるか!』みたいに動ける人たちが次のものを生み出してきています。周りを見ていても、先輩を見ていても、そう思う。やっぱり私は、開拓が好きなんでしょうね」

 


160210turning_hf_14▲『暮しの手帖』初代編集長の花森安治さんは、福田春美さんが尊敬する一人。モダンで優しいわかりやすさ、そして見通す力が長けていると感じるそう。右に写っているのが『オキーフの家』

 

「次の目標は、ジョージア・オキーフなんです」

そう言って福田春美さんが見せてくれた本が『オキーフの家』でした。オキーフは20世紀を代表するアメリカの女性画家で、42歳でニューヨークを離れ、ニューメキシコ州のアビキューという村に家を構えます。オキーフは荒野に建つ日干しレンガのその家で、家政婦たちと98歳まで暮らし、作品を描き続けたといいます。

オキーフの家は現在、サンタフェにあるジョージア・オキーフ美術館が管理しており、事前予約制での見学が許されています。

福田春美さんは「ざわつくと自腹を切ってでも行く」の言葉通りに、友人と連れたって6時間半をかけてレンタカーを運転し、見に行ったのだとか。使っていた調味料やハーブティの瓶、家具やインテリア、コレクションしていた石など、オキーフが暮らしていた痕跡を体感したそう。

『オキーフの家』に、こんなオキーフの言葉が記されていました。

 

「私には逃避という感覚はないのよ。何を言っているのか、わかる? 私はただ歩き続け、ただ前に進んでいるのよ」

──『オキーフの家』(メディアファクトリー、p,28)

 

福田春美さんに教わった、手放すことのすばらしさと、ざわつきに気づく大切さ。オキーフの言葉に通じる、自分の目で見る覚悟と、体で感じる行動力。

少し先の未来が見えにくい時、今の自分を変えたいと考える時、そっと自分の胸に問いを投げてみたいと思います。僕にはどれが足りないのかと。

(おわり)


ブランディングディレクター・福田春美さん「わたしの転機」インタビュー

前編:20代で着た、水色のステンカラーコートで価値観を手放した

後編:いい仕事は孤独と友達になることから。40代でわかった“向き合うこと”の確かさ

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