【コンディションづくり】料理人・長谷川知子さん編 第2話:毎日をごきげんに過ごすための「食」。野菜と、発酵と、楽しい食卓と。
ライター 本城さつき
写真 衛藤キヨコ
東京郊外の東村山市で和食店「結う食 SASAYA-楽屋(ゆうしょく ささや)」を営む長谷川知子さん。
今回は、長谷川さんの「核」である食を通じてコンディションを整える方法について、お話をうかがいます。
余すところなく食べられて、しかもおいしい野菜ってすごい!
▲ほとんどが、地元・東村山の朝穫れ野菜。
長谷川さんの料理の原点ともいえるのは、野菜。それは、日々の食習慣の中にも根付いています。
「1日のうちでいちばん落ち着いていただける昼ごはんは、野菜を中心にしっかり食べることにしています。お店では出せないような野菜くずを集めて炒めただけでも、おいしいし、ホッとする。体と心のコンディションを整えるために、欠かせない食事です」
料理には、野菜だけでなく、もちろん肉や魚、豆腐、卵なども使いますが、それらはあくまで「野菜をもっとおいしく食べるため」の、いわばサポート的な役回り。やっぱり長谷川さんの料理の主役は、季節の恵みをぎゅっと詰め込んだ旬の野菜なのです。
「20代で料理を仕事にしようと決めた頃、『おいしい』っていったい何だろう、と、考え続けた時期がありました。その時大きな影響を受けたのが、作家で料理研究家の丸元淑生(まるもと よしお)さんの著作です。『食べ物が体に入ってきて、それをおいしいと感じた時に栄養になる』ということが書かれていたのですが、それで『余すところなく食べられて、しかもおいしい野菜ってすごい』と思って。
魚や肉なら、ウロコや骨は残します。でも野菜は、根も葉も茎も花も食べられる。もともと野菜は好きでしたが、ああこれだ、と」
そう目を輝かせて話す長谷川さん。野菜好きな人はたくさんいますが、彼女の情熱は、ただの「好き」とはまったく違う。
自分にはどんな料理ができるか、どんな料理がしたいのかと考え抜いた結果、彼女の頭と体を通って出てきた「確信」のようなものかもしれません。その口調には、野菜が秘めるチカラへの、強い信頼感が表れていました。
新鮮な野菜が当たり前に手に入る環境で、何ができるか?
▲お客様が「庭の木になったから」と持ってきてくださった夏みかん。
「できるだけ地元で穫れたものを使う、ということも大切に考えています。畑から食卓までの距離が短いほど、やっぱり新鮮だし、味にも力がありますから」
畑へ行くことを教わったのは、西荻窪「のらぼう」での修行時代。
「野菜が自然とつながっていることを、畑で初めて実感しました。今、スーパーでは1年中売られている野菜もありますが、本来は育つべき季節にしか育たない。雨が降れば葉や実が土でドロドロになる。台風の風雨で傷つき、売り物にならなくなってしまうこともある。
頭では、野菜は畑で穫れるとわかっていても、実際に行くと、育てることの大変さや、野菜が持つ生命力のすごさを感じます」
東村山に移転してからは、「地元の野菜」に対する感覚が、少し変わったとも。
「世田谷の頃は『地元の野菜』というと『嬉しい』とか『珍しい』という反応も多かったのですが、ここではそれほど珍しくはない。お客様でも、庭で畑をやってらっしゃる方がいらっしゃいますし。そういう、新鮮な野菜が当たり前に手に入る環境で、では何ができるだろうか、と改めて考えています」
10年選手のぬか床で、今日もぬか漬けづくり。
▲お店のメニューにも載せている、ぬか漬け。
昼ごはんにたっぷりと野菜を食べる以外にも、コンディションを整えるための食習慣はありますか? そう尋ねると、即座に帰ってきた答えは「発酵食品」でした。しかも自家製だそう。
「発酵モノが好きなんです。特によく食べるのはぬか漬け。ぬか床は世田谷にお店を開いた時からのものなので、もう10年選手です。
単純においしいだけでなく、体にやさしいのがぬか漬けのいいところで、疲れている時、いくら野菜が好きでも生のサラダはあまりたくさん食べられませんが、ぬか漬けにするとすんなり喉を通ります。
漬けるのは、この時期なら(取材は3月でした)大根、ニンジン、カブ、ジャガイモ、ヤーコン、紫イモ、金柑など。季節ごとにいろいろな野菜とイモ、時には果物も使います。たいていの野菜は漬けますよ」
▲まかないで作る、ぬか漬けの炒めもの。時々メニューに載ることも。
ぬか漬けには、そのまま食べる以外のワザもあります。
「炒めものにすると、さらにたくさん食べられます。すでに塩味がついているので、さっと炒めてコショウだけで味を調え、仕上げにオレガノやローズマリーなどのハーブをふるのが定番。もう少しパンチが欲しい時には、中国のミックススパイス、五香粉(ウーシャンフェン)や、カレー粉でもおいしいですよ」
ぬか漬け炒めが生まれたきっかけは、ふとした思いつき、と長谷川さん。
「前日に半端に余ったぬか漬けを、初めはオイルで和えてサラダにしようと思ったのですが、それなら炒めてもいいかも、とやってみたら大成功。火を通すことで目先が変わって、またおいしく食べられます」
LOVE発酵! 甘酒は季節を問わず飲みます。
▲ほんのり甘い、いい香り。ミキサーにかけてから飲む。
発酵モノでもうひとつ。甘酒も、日々の欠かせない習慣です。
「冬は温めて、夏は炭酸水などで割って、季節を問わず飲んでいます。温かくても冷たくても、ごくごく飲むと、栄養が体中にすーっと染みわたるよう。実際、体調もいいんです」
甘酒は、江戸時代には、実は俳句の夏の季語。滋養をつけて夏バテを防ぐ、栄養ドリンクのような飲み物として飲まれていたとか。長谷川さんの愛飲ぶりは、江戸っ子さながらといえるかもしれません。
極めつきは、楽しく食べること。
▲みるみるうちに1品ができあがる。
最後にもうひとつ、長谷川さんが食を通じてコンディションを整えるために、大切と考えていることがあります。それは、「楽しく食べる」こと。
「子どもたちとゆっくり食卓を囲むことがなかなかできないのですが、お店が休みの月曜日は、必ず家族で一緒に夕ごはんをいただきます。
子どもたちには食べ物の好き嫌いもありますが、無理やり食べさせることはしていません。苦手な食材は、好きな食材に混ぜるとか、カモフラージュしながら、少しずつ。ごはんの時間は、やっぱり楽しくないと嫌だなと思うので」
何を食べるかは、もちろん大切。でも、楽しく食べることは、もしかしたらそれ以上に大切なこと。大好きな家族と食卓を囲むひと時が、長谷川さんのグッドコンディションを支えています。
(つづく)
長谷川知子(結う食 SASAYA-楽屋店主)
埼玉県出身。東京・西荻窪「のらぼう」を経て、2006年4月世田谷区に夫婦で「楽屋」を開く。2014年に東村山市へ移転。地元でその日の朝に収穫された野菜を使って、誰もが安らぐ料理を作り続ける。http://u-sasaya.sakura.ne.jp
ライター 本城さつき
東京都出身。出版社勤務を経て、現在はフリーのライター・編集者。雑誌や書籍でライフスタイル系の記事を手がける。食の分野では、お店の取材、生産者さんの取材を中心に、レシピも少々。食以外では、雑貨、グリーン、旅なども担当している。
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