【訪ねたい部屋】03:「これだ」と思えるものは変わるから。賃貸だからこその家具選び
編集スタッフ 藤波
特集「訪ねたい部屋」は、自分にフィットするインテリアを楽しんでいる方に家づくりのヒントを伺う企画。
都心から電車で20分、1LDKの賃貸アパートに夫婦で暮らす、 “ヒゲさん” と “わたしさん” を訪ねています。
第1話では、10数年のロンドン生活や帰国後の家探しについて、第2話では、部屋づくりの軸やグリーンとの生活について聞きました。
最終話である第3話では、賃貸だからこその家具選びや、もの選びの考え方についてお話を伺います。
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キッチンの収納棚がなかなか見つからず……
二人が入居を決めた後、最初に頭を悩ませたのがキッチン収納でした。
トースターや炊飯器をどこに置こうか、米や乾物や缶詰など食品のストックも兼ねた収納棚が必要だと探したけれど、ちょうどいいものが全然見つからなかったと振り返ります。
ヒゲさん
「二人とも色々とこだわりがあるので、サイズも動線もちょうどよく、見た目も好みで、理想的なデザインの家具には滅多に出会えない、と早々に気がつきました。
納得できないのにその場しのぎで買うよりは、自分たちで作ろうと。そのほうが気が楽なんです。この先引っ越す可能性もあるので、家によって合う家具は変わりますしね。
ロンドン生活でも、既製品や高価な家具は極力買わずに、DIYというほどではないけれど、コンクリートブロックに板を渡して棚にするなど工夫して暮らしていました」
わたしさん
「と言っても、難しいことはしていません。キッチンの収納兼カウンターは、既製品のカラーボックスを2つ使い、ホームセンターで買ってきた板で上面と側面を覆いました。
あとは棚板の数を増やして、色を塗って、家の雰囲気に合うすっきりとした見た目にしただけ。割と簡単な作りになっています」
DIYと聞くと自分には縁遠い感じがしていましたが、カラーボックスを利用するという方法があるとは……目から鱗です。
わたしさん
「大きめに作ったつもりでしたが、収納が足りなくなってきて、ダイニング側にも棚を自作して追加しました。
それでも最近またお皿などが増えて限界を感じていて、今一番見直したいのはキッチン収納ですね。
毎日自炊しますが、便利で格好いい調理グッズを探すのはすごく苦手で。皆さんのアイデアを伺いたいくらいです」
仕事で培った「ないものを作り出す」感覚
話を伺っていて気になったのが、どこからその創作意欲が湧いてくるのかということ。
なければ作る、という姿勢は元々持っていたのでしょうか?
わたしさん
「いえ、実家で暮らしていた頃はそんなことありませんでした。
ロンドンのファッションブランドで働いていた時、ファッションウィークの時期になると、そのシーズンのブランドの世界観を空間全体で表現するため、展示スペースを自分たちでゼロから作り上げるという仕事もしていました。
思えば、『ないものを自分たちで作る』という経験を繰り返したことが、今の創作にも繋がっている気がします。
この住まいは気に入っているけれどずっと住むわけではないと思うので、ひとまず作って、足りなくなったら足して、という家具との付き合い方が合っているのかもしれません」
心からいいと思うものを、すこしずつ揃えていく
窓の横の明るいダイニングスペースには、足場板をリサイクルした大きなテーブルが。こちらは『KANADEMONO』のプロダクトだそうです。
奥のベンチは『CRASH GATE』のもの、黒いダイニングチェアはふらっと入った中古家具屋で見つけた『Cassina』、ワークチェアは『ITOKI』のバーテブラです。
ヒゲさん
「入居時にまずダイニングテーブルとベンチは買いましたが、椅子は時間をかけて選んでいます。ワークチェアは、コロナ禍で在宅ワークになったことがきっかけで買い足しました。
世の中には良いプロダクトがたくさんありますが、その中で本当に好きと思えるものにはなかなか出会えないです。
何色のどんな椅子がほしいとか、ブランドとか、そうやって探すことはあまりないんです。
でも、実はつい先日『CIBONE』を訪れた時にすごくいい椅子に出会ってしまいまして……今到着を楽しみに待っているところなんですよ」
そう言って、届く予定の椅子の写真を嬉しそうに見せてくれたヒゲさん。
「あれは本当に一目惚れだったね〜」と頷き合うお二人は、とても満足そうな表情です。
昔、だれかが、どこかで
既製品の家具はほとんどない一方で、不思議な形の古道具やかわいらしいオブジェが家じゅうに並んでいます。
こういったアイテムはどこで購入しているのでしょうか。
わたしさん
「ロンドンにいた時は各地の蚤の市で、日本に帰ってきてからも大江戸骨董市をはじめとした蚤の市や、たまたま訪れたリサイクルショップで買うことが多いですね。
綺麗に整然とお店に並んでいるものよりも、自分で掘り出す感覚が好きなんだと思います。
昔、誰かが、どこかで……そういう匿名性の高い、なんだかよく分からないものに惹かれます」
リビングにある飾り棚の一等地に額装されていたのは、なんと昭和以前の小学校で出された家庭科の課題。
ニットを作る授業だったのか、紙に3種類の編み方が練習されています。
ヒゲさん
「学校の課題が、何十年後かに誰かの家で立派に額装して飾られているなんて、きっとこの課題を提出した子は想像もつかないですよね。
そういう時空を超えたものがここにあるのに、ぐっとくるのかもしれません。
よく分からないものと、たまにアクセントでデザインされた既製品と。我が家のインテリアはそんなバランスだと思います」
気がつけば、お気に入りの場所に。
デザインされたプロダクトと、なんだか分からないけれど素敵なものと。
絶妙なバランスを保つために、何か買い物にルールを設けているのか、最後に聞いてみました。
わたしさん
「ルールは……ないですね。どこに置こうと思って買うことも、まずないです。
好きなものを見つける勘みたいなものは、なんでか信じているんです」
ヒゲさん
「全く同感です。それが心から気に入ったものであれば、置く場所は作ればいい、というふうに考えています。
ものが増えると、そのタイミングでむしろ配置だったり収納だったりがアップデートされる感覚があります」
ご自身のこと、インテリアのこと、終始チャーミングにお話ししてくださったヒゲさんとわたしさん。将来的には、都内と自然豊かな場所との二拠点生活に憧れているそう。
理想そのものの我が家に出会うことは難しくても。その時々に合う形に少しずつアップデートしていって。
もしかすると、私は今の家をよくしようと急ぎすぎていたのかもしれません。もう少し長い目で、気楽にインテリアを楽しんでみたいなと思いました。
【写真】メグミ
もくじ
ヒゲとわたし
デザイナー夫婦のふたり暮らしの日常をSNSなどで発信中。YouTubeは@hige_to_watashi、Instagramは@204_apartmentから。
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