
昨年、当店のオリジナルドキュメンタリー番組「あさってのモノサシ」に出演いただいた、料理家の高山なおみさん。
2002年から20年以上にわたって綴られてきた日記エッセイ『日々ごはん』シリーズの最終巻となる『光る海を見ていたら 日々ごはん2022 1→12』(アノニマ・スタジオ)が発売され、青山ブックセンター本店で開催された発売記念トークイベントに、長年の読者でもある店長・佐藤友子が聞き手としてお招きいただきました。
会場に集まったのは、約100名の読者のみなさん。出会いのきっかけから、20年以上続いた日記にひと区切りをつけて「終える」ということ、そして日記を書くことで作られてきた世界のことまで。1時間半のおしゃべりは、終始あたたかい空気に包まれていました。
この記事では、当日のトークの一部をご紹介します。
出会いのきっかけ
高山
「佐藤さんがインスタグラムで私の本『暦レシピ』について投稿してくださったのをみて、どうして読み続けてくださっているんだろうということが気になって、お会いしたいと思ったんです」
佐藤
「いつか高山さんにお会いできたらと思っていましたが、目標にするのもおこがましい、夢のようなことだったんです。
ですから、お声がけいただいて本当に驚きました。きっとお客さまにも私と同じような読者の方がいるはず、もしご存知でなくともぜひ高山さんをご紹介したいという思いで、私たちの番組である『あさってのモノサシ』へ出演いただくことがきまりました。

正直『動画はダメだよと言われるかな』と思っていたのに、快く受けてくださっただけでなく、『じゃあ一緒に料理しましょう』とご提案までいただいて。ええっ!と驚いたのを覚えています」
最終巻について──続けること、やめること

佐藤
「『日々ごはん』が最終巻だと知ったときは、ひたすら寂しかったです。29歳から読み続けてきて、この間に自分は会社を作り、子どもを産み、環境がどんなに変化しても、この本を読むときだけは変わらない自分に帰れたんです。自分を見失いそうな時に帰れる、そういう日記でした」
高山
「実は一度、『日々ごはん』シリーズの12巻目でやめたことがあるんです。買ってくださる方の本棚がいっぱいになっちゃうな、申し訳ないなと思って。それなのにホームページには書きたくてしょうがない。だったら書けばいいのにって、もう一回やりたくなって、『帰ってきたた日々ごはん』として再開しました。
私は同じことを続けるのが苦手で、自分の感覚しか信用できないんです。それなのに『日々ごはん』は続けられた。それで、続けることも大事なのだけど、いちど立ち止まって、やめることも大事だなって思ったんです」
自分の生きたい世界を、日記の中に作る
高山
「最近分かったことがあって。私は自分の生きたい世界、生活したい世界を、日記の中に作っているんだなって。だから『日々ごはん』の中はきれいなんですよ。登場人物はみんな、その人なりの理由があって、精一杯生きている。だれも怠けていないんです。
怠けること自体は、悪いことじゃない。私が言う『怠ける』というのは、その人が自分に対して怠けている、ということ。自分の感受性にふたをし、我慢して生きていて、その反動で人を傷つけたりしてしまう。でも、『日々ごはん』の世界には、そういう人は誰も出てこない」
佐藤
「高山さんは、日記を書くことで、なんてことない毎日が本当に光っている尊いものなんだということを、私に教えてくれていた気がします。だから私は、その世界の住人になりたかったんですね」
高山
「私は『こんなとき、自分はこう感じるのか』と、人体実験のような気持ちで書いているところがあります。
若い頃、撮影が終わって、みんなでごはんを食べた帰り道にね、朝4時くらいだったと思うんですけど。自転車に乗ったまま、自動販売機でジャスミン茶を買おうとして、そのままバーンと後ろにこけたんです。
それで、空を見上げながら『なんて幸せなんだろう』と泣いたことがあって。体って、脳みそって、測り知れない。そういう発見をずっと、延々と書いてきたんです。年を取ったら、年を取ったなりの面白さを、忘れずに書いてきました」
佐藤
「高山さんの書かれる言葉って、『体言葉』というか。頭を通って出てきたというより、体と心からそのまま出てきている。だから読者の自分にドンッと響いたり、読んでいるこちらの体まで癒される、みたいなことが不思議と起こるんじゃないかと思っているんです」
高山
「そうですか、ありがとうございます。私は子どもの時に、嘘をつかないと決めたんです。吃音がひどかったので、小学校に入った頃は、うまく話せなくて、先生に当てられて本を読もうとすると、声が出ない。息を止めてしまうから、顔が真っ白になって倒れそうになるような子でした。
それが小学四年生のとき、国語の授業で、確か椋鳩十さんだったと思うけれど、アカという犬の物語を勉強していて、先生が、『アカはどんな犬でしたか』と質問したんです。
私はその犬のことが大好きで、くっきりと姿が見えていたので、どうしてもみんなに教えたいと思って、はじめて手を上げました。毛の色やゴワゴワする手触りまで、見えているままをそのまま伝えたんです。そしたら、けっこうちゃんと言えた!それが自信になって、『本当のことを言えばいいんだ』とわかった。
だから今も、感じたままをどうやって言葉にできるのか、いつも探しています。書けないなら、書かなくてもいい。その世界を表すために、表現の仕方に工夫をすることはあるけれど、それは嘘ではないと思っています」
イベントを終えて──佐藤の感想

イベントの翌日、佐藤は自身のInstagramにこんな感想を綴りました。一部をご紹介します。
会場は100人ほどの方達が集まられていたのですが、最初から最後まで、本当に終始あたたかい雰囲気、空気が流れていました。
私は長年の読者を代表するような気持ちで、壇上とは言え、できるだけ素直な気持ちと言葉で、高山さんにここまでの人生の中で私にとって『日々ごはん』とはどんな存在だったのか?をお伝えしたいと思いました。
出てきた言葉は「私は20年間、日々ごはんの世界の住人でした」です。
20代終わりから今まで。自分の人生や周囲の環境がどんなに変化しようともこの日記を読むと、変わらず愛している世界、こんな視点で捉えられたらと願っている世界があり「ただいま」と思えたのだと思います。
そうか、日記は誰かの助けになる世界を形作ることもあるのか、と。
そして昨日の高山さんとのおしゃべりを経て、私たちの仕事も、「北欧、暮らしの道具店」も誰かにとってのそういう場所であれたらいいなと心から願ったりもしました。
高山さんが『日々ごはん』を通じて長年つくってこられた世界と、「北欧、暮らしの道具店」の世界が、ほんの数時間だけ重なり合ったような、そんな一日となりました。
書籍のご紹介
2002年からの日記が続いてきた『日々ごはん』シリーズは、本書でいったんのおしまい。高山さんが暮らす神戸での日々を綴った日記とともに、2022年の1年間の日記と各月のおまけレシピ、高山さんが撮影した写真のアルバム、そして巻末に同年11月に実施された元パートナーのスイセイさんとの特別対談も収録されています。
「あさってのモノサシ」高山なおみさん出演回もぜひ
高山さんが神戸のご自宅に佐藤を招き、一緒に料理をしながら語り合った「あさってのモノサシ」高山なおみさん出演回。まだご覧になっていない方は、この機会にぜひご覧ください。
