【ふたりのチームワーク】第2話:里帰りをせずに出産。ふたりで取った「育児休暇」が家族を強くしてくれた
編集スタッフ 塩川
写真 米谷享
新連載「ふたりのチームワーク」では、自分以外の「誰か」と共に、心地よく暮らし働くヒントをお届けします。
1話目に引き続き、夫婦共にフォトグラファーの、大森忠明(おおもり ただあき)さんと砂原文(すなはら あや)さんにお話を伺いました。
おふたりには2013年に、娘の青(あおい)ちゃんが生まれます。家族が増えたとき、チームにどんな変化が訪れたのでしょうか?
フリーランスだけど、ふたりでとった「育児休暇」
お互いフリーランスのフォトグラファーとして活躍する大森さんと砂原さんは、出産を機にふたりで育児休暇をとりました。
フリーだからこその不安もあったと思いますが、それ以上に家族の絆を深くする、大切な時間を過ごしたようです。
「30代後半になってから子供を授かったので、ふたりで話し合い、里帰りせずに出産することを決めたんです。
大森が『せっかくだから、僕も1ヶ月ぐらい仕事を休もうか』と話してくれて、ふたりして仕事をしないのは不安もありましたが、新しい命を迎えるワクワクの方が強く、夫婦で新生児との暮らしを楽しむことにしました。
わたしは出産を若干甘くみていまして、わりとすぐに動けるだろうと思っていました。ですが『産後、床上げまでは3週間』と一般的に言われているのは本当で、ほとんど寝たきりの状態。まったく体を動かせなくて、自分でもびっくりしました」
普段の家事分担は、洗濯は大森さん、料理は砂原さんの担当でした。ですがこの期間、大森さんはすべての家事をこなしてくれたそう。
「友人から教わった『白ごはん.com 古きよき家庭料理実用書』(冨田 唯介/バジリコ出版)を教科書にして、煮魚やひじきなど和食に挑戦しました。
砂原が助産院に行くときは、車で一緒に出かけ、待ち時間に喫茶店でコーヒーを飲むのが定番コース。
人が淹れてくれたコーヒーは美味しいなぁ〜。しみじみしながら『今日は何を作ろう!』と、この本を読む時間が、いい息抜きだったんです」
▲「時間があったから」と、大森さんは2時間かけて、アルミの落としぶたを作っていたことも。男性ならではの料理の楽しみがあったようです。
産後うつを乗り越えて、青ちゃんが家族を強くしてくれた
▲砂原さんが妊娠中から「撮りたい」と願っていた大切な1枚。出産直後で意識が朦朧とする中、大森さんからカメラを渡してもらい、必死にピントを合わせ瞬間を捉えました。
出産後、体力的にも精神的にも「ボロボロだった」と話す砂原さん。「今思えば、産後うつ状態だったのかも」と続けます。
「ちょっとしたことで涙が出るんです。わたしはこのとき耳が敏感になってしまい、冷蔵庫の開け閉めの音で『うわ〜、やめて〜』と泣きながら訴えていました。
心のどこかで『これはいつもの自分じゃない……』と思いながらも、そんな自分を止められないのが辛くて、メソメソしながら小さくなっていました」
そのとき大森さんは「弱っている妻に、何も言えない」と感じていたそうです。
「大森のことはカメラマンとして尊敬していて、写真に対しては信頼感を持っていました。けれど後輩だったということもあり、家の事になると、どこかで頼りない部分があったんです。
彼は元々ポジティブな性格なんですが、子供が産まれてからはますます動じなくなって、安定感が出てきたというか……すごく逞しくなったように思えました。
新しい命は目的をもって生まれてくるのだとすれば、娘は大森を助けるために、わたしたちの元に来てくれたのかなと感じています」
大森さんも砂原さんも「すごくいい時間だった」と話す、親子3人でじっくり過ごした約1ヶ月の育児休暇。
ふたりで必死に乗り越えたからこそ、家族の絆がより深いものに変化していきました。
子供がいても、スケジュールは全て共有しない理由とは?
「今でも大森がどんな予定なのかとか、何を考えているかとか、あまり知りたいと思わないんです。
教科書的に言えば子供の送り迎えがあるから、スケジュールをすべて共有した方がいいのは分ります。でも、そこまで知りたくないんですよね。
お互いずっと変わらない共通点はそこで、自分が何かに縛られたりするのが嫌だから、相手にも強要しない。
自由でいたいから、ふたりともフリーランスを選んでいるのだと思います」
「前日や当日の朝に『青ちゃんのお迎え行ける?』って言われて『家で作業してるから行けるけど?』で、とくに不便はないんです」
自分の名前でフリーランスとして仕事をすること。そのためには自分らしさを突き詰めていく作業も、きっと大切なこと。
フリーランスは自由に聞こえるかもしれません。ですがその裏側には、自分に対する責任や自信が必要になってきます。話を聞けば聞くほど、おふたりの仕事に対する、強いプロ意識を感じました。
家族としても、いち職業人としても互いを尊敬しているからこそ「わたしはわたし、あなたはあなた」と思えるのかもしれません。
夫婦は全部「一緒」じゃなくていい
夫婦ってなんだろう。ときどき疑問に思うことがあります。わたしは結婚して価値観の違いから、少し自由が無くなったように感じていました。
そんなことをポツリと言うと「自分が変わると、相手も変わるから大丈夫」と口を揃えて話します。しかしそれは「相手を自分色に染めたい」ではないようです。
おふたりは大げんかや出産という人生の一大事を、ともに乗り越えました。向き合うことでお互いを理解し、ふたりの価値観が近づいていくのでしょう。
知り合って20年、結婚して13年。人生の少し先をいく大森さんと砂原さんの言葉は心強く「相手の根っこを理解すれば、全てを知らなくても信頼することはできる」と教わりました。
(おわり)
もくじ
大森忠明・砂原文
(フォトグラファー)
お互いフリーのフォトグラファーとして、暮らしまわりの雑誌や書籍で活躍。3歳の娘と猫2匹と暮らす。当店のリトルプレス『暮らしノオト vol.21』では、砂原さんのインタビューを掲載中。撮影は大森さんにご協力いただきました。
http://laaufilm.com/
▽大森忠明さん・砂原文さんが撮影した書籍は、こちらからご覧いただけます
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