【梅があれば大丈夫】第3話:病気知らずの96歳!すこやかな暮らしを支える「梅養生」とは
編集スタッフ 寿山
梅仕事を続けて76年、大ベテランの藤巻あつこさんに、全3話で梅の魅力を教わります。
第2話では、藤巻さんが初心者の方にぜひ薦めたいと話す「ジップロックの梅干し」レシピをお届けしました。
最終話となる今回は、藤巻さんの梅の楽しみ方を詳しく伺います。
梅が苦手な人でも食べられる!?「梅おかかおむすび」
梅干しはそのまま食べても美味しいけれど、ご飯との相性も抜群と話す藤巻さん。そんな藤巻さんの定番メニューを教えていただきました。
藤巻さん:
「ちょっと食欲がないと感じる日も、白ごはんに梅干しとかつお節、それに醤油を回しかけて作る『梅おかかおむすび』は、いくらでも食べられるから不思議よ。
梅が苦手という方も『これなら食べられる』と喜んで食べてくださることが多いです。
おかずがなくても満足できますから、さっとお昼を済ませたいときは、いつもこれとお漬物を食べております」
▲冷めたら茶碗におむすびを入れてお茶を注ぎ、梅茶づけにしても美味しいそう
料理にも健康管理にも欠かせない、万能な「梅酢」
▲毎年大量の梅干しを漬けるので、梅酢も大量に。すべて捨てずに料理や飲料として使い切る
料理研究家として長年活躍されている藤巻さんですが、実は肉魚が苦手なのだそう。
それでも梅酢で生臭さを消すことで、美味しく食べられるといいます。
藤巻さん:
「魚の切り身は、10〜20分くらい梅酢に漬けて焼くだけで、うそのように生臭さが消えて、ほど良い塩加減に仕上がりますよ。
※20分以上長く漬けると、塩辛くなるので注意が必要
梅酢をかけるだけで、レバーの臭みやロース肉の脂っぽさもすっかり消えて、とても食べやすくなるから、助かっております」
さらにこれからの季節は、熱中症の予防に「梅酢ドリンク」がおすすめと藤巻さん。
▲好みで濃さを調節して飲む
藤巻さん:
「梅酢を水で薄めて、水筒などに入れて持ち歩くといいですよ。子どもに飲ませるなら、お砂糖もちょっと入れてあげると飲みやすくなります」
殺菌作用や消炎作用があると言われる「梅酢」は、昔から貴重な民間薬として日本人に親しまれてきたもの。
喉が痛いと感じたときは、梅酢をぬるま湯で薄めてうがいをするといいます。
疲れたときの「梅スープ」
▲醤油漬けには、「ヒガシマル醤油」の減塩タイプのものがおすすめと藤巻さん
梅仕事をがんばりすぎて疲れたときは、「梅スープ」を飲むという藤巻さん。
スープと言っても、梅干しを塩抜き(ひと晩水につける)して醤油に漬けた「梅の醤油漬け」に、熱湯を注ぐだけというシンプルなもの。
体調によって塩加減はまちまち。味見しながら醤油の量で調整するといいそう。
藤巻さん:
「すごく疲れた日の夜に、自然と思いついたものなの。梅に含まれるクエン酸や塩分が疲労回復にいいのでしょう。これを飲んで寝たら、翌朝すっかり元気になります」
そんなご自身の経験から、友人や隣人にも薦めたところ、同じように元気になったと嬉しそうに話してくださいました。
つらいときも、悲しいときも、梅仕事があったから乗り切ってこられた
大正10年生まれの藤巻さんは、戦争や震災、戦後の過酷な時代をたくましく生き抜いてこられた世代です。
どんなにつらいときも、悲しいときも、梅仕事に没頭することで乗り切ってこられたような気がするといいます。
藤巻さん:
「若いときの苦労なんて、たしたことはないのだけれど。どんな大変なことも、無駄なことは一つもなかったのでしょう。
わたくしは鈍感だから、なんでもいいように考えて。たとえ辛抱したとしても、それも自分のためだと思ってね。我慢があったからこそ、強くなれた気がいたします」
藤巻さん:
「梅と長年向き合っていると、つくづく梅は “生きもの” なんだと感じます。
生きものだから手が抜けないし、こちらの都合にも合わせてくれません。真摯に向き合わないと、いうことはきいてくれない。だからこそ面白く、好奇心を掻きたてる。
最近は、梅も人も人生も「気持ち」次第なんだと思いますの。どれだけ心をかけられたか。それがすべてな気がしております」
▲いつもたくさんのお弟子さんに囲まれています
藤巻さんがこしらえる、ふくよかで香り高い梅干しは、そのお人柄と心そのもの。
多くの人々を惹きつけてやまないチャーミングなお方でした。
私も願わくば、誰かのお腹を、心を満たせるものを生み出したい。藤巻さんと同じ世界は見えなくても、近づきたい。そんな光を得た取材となりました。
時間はかかるかもしれないけれど、梅仕事に、修行に励むとしましょう。
(おわり)
【写真】寺澤太郎
もくじ
藤巻あつこ(料理研究家)
大正10年、東京生まれ。梅に魅せられて76年。その間梅干しを漬けなかった年は一度もないという、梅仕事の第一人者。毎年大量の梅を用いて、梅の研究に勤しむ。梅をつかった料理にも造形が深く、梅干し作り・梅レシピの普及のため、生涯をかける。
▽藤巻あつこさんの本はこちらから!
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