【フィットする暮らし】 第3話:「時間をかけない」と「手間をかける」は両立できる。ワタナベマキさんのこだわりとは?
編集スタッフ 齋藤
シリーズ「フィットする暮らしのつくり方」vol.15では、スタッフでもファンが多い料理家ワタナベマキさんのお宅に伺っています。
第1話と第2話を通し、料理家になる以前のことや、もの選びの視点についてご紹介してきました。
そして第3話でお届けするのは、ワタナベさんの「こだわり」について。
ふわり優しい口調で、いつも明るく朗らかなワタナベさん。失敗もすぐ忘れてしまうから、悩むこともあまりないといいます。
でもお話を聞く中で、そんなワタナベさんの口調が強くストレートに響いた瞬間がありました。わたしはそこに、料理家として譲れないものが宿っているように感じたのです。
「手間」は愛情。ぜったいかけた方が良い。
ワタナベさん:
「最近レシピを提案する時、なるべく時間をかけずにつくれるものを求められることが増えました。みなさん忙しいと思うので、もちろん気持ちはわかります。
でもできることなら、『手間』はかけた方が良い。でないとおいしくなりません」
ワタナベさん:
「どうしたらおいしくなるか考えること、それをわたしは愛情だと思います。なので『手間』とは愛情のこと。
でも難しく考えることではないし、必ずしもすごい時間のかかることでもありません。
例えばお肉に下味をつけておく、調理する前に冷蔵庫から出して常温にしておく、そういうことでいいんです。でも、した方が絶対においしくなる。
素材にとって無理なやり方をしてしまうと、大切なものが損なわれてしまうように思うんです」
子どもといる時間が大切。だから、仕事の仕方も変えていった。
無理をさせず、しかるべき「手間」を掛ける。そのこだわりは、ワタナベさんの働き方や子育ての仕方にも表れているように思いました。
ワタナベさん:
「わたしが出産をしたのは31歳の時。すでに料理の仕事をはじめていて、子どもをどこかに預けなければなりませんでした。でも保育園はどこもいっぱいで、入れなかったんです。
小学校に入るまでは一時保育とベビーシッターと母に協力をしてもらい、なんとか仕事をしていました。
だけどそもそも幼い我が子をおいて仕事をすること自体が、わたしにとってすごくジレンマだったんです。なのでなるべく仕事をセーブするように。
わたしはフリーで仕事をしているので、子どもの成長に合わせて働き方も変えていこうと思っています」
ワタナベさん:
「まずデザイナー時代は毎日終電で帰っていましたが、料理家になり出産をしてからは朝型の生活に切り替えました。
さらに時間の使い方が変わったのが、息子が小学校に入った時。
子どもが3時頃には帰ってくるので、その時間までにはなるべく仕事を終えるようにしたんです。そして夏休みも、子どもに合わせて休むようになりました」
ムリなく寄り添うような生き方が、暮らしにもたらしたもの。
ワタナベさん:
「一見すると仕事にあてられる時間は減ったように見えますが、効率はあがったと感じています。わたしは夜が苦手なので、朝10分でできることは夜1時間かかってしまう。
そして息子の学校の予定に合わせて集中的に仕事をして、まとめて一気に休む。その方が調子が整うような気がします。
レシピも、しっかり休みをとって旅行にでも行ったときの方が浮かんでくるんです」
「手間」と聞くと、それだけでハードルが高そうな気がしてしまい、少し「面倒」と感じてしまうように思います。忙しいし時間もないから、できればラクな方が良い。ワタナベさんのようなライフスタイルは理想だけれど、会社員のわたしにはちょっと難しい気もしてしまうのです。
けれど「面倒」の正体を紐解いていくと、どこかで「無理」をしようとしているからそう感じるのかもしれません。
わたしの場合、例えば時間もないのに見栄を張って何品もご飯を作ろうとしたり、自分ではなく相手の時間を変えられないかとがんばってしまったり。
ただワタナベさんの話を聞いていると、「手間」をかけることは決して「無理」をすることではないと感じることができました。
時間がないのであれば、できるだけシンプルな料理を選ぶ。そして必要な「手間」はしっかりかけるという選択も、あるのかもしれません。
つづく第4話では、そうしたワタナベさんのこだわりが作り出す「レシピ」について伺いました。
祖母と母と暮らすなかで、自然と料理が好きになったというワタナベさん。そこにはワタナベさんが受け継いだもの、そして今の生活で必要なもの、未来に伝えていきたいものが、ぎゅっと詰まっているように感じました。
誰にとっても身近な料理というものと、ワタナベさんはどのような想いで向き合っているのでしょうか。最終話でじっくりお届けします。
(つづく)
【写真】木村文平
もくじ
ワタナベマキ
料理家。雑誌、広告などで旬の食材を使用した季節感ある料理を提案している。祖母から受け継いだ保存食を元に、今の時代にも作りやすさとやさしい味付けで何度も作りたくなる味が人気。
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