【スタッフコラム】大人になるにつれ、「省エネ」でいるのが当たり前になっていた。
編集スタッフ 田中
美容師の「卵」と出会って。
「あの、あの、わたしに髪を切らせてくれませんか」
ある日、混雑する駅周辺を歩いていて突然声をかけられました。よくあるカットモデルのお誘いです。まだ美容師の卵の若者に、お代は結構ですから練習台になってください、と頼まれるアレです。
いつもは早足で素通りするタイプですが、なぜか流れに身を任せて引き受けてしまいました。けれど、直感で決めてよかった!その時の自分にとって忘れられない出来事になったからです。
何度も、何度もやり直し。省エネじゃ夢はかなわない。
▲初めて訪れた街で勇気を出して入った純喫茶。チャレンジしてよかった場所。
翌日、指定された時間に美容室にいくと、ピリピリとした空気。美容師の卵たちがそれぞれのカットモデルさんを一斉に集めて、洗髪、カットを始めます。
カット前に先輩美容師へプレゼン。「こういう髪型にします、なぜなら…….」と話し、先輩はわたしの髪を触って「こちらの方はこういうクセがあるから、気をつけて」と瞬時に見抜きアドバイス。
いざ、ストップウォッチを抱えて、美容師の卵の彼女はカットを始めました。
カット中も、普通の美容院にあるような和やかな雑談はなし。必死の形相の彼女。先輩たちは、その様子を遠巻きにながめてチェック。
タイムアップしてから、先輩が3人代わる代わる訪れて、わたしの髪を触りながら、講評をしていきます。その細かさたるや!
先輩:「いつも、右が長くなっちゃうの、わかってる? 直してね」
卵ちゃん:「ハイッ」
先輩:「前髪の生え方にくせがあるから、こっちはハサミをこう入れないとだめだよ」
卵ちゃん:「ハイッ」
書き連ねると自分も苦しいのでここらでやめますが、その厳しい世界を目の当たりにして、プロってすごいなあと改めて思いました。
大人になるにつれ、「省エネで達成」したほうがカッコイイって思ってた。
▲先日ハイクした、西伊豆の大瀬崎。これは御神木。
さいしょは「人助け」のつもりだったんです。だけど、最終的に助けられた気がします。
何度も何度も繰り返して、やり直し。先輩はそれをチラリチラリと見ながら、声をかけるタイミングを伺っていました。決して意地悪でぶっきらぼうなアドバイスをしているんじゃない、あたたかな声。
やり直しが多かったことで悲壮感が漂うかと思いきや、彼女は負けん気の強い表情で「仕上げ」をしっかりしてくれました。
目的地には、効率よく早めに、労力は少しで着きたい。
大人になるにつれて、「省エネで達成」したほうがカッコイイなんて思ってしまっていました。時間には限りがあるから、そうあらねば! と思い込んでいたところもあります。
けど、省エネじゃダメなことだってある。自分の手足をつかって、何度も何度もやり直し。その時間がもどかしいし、投げ出したくなることだってあるけれど、頭と同じくらい体も使った方がいいな、と。最近の自分が山登りをしたいと感じた理由がやっとわかりました。
さっぱりした頭をカキカキ、あの子もがんばってるだろうな、と思いながら、日々過ごしています。
▲同じく、西伊豆の大瀬崎海岸。向こう岸には富士山が。体を動かすのが好きな近頃です。
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